10話目:異世界島津流
さて……課題を終わらせ退学の危機を脱したオラにもう怖いものなんてねぇだ!
ドラゴンでもリヴァイアさんでも来いや!
あ、警察さんお疲れ様っす。
自分、悪いことしてないっす、ほんとっす!
いやマジでリスペクトしてますって!
本気とかいておさわりOKって読むくらいマジですから!
だから手錠をそんな風に使わないで!
手錠は出したり入れたりする時にも使うものなんですよ!?
まぁ牢屋のことなんだけど。
「おーい、ヒビキ。ちゃんとワエ様の話聞いとるか?」
「聞いてます! ドーナツにも穴はあるんだよなって話ですよね!」
「穴のないドーナツもあるだろう。まぁ良い……改めてクラス全員の課題達成、よくやった! 嬉しく思うぞ!」
エトルリア先生のお褒めの言葉で教室が沸き上がる。
誰一人欠けることなく最初の関門を突破できたことは素直に嬉しいことだ。
「特にそこな四人は他の者がクリアできるように手助けしていたな。素晴らしい行いである!」
そう言って俺ら四人パーティーのことを誉めてくれた。
近くにいたクラスメイトも口々にトゥラやホルン、誤射の女皇であるヨグにも感謝の言葉を述べていた。
「……あれ、俺にはなんかそういうのないの?」
クラスメイトが一斉に俺から視線を逸らした。
「あれーおかしいなー!? 攻略法を見つけたのも、三人に皆の手伝いをしようって提案したのも、僕なのになぁー!!」
「いや、普通に感謝はしてるぜ? だが……だがなぁ……」
「なによ! 男ならハッキリいいなさいよぉ!」
「相手をするのがボス面倒だった」
「なによ、なによ! アンタみたいな人が女は面倒なナマモノって言いふらしてるんでしょ!!」
「勝手に女側を巻き込むなよ……」
「それじゃあ口で勝てないだろ? だからこうして関係ない人らを引っ張ってきて数の有利を取ろうとしてるんだ」
「ナチュラルにヤベー奴だなオイ」
「というかめんどくさかったら適当に放置してくれてもいいのよ? 後ろで勝手に騒いでるから」
「そっちの方が余計に厄介というかデバフなんだよ……」
俺は疫病神か災いの獣か?
いいだろう、いつか本気の厄災を見せてやる。
そうすれば俺の相手をしてた方がマシだって分かってくれるはずだ。
俺を相手してた方がキツイって言ったら?
その時は歌おう。
歌は全てを解決してくれる!……わけではないが、とりあえずなんかいい雰囲気でごまかしてくれるから。
「ほれほれ、お前らじゃれあうのは後にしろ。次の課題は夏休み前だ、今のうちにしっかりと励むように」
「やっほぅ! 夏休みまで遊び放題だぜぇ!」
「話を聞いておらんかったのか。次の課題は今回の課題よりも難易度が上がる、遊び惚ける暇なんぞないぞ」
「でも先生、次は課題達成できなくても退学ないんですよね。それなら別に適当にやる人もいるんじゃない?」
こう、大学生的の飲みサーとか槍サーみたいな感じでさ。
単位が足りなくて留年とか、よくあるやつ。
「その時は夏休みを全部使ってでも課題を達成させるぞ」
「夏休みを使っても無理だったら?」
「達成させるぞ?」
「いや、どうやって…………」
「達成させると言ったぞ?」
エトルリア先生の目がヤバい。
……よし、この件は考えないようにしよう!
