11話目:下級生ならではのクエスト
「ゴミでーす☆」
あぁ、知ってたさ!
ヨチヨチのバブバブのビギナーダンジョンの宝箱で手に入るものなんかゴミなんだって!
「こういうカギってよく出るんですよね~。昔の人はなんか凄いお宝のカギに違いない!……って思ってたらしいですけど」
「違うんすか?」
「いや、だって……どの宝箱の、どのカギか分からないんですよ? 全部ずっと持ち歩く気ですか?」
「でも! もしかしたらってのもあるじゃないですか!」
「……ヒビキさん。あなた、このカギをどうやって手に入れましたか?」
「へ? そりゃあ普通にカギ開けで……あっ!」
なーほーね?
カギなくてもブチ開けちゃえばいいもんね?
だからカギはゴミなのね?
完全に理解したわ。
「じゃあ今度から見つけてもさっさと捨てた方がいいと。古い女房のように」
「あんた側の世界の倫理観どうなってんだ。というかカギも捨てずに持ち帰ってきていいですよ? 普通に美術品として価値あるものがあったりしますので☆」
「じゃあこのカギも、もしかしたら!?」
「ゴ~ミ☆」
「嫌がらせでカギ百本オークションに出品してやる!!!!」
「私の権限で全部却下しまーす☆」
くそぅ、落札金額が手数料を下回ったら免除してくれるって言うからやろうとしたのに。
……というかここで免除なしにしないところが有情なのだが、自覚してるのだろうかこの人。
「あーあ……結局、今日も儲けなしかよ。さっさと自分の装備がほしいのによぉ」
「まぁいつまでもレンタル装備じゃかっこつかないしね。やっぱ自分だけの彼女とか武器とかロマンだよね」
「待て。自分のだけじゃない彼女とか浮気されてないか?」
「逆に考えるんだ。僕も浮気していいと考えてみるんだ」
「浮気できるほどの甲斐性あんのか?」
「あーるーよ! 見えないし質量もないけどあるよ!」
「まだ毒で頭が変になってるな。治療室いってこいよ」
「……なんかチャラ男がおいシャワー浴びて来いよって言ってる感じに聞こえた」
「手遅れかもしれねぇけど、さっさと行け」
戦利品の清算は……あとでいいか。
というか持ってるの俺なのに金額誤魔化すとか考えてないんだろうか。
それだけ俺を信用してる……わけないな、多分面倒だから投げっぱなしなんだろう。
男の人って皆そうね!
お金のことなんだと思ってるの!?
まぁ男同士だとわりとこういうことあるし、いいか。
元の世界でも金の貸し借りが結構いい加減で、なんかある度にチャラになったりチャラ男になったりするし。
あいつ、元気かな……ナンパしたら姉の友達でしかもショタコンだった奴……。
あれ以来、なんか少年っぽい服装を強制させられてたらしいけど。
まぁモテてるからいいか。
奴に同情する余地と慈悲はない。
そんなこんなで、ダンジョンでやられた人達が集まる治療室へ行く。
「ちわーっす、流れの吟遊詩人でーす! 寝起きドッキリにきましたー!」
「「「ギャー! 混沌の墜とし児ダァー!!」」」
身体を癒す空間が、俺の登場で阿鼻叫喚地獄に変貌した。
しかし、彼らはまだ動けないので逃げられない。
「それでは聞いてください。<ねんねんころりよ、おだまりよ>」
「安眠妨害すんじゃねぇよ」
楽器に手をかけたところで、馴染みある声が聞こえたのでそちらに向き直る。
「この曲、俺の国じゃポピュラーでキュビズムなセンセーショナルな子守歌なんすよ?」
「子守歌に入れちゃいけねぇもん入ってただろ」
「でも、胸と飯と政治的思想は盛れば盛るほどいいって」
「毒を盛るなつってんだよ」
薬も過ぎれば毒となる。
つまり毒も薬だからいくらでもキメてヨシ!
「……で、パイセンはまたソロでダンジョン潜ってやられたんすか」
「負けてはねぇぞ。……ってかお前、流れるように曲を弾くな」
俺も異世界からの留学生ってことでまぁまぁ珍しい目で見られるけど、この人ほどではないだろう。
なんせこの人、入学当初からず~っとソロで戦ってきた四年生!
ソロだから周囲を気にせず特大武器を振り回して、ボスもごり押しでぶち殺していくスタイル!
代わりにアイテム費用が馬鹿にならないらしいが、薬も装備も一人分でいいから最終的に黒字が多い。
そのおかげで同期よりも装備の質が一段も二段も上だとか。
「パイセンってハニトラにばっか合ってそうっすよね」
「この顔で寄ってくる女なんかいねぇよ」
「いますよ! 自信を持ってください! 顔じゃなくて金しか見てねえんですから!」
「うれしくねぇ…………」
「まぁまぁ。人の顔じゃない……じゃなくて、人は顔じゃないっていいますし」
「慰めのつもりで追い打ちかけんの止めろ」
ぶっちゃけ顔も慣れたらそんなに怖くないし、話せばマトモだって分かるし、全然大丈夫だと思う。
でもなぁ、この人ストイックすぎてずっとダンジョン潜ってコミュらないから無理だろうなぁ。
「パイセン、ナンパとかして練習した方がいいっすよ」
「怖がられて逃げられるんだっつーの」
「でもここにいる人はまだ動けないから逃げれないですよね? つまり、やりたい放題です」
「言い方ァ!!」
「バックミュージックは任せてください! なんかこう、いやらしい感じのやつでやります!」
あっちこっちから女子の悲鳴が奏でられ、雰囲気は絶頂……ではなく最高潮だ!
