WELCOME TO THE DIRTY NIGHT

山猫蒼

第1話 イカれた夜へようこそ!(?)

「よし!死ぬぞーーー!!」

 私が今立っているのは、廃ビルの屋上。

 人が飛び降りれば余裕で死ぬ高さに、足をぶらんぶらんと踊らせている。

 え?なんで死のうとしてるかって?

 人生がクソつまんないからに決まってるじゃん!

 要するに、ガチャ天井まで回してもSSR出ない人生ってこと。

 分かんない?まぁそれはいいとして。

 私の家は別に裕福でもないくせに、私にめちゃくちゃ真面目ちゃんでいることを強要するのだ。

 テストは常に上位でいることが前提。

 髪の色もファッションも奇抜なのは全部ダメ。

 あまつさえは恋愛禁止!!

 恋愛禁止に関してはマジで意味わかんないんですけど!

 とまぁ、私が内なる自由な私を抑え込み、慎ましく生きてきた結果どうなったかというと。


 陰キャになっちゃった!!

 うん!もうおもっきり陰キャになっちゃった!!


 まず人と喋るのが、まー苦手!

 独り言なら延々と喋れるんだけどなぁ、って友達に言ったら、それ陰キャの固有スキルだよってツッコまれた。

 次に顔面偏差値高い奴らを見れなくなった!

 いやもうね、キラキラしてんすよ皆さん。

 顔面貴族どもが何食わぬ顔で急接近してきたりするもんなら、私の顔面が庶民以下なのがバレる!

 友達によると私も素材はいいらしいのだが、お有難い教育方針のおかげで化粧とかオシャレとか一切分からない。

 そんなんだしそもそも恋愛禁止だしで、私は愛された経験がない!

 親の愛?両親からは愛なんて微塵も感じねぇよ!

 私の両親は運動神経抜群、頭脳明晰の妹にご執心なのだ。私はそのとばっちりを食らっているというわけ。


 てなわけでお先真っ暗、ダース○イダーもびっくりな暗黒面を生きるのはもう終わりにしよう。

 そう、思い切って人生をやり直すのだ。

 私、姫乃彩子、生まれ変わりまーす!

 「リセマラじゃあぁぁぁぁぁぁぁ」

 私は錆びて軋んだ鉄柵を飛び越えて、今、大空にダイブをー…あれ?


 なんか、体が引き戻されるんですけど。

 空が見えるんですけど⁈

 「ぐはぁっ⁈」

 羽ばたいたかと思われた私の体は、なぜか後方に倒れ込み私は背中を強かに打った。

 え、いや違う。誰かが掴んで引っ張ったのだ。

 「こんな真っ昼間から自殺ですかぁ〜?」

 高いアニメ声の言葉と共に真っ青な空に映り込んだのは、スーツ姿の女の子。

 そいつはニタニタとした薄汚い笑みを浮かべて、私を見下していた。

 「ちょっと!邪魔しないでもらえますー?」

 どうしてリセマラまで邪魔されなきゃいかんのだ。ここは素早くもう一度だーいb

 「ぽぎゃぁ⁈」

 上半身を起こしてもう一度飛び降りようとすると、彼女が私の髪の毛を踏みつけて固定してきた。嘘だろ⁈

 「いた、いたたいたいいたい!髪を踏むな髪を!」

 「残念だけどぉ、キミは私の都合で死なせられないんだよねぇ」

 何を言ってるんだこいつは。そもそも、何故私が自殺しようとしているのが分かった?

