20話目:復帰祝いの宴会炎上芸

 さて……事態はおおよそ収束したということで、宴会が開催された。

 なにせ<黒の遺産>によって学園が丸ごと巻き込まれたが全員が生還できたお祝いでもあったりする。


 もちろんこれによって課題は免除されないので、単位とかがヤバイ人は恨めしそうな目をしながらダンジョンに潜ったり授業に向かったりしていった。


「ヒビキー! お前が<黒の遺産>をぶっ壊したって本当かー!?」

「ちげぇよ! エトルリア先生だよ! 俺は無実だよ!!」


(でも<混沌の墜とし児>だしなぁ……やりそうなんだよなぁ)

(<不朽の英雄>と<混沌の墜とし児>か。そりゃ<黒の遺産>程度じゃ止められねぇよな)


 なんかすっげぇヒソヒソ言われてるけど全部無視する。

 恩を押し売るよりも責任の方が大きそうだから、とにかく沈黙が正解……!


 とか思ってたら、今度は一番会いたくない≪ドルイド≫のエメトもやってきた。


「俺じゃないから!」

「まだ何も言っていません」

「よし、じゃあ聞こう。変なことだったら即会話打ち切るからな」

「カシェル卿から色々と話を聞きました。此度の一件、アナタが――――」

「はい終了! お疲れ! 以上、解散!」

「お待ちを。もしもカシェル卿の言葉が事実であれば、あなたに恩が――――」

「キミは騙されてるんだ! あんな人の言うこと信じちゃいけない! 僕を信じてくれ!」


 <暗黒の墜とし児>と呼ばれてる得体のしれない奴と≪ドルイド≫の同族、どっちを信じるんだ!?

 ……あっちですね、はい。

 でも自白はしない、絶対にしない。

 だって絶対に面倒ごとになって、それが雪だるま式に膨れ上がっていくから。


 というかこの子が防波堤になってくれてるだけまだマシである。

 エリート目線で見下されてる感じがするから素直に感謝はしないけど。

 よかったな、俺が真正のドMじゃなくて!

 蔑み目線だけでご飯おかわりできる猛者じゃなくて!


「――――この一件については、またいずれお話します」

「しない、しない。ゴミ箱に叩き捨てて忘れて。忘却の彼方に蹴り飛ばしといて」


 雑に扱われたせいか、とてもとても不満そうな顔をして去っていった。

 ……もしかして、素直に感謝の言葉とかでも述べるつもりだったか?


 いや、その言葉を受け取ったらやっぱり俺がやらかしたってことを認めるようなものになるな。

 つまり罠!

 やはり≪ドルイド≫は油断できない種族、ヒビキ、オボエタ。


「おーい、ヒビキー! こっちこっちー!」

「おぉ、トゥラちゃま! それにホルンとヨグさんも元気そう!」


 ウチのクラスの一団が集まっていたので、俺もその輪の中に入る。


「実は今、夢の中のダンジョンについて話しててさー。いや~! 本当に難しかったよな!?」

「そういえば俺、出禁くらってたから知らないんだよな。どんなのだったの?」

「それがさぁ! みんな最初レベル1! 装備とかもなし! みーんなゼロからスタートするんだよ!」


 それはそれは……かなりヤバイな?

 だって救出部隊となる<探索者>も弱体化するわけじゃん。

 そんなんで、どうやってダンジョン踏破すりゃいいんだよ。


「だから頑張ってモンスター倒してレベル上げたり、落ちてる装備を拾って進むんだけど、やられたら最初からやり直しで大変!」


 つまり上振れを引かない限りクリアできないと。

 というか運が良くても判断ミスったら最初からか、キツそうだな。


「でもでも、すっごい良い装備とか拾うとすっごく楽しい! 他にも便利な道具でピンチを切り抜けた時なんか嬉しくて楽しくて夢中になってさぁ!」


 ん? なんか話の流れ変わったな?


「あとあと! スタート地点でモンスター叩きとか弓で的を射る訓練するとお金みたいの貰えて、それで最初から装備を揃えることもできたよ! ずっとそれで稼いでる人もいたくらい!」

「ソレただのミニゲーム! というか道中に装備落ちてるとかローグライクゲームじゃねぇか!!」


 チクショウ! なんて楽しそうなダンジョンなんだ!

 そんなダンジョンなら俺無限に遊べるぞ!?


 なんか皆、ワンワイとダンジョンの話してる。

 どの装備が強かったとか、アレをどう活用したかとか、どのモンスターがやばかったとか……。


 共通の話題に入れないんですけどぉ!?

 アタシも混ぜてよぉ!!


 適当に相槌を打つだけのBOTに成り下がった俺は、もう適当に食べたり飲んだりするくらいしか楽しみがない。

 いいけどね……うん……皆が廃ゲーマーにならなくてよかったよ。


 なんか急にムカついてきたな。

 皆はローグライトダンジョンで遊んでたのに、俺だけ全裸になったり変な人に目をつけられたりで良いことが一つもない。

 こんなことならラッキースケベと称して誰かのスカートでもめくっておけばよかった。

 え? ラッキーじゃないって?

 偉い人が言ってた! 運は自分の力で引き寄せるものだって!


「そこな犯罪者、ちと話がある」

「違うんですエトルリア先生! 全裸になった代償を支払わせてやるとかそんなこと思ってもいません!」


(え? 全裸? いま全裸って言った?)

(全裸になって<黒の遺産>を破壊したって……コト!?)

(ヤベーよ、ヤベーよ……やっぱ<混沌の墜とし児>は格がちげぇよ……)


 イカン、さらにおかしな誤解がオギャっと産まれたどころか妊婦のように膨らんでいってる気がする。

 ここにいたら更に増えるワカメのようになってしまうので、颯爽とエトルリア先生のもとへと走った。


「うへへへへ、それで先生、ケチなあっしに何の御用でしょうか」

「うむ。今回の一件でよく分かった。ヒビキ、お前は問題に首ではなく燃料を突っ込むタイプだと」

「性質が悪すぎる言い方!」

「自覚はないのか?」


 自覚はある……あるけど止められない!

 こういう生き方しか知らないから!


「まぁ悪いことばかりではない。延焼せずに爆発して消火することもあるからのぉ」

「えへへへへ」

「大火事になってることも忘れるでないぞ? なんならカシェルのやつ方面で火が燻っとるし」

「お姉さん許して! わざとじゃないんです! ただ、つい、うっかり!」

「火元の原因としてよく聞く言い訳じゃな」


 でも俺は悪くないもん!

 心の中にいる猫はヨシって言ってくれたもん!


「流石にこのまま火達磨になられても困るというか、火種をあちこちにばらまかれても困る。なので、少しは自力解決できるようにしようと思ってな」


 自分でつけた火は自分で消せと仰るか。

 でも最初に火をつけた奴の方が悪くないですか!?

 火を大きくしただけの奴が消すのはおかしくないですか!?


 ……いや、常識的に考えて大火事にした奴も大概だな、うん。


「というわけで…………日帰りパワーレベリング合宿を行う!」

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2026年1月1日 08:00
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