第13話 目が覚めると
意識がゆっくりと戻ってくる。
頭が、何か柔らかいものの上にある。
枕?
いや、違う。
温かい。
そして、いい匂いがする。
甘い香り。
シャンプー?それとも香水?
薄目を開ける。
視界がぼやけている。
でも、何かが見える。
ピンク色。
浴衣?
そして、顔。
りおの顔。
めちゃくちゃ近い。
「あ、気がついた」
りおの声。
優しい声。
「田中さん、大丈夫?」
は?
え?
状況が、飲み込めない。
「う…」
声を出そうとする。
喉が、少し痛い。
そして、気づく。
これ。
膝枕だ。
りおの、膝枕。
「っ!」
慌てて上半身を起こす。
頭がクラッとする。
「ゆっくりでいいよ」
りおが肩を支えてくれる。
「す、すみません…」
「大丈夫。トイレで倒れてたから、びっくりしちゃった」
倒れてた。
そうだ。
立ちくらみがして。
意識が飛んで。
「すみません、心配かけて…」
謝りながら、体を起こす。
ソファに座る。
りおも隣に座る。
「無理しないでね。疲れてたんだよ、きっと」
「はい…」
深呼吸する。
落ち着け。
でも。
何か、違和感がある。
体が、重い?
いや、違う。
何だろう。
この感覚。
胸のあたりに、何かある。
重たい。
え?
手を当ててみる。
柔らかい。
は?
慌てて見下ろす。
浴衣が、少しはだけている。
そして。
そこには。
胸。
胸がある。
女性の。
膨らみ。
「え…?」
声が出ない。
いや、出た声が。
高い。
女性の声。
「え、え、え?」
パニックになる。
手で触る。
本物だ。
柔らかい。
そして、重い。
下を見る。
浴衣の裾。
太もも。
細い。
白い。
女性の脚。
そして、股間。
盛り上がりが。
ない。
何もない。
平らだ。
いや、平らすぎる。
「え…嘘…」
声が震える。
高い声で。
手が震える。
細い手で。
「これ…」
現実を受け入れられない。
でも、目の前の現実は変わらない。
俺の体が。
女になっている。
「田中さん、大丈夫?」
りおが心配そうに覗き込んでくる。
「り、りおさん…俺…俺…」
「うん?」
「俺の体が…」
りおは、優しく微笑んだ。
「ああ、そうだね」
そう言って、りおは続けた。
「説明するね。田中さん、今、女の子になってるの」
女の子。
俺が。
女の子。
頭が真っ白になる。
「な、なんで…」
「それが、今回の特別企画なの」
りおが、にこやかに言う。
「特別企画…?」
「うん。くじに書いてあった『新しい物語』って、これのことなんだ」
新しい物語。
TS。
まさか。
「3日間、田中さんには女の子として過ごしてもらうの」
りおの言葉が、耳に入ってくる。
でも、理解が追いつかない。
「え、でも、どうやって…」
「それは企業秘密」
りおがウインクする。
「大丈夫。3日後には元に戻るから」
元に戻る。
3日後。
それまで。
俺は。
女の子。
鏡を見たい。
いや、見たくない。
でも、見なきゃ。
「あの…鏡…」
「あ、見る?」
りおが立ち上がる。
俺も、ふらふらと立ち上がる。
脚が、不安定だ。
バランスが、いつもと違う。
胸が、揺れる。
重い。
りおに手を引かれて、バスルームに向かう。
大きな鏡。
そこに映っているのは。
知らない女の子だった。
長い髪。
大きな目。
小さな顔。
細い体。
そして、胸。
確かにある。
これが。
俺?
「可愛いでしょ?」
りおが隣で笑う。
「俺…」
鏡の中の女の子が、口を動かす。
俺の声で。
いや、違う。
女の子の声で。
これが、俺の新しい姿。
3日間の。
俺の人生が、本当に変わってしまった。
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