「そういうわけで皆の者、しっかりと勉学と実践に励むように。以上!」
お決まりの台詞で解散となり、各々が今日の予定をこなしにいく。
そんな中、わざわざ俺に近づく誰かがいるとしたら、きっとろくでもない人物か話だろう。
「ちぃーっす、≪ドルイド≫のエメトさん。もしかしてパーティーのお誘い? お茶会のドレスコード知らないんだけど、スカートとカボチャパンツで合ってる!?」
「……退学しなかったのですね」
「おかげさまで! まぁ筆記テストのあとから一切絡みなかったけどね!」
なんせ俺らが必死こいて最初の課題をクリアしてた間も、この人のグループはダンジョンに潜りまくって、一歩どころか二歩も三歩も先に行ったらしい。
強い人らは余裕があって羨ましいこって。
「放っておいても、課題を達成できる人はできていたでしょう。どうしてわざわざ、無駄に手伝うようなことを?」
「無駄じゃない! ああやって恩を売っておいて、いざという時にネチネチと取り立てる為だ!」
教室の中にいた何人かから嫌そうな視線が飛んでくる。
フッ、上の目は嫌そうだが、心の目はどうかな?
……うん、心眼でも嫌そうな気がしてきたぞ。
「真面目に答える気がないようですね」
「わりとマジメだよ! 俺みたいな奴はパーティー組める人が減ったら困るの!」
「なぜ?」
「あんたぁ強いから自分の選んだ一択だけで生きてけるけど、俺みてぇな弱ぇのは一択じゃ生きてけないの!」
カードゲームと似たようなもんだ。
シナジー無視でも勝てるパワーカード持ってる奴はそれでごり押しすればいい。
でもそれを持ってないなら、シナジーにコンボにメタ張らないと勝負にならない。
だからこそ、様々なシナジーやコンボに繋げる為に人が多い方がいいのだ。
あとはまぁ普通に一緒に達成できた方が嬉しいし。
「それに対戦ゲーじゃないんだからさ、協力してクリアするのも乙じゃない?」
「……理解できませんね。せいぜい、雪解けの≪クロウラー≫にならないように。あれは見るも無残なものですから」
そうして、言いたいことだけ言ってエリート様は子分を連れて去っていってしまった。
……
…………
………………
「―――って言われたんだけどヒドくない!? 皆のことクソカス共とか言ってさぁ!」
「いや、それは言ってねぇだろ。過言がすぎるぞヲイ」
とりあえず鬱憤を晴らすことにした俺は、適当なクラスメイトを誘って一緒に新しいダンジョンに来ていた。
アマゾンの密林とはうってかわり、洞窟タイプでいかにもダンジョンといった感じだった。
ちなみに前衛に獣系≪ライカンズ≫の男三人に、後衛は吟遊詩人の俺一人。
教師陣が見たらすこぶる頭が悪いパーティーだと評するだろう。
「いやでも意外に戦えてるなオレら!」
「敵が一回攻撃する間に三人が囲んでボッコボコにリンチするからね」
火力はパワー、偉い人もそう言っていた。
回復とか援護は一切ないが、短期決戦なら無類の強さを誇っている。
ボスの耐久力が低いタイプだったらこの三人だけで勝てそうな気がする。
俺? 俺は後ろで演奏するのが役目よ。
だってこれ以上は前に出ても邪魔になるだけだし。
……決して! 俺が役立たずというわけではない!
「ところでさ、雪解けの≪クロウラー≫ってどういう意味? ≪クロウラー≫が虫っぽい人種ってことは知ってんだけどさ」
「あぁ、そういや異世界人だったなヒビキ。≪クロウラー≫は夏に盛って異常発生するんだが、頭も文明もねえ。だから冬は身を寄せ合って過ごすんだが、まぁ寒さでドンドン死ぬ。雪解けの時期になったら死骸の家に中に一匹だけ残ってるってやつだ」
Wow、異世界版のアリとキリギリス。
身を寄せ合う仲間がいなくなったらガチで凍死するから、比喩としてはピッタリだ。
「そこはフツーにキレてもよかったと思うぞ。かなりひでぇ言葉だからな」
「まぁウチの世界にも似たような童話あるし。怠け者のキリギリスは冬を越せずに死ぬってやつ」
「いや……≪クロウラー≫に例えられたとこなんだが」
おっと、異世界特有の人種問題かー?