「お前、そろそろいい加減に……」
「フハハハハ! でもパイセンも動けないからどうしようもないっすよねー! 諦めてベッドの上で艶やかな濡れ濡れな大人の会話を―――――」
スクっと……パイセンがベッドから起き上がった。
「あれ……パイセン? なんで立てるの?」
「ここには寝に来ただけだよ。さて、どうやらお仕置きが必要なようだな」
「ッスゥー……話し合いましょうパイセン! 俺が女役やるんでパイセンがチャラ男役になってNTRの練習―――――アダダダダ!?」
アイアンクローをかけられて頭が割れるぅ!
ってか持ち上げられて首がもげるぅ!
パイセン許して!!
「ヒギィー!……あっ、この体勢のままでいいんで聞いてほしいんすけど」
「お前、そういうところすげぇなって思うよ」
一応お仕置きは済んだのか、地面じゃなくてベッドの方に下ろしてくれた。
「最初のダンジョン課題はクリアしたんすけど、次の目標が分かんなくて。夏休み前に課題あるらしいんですけど、それも分かんないし」
「まぁ普通にダンジョンで鍛えて、装備もレンタルから自前のものにしてくのが無難だろ」
「そういうマトモなの求めてないっす」
「お前ね……それなら上級生にでも交渉して装備もらってこいよ」
「オォー!……それ、なんか色々と悪用されそうじゃないっすか?」
こう、美人局的なやつだったり、ゴミみてぇな装備をあたかも凄いものみたいに言って交渉したり。
「おう、だからアウルムさんとこで調達するのが一番無難なんだよ。変な奴に絡まれんなよ」
そう言ったパイセンが、何故かひどく同情するような目を向けてきた。
「……よく考えたらお前が一番ヤベー奴だったな。変な奴に絡むんじゃねぇぞ」
「変な奴のほうを心配しないでくれますぅ!?」
こんなにもか弱くて! 善良で! 常識があるのに!
まぁ常識があることと、常識に沿って行動するかは別問題だけど。
「そうだ。パイセンは装備余ってないんすか?」
「あぁ? 持ってても邪魔になるんだから持ってるわけねぇだろ」
まー、そうか。
わざわざ現物を保管するより、さっさと売って現金にした方がいいもんね。
「じゃあ次にダンジョンで手に入れたら持っててくださいよ!」
「俺にメリットがねえだろ」
「あー……そうだ! ダンジョンってレベル制限ありますよね? 低レベルのダンジョンでしか手に入らないものを調達するんで、それと交換とかどうっすか!?」
「別にそれくらいなら金ですぐに解決……いや、待てよ?」
しばらく思案していたパイセンが、何かを思いついたかのように手を叩く。
「どこか忘れたけどよ、まだ飯代もまともに稼げねぇ頃にダンジョンにあったフルーツ食ってたんだよ。あれが美味くてな。購買にもあるけど、鮮度が落ちてんだ。あれ持ってきてくれよ」
なるほど!
確かに一度購買を通すとなると、審査やら陳列やらで時間をとられて鮮度は落ちてしまう!
でも俺らみたいな下級生なら取ってすぐ持ってこれるから、ピッタリの依頼だ!
「うっす、それじゃあそれと交換で! ちなみに、こういう生徒同士のやり取りって怒られねぇんすか?」
「自己責任だから問題ねえよ。じゃなきゃ生徒用のクエストボードなんて置かねえだろ」
「なんすか、クエストボードって」
「あー……要は商会じゃなくて個人とかパーティー用の依頼だな。〇〇を出すから□□が欲しいとか、どっかのダンジョンいくから前衛を募集してるとかそういうのだ」
「なんかめんどくさそう」
「まぁ気持ちは分かる。俺のやつも、わざわざボードに出すようなもんじゃねぇからな」
ほぅほぅ……クエストボードは沢山の人に見てもらえるけど、ライバルも多いだろう。
けど、パイセンみたいにわざわざ依頼を出すほどでもないクエストは、探せば山ほどありそうだ。
「よーし、方針決定! ヨーゼフパイセンにレヴィ先輩、他にも色々声かけてクエスト貰ってこよう!」
やることが一気に広がってきてなんか楽しくなってきた!
そういえばエメトって≪ドルイド≫は身内パーティーばっかだったな?
これは……うまくすれば、あっちよりも戦力が強化されて追い抜くことも可能かもしれない!
待ってろよ!
あの生意気な顔をアヒンアヒン言わせたら捕まるので、なんかこういい感じに捕まらないレベルに悔しそうな顔にしてやるからな!!
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