第21話 かわいい



りおの手が、私の髪を撫でる。


優しく。


ゆっくりと。


「かわいい」


その言葉が、耳に染み込む。


「のぞみちゃん、本当にかわいい」


何度も、何度も。


褒められる。


でも、嬉しくない。


怖い。


りおの顔が、近づいてくる。


「あ…」


言葉が出ない。


そして。


唇が、重なった。


柔らかい。


温かい。


りおの唇。


ファンなら誰もが憧れる。


でも、私は。


「んっ…」


抵抗しようとする。


体を引こうとする。


でも。


りおの手が、私の頭を掴む。


強い。


思った以上に、強い。


逃げられない。


そして。


舌が、入ってくる。


「んっ…んっ…」


りおの舌が、私の口の中で動く。


絡みつく。


抵抗できない。


力が、入らない。


女の体は、力が弱い。


りおの方が、ずっと強い。


長い、長いキス。


息ができない。


苦しい。


ようやく、唇が離れた。


「はあ…はあ…」


荒い息。


私の唇は、濡れている。


りおの唾液で。


「美味しかった」


りおが、にっこりと笑う。


私は、ただ呆然としていた。


「ねえ、のぞみちゃん」


「は、はい…」


「スペシャルチャンス、あげる」


「スペシャル…チャンス…?」


「うん」


りおが、楽しそうに言う。


「これからね、クイズを出すの」


「クイズ…?」


「そう。それをクリアすると」


りおが、私の耳元で囁く。


「1時間、早く元に戻れるよ」


「1時間…」


「合計24回、チャンスがあるの」


24回。


24時間。


つまり、全部クリアすれば。


「全部正解したら、1日早く戻れる…?」


「そういうこと」


りおが、ウインクする。


「いつ出すかは、ひ、み、つ」


「いつって…」


「その時になったら、わかるよ」


りおが、にっこりと笑う。


「内容も、その時に伝えるから」


「内容…」


「色々だよ。簡単なのもあれば、難しいのもある」


りおが、私の顎を持ち上げる。


目と目が合う。


「やる?やらない?どーする?のぞみちゃん」


選択肢。


でも、選択肢じゃない。


やるしかない。


1時間でも早く、この状況から抜け出したい。


「やります」


「よし!いい子」


りおが、私の頭を撫でる。


「じゃあ、早速」


「え、今?」


「うん」


りおが、私の前に座る。


「第1回、スペシャルチャンス」


真剣な顔。


でも、どこか楽しそう。


「問題」


りおが、指を3本立てる。


「私の誕生日は?」


誕生日。


知ってる。


ファンなら、当然知ってる。


「選択肢は3つ」


りおが、指を折りながら言う。


「1番、12月29日」


今日だ。


「2番、1月19日」


これだ。


「3番、2月14日」


バレンタインデー。


「さあ、どーれだ!」


りおが、にっこりと笑う。


「ファンなら、簡単でしょ?」


簡単だ。


知ってる。


何度も、お祝いのメッセージを送った。


SNSで、トレンド入りするのを見た。


「2番」


私は、即答した。


「1月19日」


りおの顔が、パッと明るくなる。


「正解!」


拍手される。


「さすが、のぞみちゃん。ファン歴3年は伊達じゃないね」


「ありがとう…ございます…」


「はい、これで1時間減ったよ」


りおが、スマホを取り出す。


タイマーらしきものを操作している。


「残り、62時間15分」


1時間減った。


でも、まだ62時間以上ある。


長い。


「次のチャンスは、いつかなー?」


りおが、意味深に笑う。


「楽しみにしててね」


私は、小さく頷いた。


1時間でも早く。


1分でも早く。


元に戻りたい。


そのために、私は。


りおのゲームに、付き合うしかなかった。


「じゃあ、続き、しよっか」


りおが、また近づいてくる。


「続き…?」


「うん。さっきの」


りおの手が、また私の体に触れる。


長い夜は、まだ終わらない。


私の試練は、始まったばかりだった。

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