パパ、そういうのにはあんまり首突っ込みたくないなー。
「別に≪クロウラー≫だろうがなんだろうがエチチ回路が反応するなら俺はウェルカムだ!」
「交配したメスがオスを食い殺す奴らもいるって聞いたことあるぞ」
「じゃあエッチした瞬間にメスになって逆に余が喰ろうてやるわい!」
「さすが≪混沌の墜とし児≫だ。見境がねえ」
「あるよ! 流石に男は襲わないよ! ところでさ、宝箱のトラップに性別を入れ替えるものがあるって言ったら、信じる?」
「ひぃっ!?」
俺よりごつい≪ライカンズ≫の面々だというのに、一斉に身を引かれた。
解せぬ。
「……っと、宝箱見つけた。頼んだヒビキ」
「あいよー」
ちなみにこの三人はガチの脳筋タイプなので、宝箱の開錠とかできない。
だから俺が呼ばれたんですね。
「フン、フフン、フーン♪ 授業でちょっと習ったからこれくらいなら~♪」
「そういやずっと演奏してたり鼻歌を口ずさんでるのにミスらねぇよな。そっちの才能あんのか?」
「ン~? そーんなのなーいよー♪ なーいないない♪ 意味も価値もなーい♪」
元の世界でモテる為にず~~~~~っっっと練習してたからね!
おかげで得意なやつなら音が聞こえなくても弾けるようになった。
まぁ練習のしすぎてモテ期が通り過ぎてなんの意味もなくなったんだけどね!
俺のモテ期を返してロックの神様! もしくはオペラの神様とかアポロン神!
日本だと弁天様だっけ?
でも琵琶はちょっとしか触ったことないから無罪か。
異世界だと誰だろう?
いつか聞いてみよう、そして祈ろう。
俺をモテモテにしてくださいって。
『それは管轄外だ』
「いま何か聞こえなかった!?」
「いや、お前の鼻歌しか聞こえなかったぞ」
「ぜったいに何か聞こえたって!」
「≪ライカンズ≫よりも耳いいのか、お前?」
それ言われたら何も言えなくなるじゃん!
そしたら幻聴ってことになるじゃん!
俺ヤベー奴ってことになるじゃん!
……間違ってないか。
なら…………いいのか。
≪ガチャ≫
とかやってる間に、宝箱が開いた。
う~ん、吟遊詩人じゃなくてこっち方向に進むのも有りか?
どんな宝箱でも開けてみせます的な役割で。
≪ヒュッ≫
風切り音と共に、小さな針が刺さる。
大きなダメージはない……ということはつまり―――――。
「うわあああぁぁ! 毒針だあああぁぁぁぁ!! 死ぬうううぅぅぅ!!」
「ウォッ! そんな、針一本で大げさな。そんなの祈手の奴に言えば一発で――――」
回復役が……いないのである!
「いやいや落ち着け! 毒を消す薬とか誰か―――――」
誰も……持っていないのである!