 ここは街の商業ビルに囲まれた、知る人もほとんどいないような廃ビルだ。待ち伏せしていたとしか考えられない。

 「私が死んであなたに何があるって言うんですかー?」

 「ボスに怒られちゃう、とかかなぁ」

 「私には関係ありませーん。死なせてくださーい」

 私は両足をジタバタとさせて抵抗の意を示す。春の暖かい日差しで照らされた女の子の顔は、相変わらず感情のない笑みを浮かべていた。

 「まぁまぁ、そう言わずに〜。ちょーっとでいいから私のおはなし、聞いて欲しいなぁ」

 「えー、早くリセマラしたいんだけど…」

 「もしかしたらぁ、キミが自殺したくなくなるかもしれないよぉ?」

 「ほう?やれるもんならやってみな!」

 私の威勢だけはいい言葉に、彼女が不敵に笑う。



 「キミぃ、愛されてないでしょ。"愛されるおしごと"、興味ない?」



 「愛される、おしごと…???」

 「そ!業務内容は愛されるだけ!しかもお給料がもらえる、さいっこうのおしごとだよぉ」

 「なんだ、水商売かよ。私身体の安売りはしないって決めてるんですー」

 「ふふっ、どうやら勘違いしてるみたいだねぇ」

 「いやどう考えても男にエロいこと提供する仕事じゃん。そう言うのは愛とは呼ばんよ私は」

 「んー、ちょーっと分かりやすくするかぁ」

 彼女はポケットからスマホを取り出すと、何やらホームページらしきものを見せつけてくる。

 「じゃーん!私が紹介するのはねぇ、"女の子"を愛すことが出来るサービス『LOVECALL』でーす!」

 「女の子を、愛す…?」

 確かに表示されたホームページには、LOVECALLと書かれたロゴが貼り付けられていて、その内容が可愛く説明されていた。

 ざっと整理すると、

 ・サービスの利用者は女性オンリー。

 ・指定した時間、ランダムに割り当てられた女の子を愛すことが可能。

 ・キャスト側の同意が得られたなら、どんな愛し方でも愛してオッケー。

 ・キャスト側は愛しても愛さなくてもオッケー。

 ・ただし、利用者とキャスト間の恋愛は原則禁止。

 なるほど。確かにキャバクラや風俗とは根本的に違う部分が沢山ある。なかなか面白い。

 「どお?興味、湧いてきたかなぁ?」

 「え、これって、美女きます?」

 「利用者の人は基本的にみーんな可愛いよお!なんせ一定以上の可愛さが登録には必要だからねぇ」

 え、なんかナチュラルにルッキズムの権化してて笑うんだが。

 「え、てかそもそも。私如きの顔面偏差値でキャストやれんの?こちとら顔面庶民よ?」

 「面白いねぇ、キミ。大丈夫、安心して。キミはかなり可愛いしウケがいいと思うよぉ?私が保証してあげる」

 ふむ。いやしかし、案外悪くないかもしれない。ただ問題は、私未成年だし夜出歩くの無理なんだよな。

 「ねぇ、私高校生だし、親にこういう仕事やってるってバレたら多分首ちょんぱなんだけど」

 彼女はふむ、と顎に手を当ててしばらく考えると、掌に拳をポンと乗っけた。漫画か。

 「私にいい案があるよぉ!本当に興味があるなら、一旦事務所まで来ない?」

 「ほーん?そこまで言うなら行ってやろうじゃん」

 「やったぁ!じゃ、私の名前は天ちゃんだよ。よろしくねぇ」

 「私は姫乃彩子、よろしく」

 私はさっきまで自殺しようとしていたことなんかすっかり忘れて、のこのこと天ちゃんに着いて行ったのであった。我ながら自分のチョロさに頭抱えるわ…。

 


 天ちゃんに連れられてきたのは、そこそこ立派なオフィスビルのエントランスだった。

 「ねぇ、ほんとにここにあるの?なんか場違いじゃない?」

 「表向きはただのIT企業だからねぇ、ウチ」

 「怪しすぎだろ」

 まぁ、まんまと釣られてきた手間、もう何も言う気はないのだが。

 エレベーターをカードキーでパスし、17階まで昇る。

 エレベーターを降りると『lovetec』と書かれた看板が目に入った。

 キーで扉を開けると、そこでは10人ほどの女の子がテーブルを囲んで何やらパーティが開催されていた。

 うん。明らかにIT企業ではない。

 扉が開かれたことで、パーティをしていた女の子たちの視線が一気にこちらに集中する。

 陰キャモブ筆頭の私は視線のダメージに耐えきれず、天ちゃんの小さな背中に隠れてしまった。

 「みんなぁ、紹介するね!この子は新入りの彩子ちゃんだよぉ!」

 「ちょいちょいちょい⁈まだやるって言ってないよ⁈」

 いつの間に既成事実化しているんだ⁈

 しかし。

 「「「彩子ちゃん可愛い〜!よろしくね!」」」

 顔面貴族たちの破壊的スマイルに庶民の私が耐えられる筈もなく…。

 「よし、社長にお話ししにいくよぉ〜」

 「わぁ仕事はやーい…」

 抵抗の余地はないと判断した私は、天ちゃんに連れられるがまま社長がいると言う場所にやってきた。

 え、社長室みたいなの想像してだんだけど、なんかソファとゲーミングPCと冷蔵庫しかない場所に来たぞ⁈

 「ボスー!例の女の子、捕まえてきたよぉ」

 天ちゃんが声をかけると、ソファからのそっとお姉さんが起き上がってきた。胸がクソでかい…。

 「あぁ!君が、例の!よろしくね、姫乃彩子ちゃん」

 「あれ私、名前名乗ってないですけど」

 「え、天ちゃん⁈この子にその説明してないの⁈」

 「あっ…いっけない☆忘れてましたぁ」

 「お仕事ちゃんとやってよねー。お給料安くないんだからさぁ」

 軽く天ちゃんを叱ったお姉さんは、改まって私の方を向くと、こう言い放った。


 「初めまして!私は愛のサービス『LOVECALL』の社長をやっております、サキュバスのマキと申します。イカれた夜にようこそ!」


 「おぴょ???????」


 あまりの情報量に、私は奇声を発した後その場で泡を吹いて倒れたのであった。

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