ラッキースター

あさき のぞみ

第1話 ラッキースター



俺はアイドルグループi.sのファンだ。


え、気持ち悪いって?26にもなってアイドルグループが好きってことが?


別にいいだろ。好きなものがたまたまアイドルグループi.sだったってだけだ。サッカーが好きな奴もいれば、釣りが好きな奴もいる。俺の場合はそれがアイドルだった。ただそれだけのことだ。


信一、26歳。IT企業で働くしがないプログラマー。実家を出て都内の1Kアパートで一人暮らし。休日は大体家にいるか、ライブ会場にいるかのどちらか。友達?まあ、いないことはない。でも最近は誰とも会ってないな。


仕事は悪くない。給料もそこそこ。上司も悪い人じゃない。でも、なんだろうな。毎日が同じことの繰り返しで、気づけば週末になって、また月曜が来る。そんな日々の中で、i.sのライブだけが俺の生きる理由みたいになってた。


特に推してるのはセンターの星咲りお。23歳。キラキラした笑顔と、どこか儚げな雰囲気を持つ子だ。ステージ上で輝く彼女を見ていると、俺も何か特別な存在になれるような気がしてくる。錯覚だってわかってるけど。


今日も仕事を定時で上がって、アパートに帰る。コンビニ弁当を電子レンジで温めて、パソコンの前に座る。YouTubeでi.sの最新のMVを再生する。もう何回見たかわからない。


「はあ…」


ため息が出る。別に不幸じゃない。でも幸せかって聞かれたら、答えに詰まる。


スマホに通知が来る。i.sの公式アプリだ。


『緊急告知!i.s特別イベント開催決定!抽選で10名様をご招待!』


思わず身を乗り出す。詳細を読む。なんでも、新曲発売記念で選ばれたファン10名と一緒に1泊2日の合宿をするらしい。


「マジか…」


手が震える。こんなチャンス、二度とない。すぐに応募ボタンを押す。


翌日、会社で仕事をしていても上の空だった。当たるわけないってわかってる。でも、もし当たったら。もしりおと話せたら。


「田中さん、大丈夫?」


隣の席の後輩、佐藤が心配そうに声をかけてくる。


「ああ、大丈夫」


適当に答える。佐藤は俺がi.sのファンだって知らない。誰にも言ってない。言う必要もない。


その夜、アパートに帰ると、スマホに通知が入っていた。


i.s公式アプリからだ。


手が震える。まさか。


『おめでとうございます!抽選の結果、あなたが選ばれました!』


画面を何度も見返す。夢じゃない。本当だ。


「やった…やったぞ!」


誰もいない部屋で叫ぶ。


でも次の瞬間、不安が押し寄せてくる。


俺なんかが行っていいのか。他のファンはもっとちゃんとした人たちじゃないのか。りおの前で何を話せばいい。


それでも、これは人生を変えるチャンスかもしれない。


その時までは、そう思っていた。


まさかこのイベントが、俺の人生を本当に変えてしまうなんて、このときは知る由もなかった。

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