「マジかよ……」
脳筋の火力特化短期決戦パーティーの弊害である。
まだ<探索者>としてビギナーな俺らは、薬代も苦しい。
念のために買ったりもするが、誰もが備えているわけではない。
誰かが持ってるだろ……と思っていたツケがここに来てやってきてしまった。
「ハァ……ハァ……聞いて、ジョン……あなたのお父さんは……」
「ジョンって誰!?」
「あなたのお父さんは……その話をする前に、十年前の事件について教えるわね……」
「話してる猶予ねえだろ!」
とにかく一刻も早く脱出する為に走るが……こういう時に限って敵が邪魔をするのは、きっと神様のせいに違いない。
「あぁ、クソッ! 急いでる時に限ってワラワラと!」
被弾を覚悟で三人がごり押しで戦う。
おかげで順調にこちらの体力も減っていき、どんどん追い詰められていってる。
「フゥ……フゥ……それでは聞いてください……あの~……え~……やべ、曲名忘れた……」
「いいからおとなしくしてろって!」
そうは言うが、少しでも援護して急がないと俺が先に死ぬ。
ゲームによって毒は強かったり弱かったりするが、ダンジョンだとワリとしゃれにならない辛さだ。
少しでも前衛が楽になるよう、反応速度が上がるアップテンポの曲を弾くが、俺の心臓の鼓動もヒートアップしていく。
この毒、希釈したらワンチャン媚薬になんねぇかな。
敵を片付けつつダンジョンを突き進むが、毒のせいでもう歩くのもしんどくなった。
「うぅ……あのさ……冷静に考えて……俺が持ってる戦利品を三人に持ってもらえれば、ロストしなくない?」
「あぁ?」
「いや……だから……死んだ奴の戦利品が無くなるなら、渡せばいいって話で……そしたら、三人も急いで攻略しなくても……」
「バッキャロー! 仲間見捨てて逃げろってか!? 冗談じゃねぇぞ!!」
そう言って一人が俺を担いでくれるが、戦力ダウンは免れない。
「別に……死んでも……戻されるだけだし……そんなん気にしなくたって……」
「オメーはもっと気にしろ!」
そんなもんなんだろうか?
多分、そんなもんなんだろう。
「はぁ~……よーし、それじゃあ死ぬまで弾いてやるぜ! 曲は<理不尽を押し付ける神よ、くたばれ!>」
「オォー! いいぞ、その調子だ!」
『いや、ワシ別に押し付けとらんぞ』
「待って! また聞こえたって! かなりハッキリ聞こえたよ!?」
「毒がまわりすぎていよいよヤベー状態だなァ!!」
幻聴か? いや、幻聴じゃない……いや、幻聴なのか!?
もうアタイ何も分かんない!
分かんないからとにかく歌います!
そうして覚悟を決めた俺達は強かった。
強いというより、凄まじい突破力を発揮したといった方が正しいか。
立ちふさがる敵を倒すことよりも、押しのけて突き進むことを重点にした。
「ドラアアアァァ!!」
加速のついた≪ライカンズ≫の突撃を雑魚敵が止められるはずがなく、一撃で屠られる。
そしてその加速力を維持したまま空いた道を走り抜ける。
あれだ、島津流の捨て奸だこれ。
フィジカルの暴力……やはり暴力は全てを解決する……!
そうしてギリギリ毒で死ぬかどうかの瀬戸際で、脱出に成功した。
「フゥー! センキュー!」
「おう、生還できてよかったな……ゼェ……ゼェ……それにしても、疲れた……」
ダンジョンで生還できても、体力が戻ったりはしない。
傷とかは治るがしばらく幻痛……傷はないのに痛みがあるとかないとか。
俺はボッコボコのリンチにされたけど一度も感じたことがないので、たぶん鈍感なんだろう。
……鈍感系主人公フラグ、来たか!?
「それにしてもヒビキ……おめぇ、一度もミスらなかったな」
「いや、普通に宝箱でミスって死にかけたじゃん」
「そっちじゃなくて曲の方だよ。毒で死にかけたんだからミスってもおかしくないだろ」
「あぁ、そっち? 慣れだよ、慣れ。何十年もやってたら身体が勝手に動くもん」
「十分スゲー才能だと思うがなぁ」
「……ハッ! 勝手に身体が動いたってことにしてお触りしたら――――」
「流石にそっちは仲間でも見捨てるからな?」
ダメか。
元の世界じゃダメだったけど、異世界ならワンチャンって……思ったが望みはないらしい。
「さーて、それじゃあ戦利品持ってアウルム購買店に行こうず!」
「死にかけたのに元気だな、お前は」
まぁ新ダンジョンで手に入れた初のお宝だからね!
今回こそは……当たりであってほしい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます