真実の嘘*ベラドンナ*

山田

本文

 僕は君の胸元に手を添える。何も感じない。君は僕の胸元に手を添える。恥ずかしそうに微笑み、「緊張してるの?」と僕に問いかけた。


(君は何も気がついていないんだね、可愛い)僕の心の声は意地悪く呟く。


「へへ…そりゃあしてるさ」


僕の声を柔らかく君に届ける。

警戒心を失っている僕の初恋の人。美しい君。


君が恥ずかしそうに俯く。僕を誘惑したげに上目遣いで見つめ始める。

僕は呟く。


「……そんな顔して、ずるいなぁ」


僕の心の声は囁く。

(ああ…君のその顔が歪む瞬間をどれだけ待ちわびているか…)


恥ずかしそうに僕を見つめる君の瞳に僕は映っていない。君の瞳に映るものは、僕の皮を被った君の悪意に犯された真実の僕。


君は僕を愛おしそうに見つめ、僕は微笑みながら僕の目の奥で君の生命を狙う。

君は僕の胸元に指を這わせ「私のこと好き?」と、問いかけてきた。僕の瞳は瞳孔が開くほど君を見つめ、答える。


「大好きだよ」

(殺したいほど君のことを想い続けていたよ)


「ずっと君だけみてた」

(いつか君を地獄に落とす為に僕は君の為に生きてきたよ)


「僕と…」

(僕と…)




香ばしい香りと共に君は永遠の眠りにつく。美しい君。君が僕の大切なものを奪った。



 高校生の頃の純粋な僕は悪意に満ちた君の瞳に恋をした。

僕は君を信じていた。

君は僕に嘘をついた。

僕は知っていたよ。

君が僕の絶望を楽しんでいたこと。


だから君にあげるんだ。僕の絶望を。


大人になった僕に気がつかない程、君は美しくなったんだね。

僕は忘れないよ。君のその薄汚れた瞳も、酸素の足りない体も、欲にまみれた愛情も。

僕しか知らない君の

僕しかシラナイ真実を

僕の嘘で美しく飾ってあげるから。




 彼女は高校時代、派手な見た目で欲にまみれていた。彼は誰も触れられないような正しさを放っていた。


彼女は彼とは正反対の環境の中にいた。

彼とは決して交わることなど出来ない。

自分にはない正しさが、彼女の心を炙る。


だから嘘をついた。


真実を隠し、彼を騙した。


「大好きだよ」

「そんな顔して、ずるいなぁ」

「ずっと君だけをみてた」

「私と……」


彼は彼女のことを愛した。清く、正しく、美しく…。



 月日が経ち、彼女は彼に言った。

「あんたの恥ずかしい写真あるんだけど、買う?」

彼女の中にある良心が語る。

(私を叱って、受け入れないで、あなたは正しいままでいて)


彼は愛していた人に騙されたことを知り、自身のポリシーであった正しさよりも恐怖に呑まれ金を払った。何度も、何度も、彼は写真を始末するために、正しさを売ってしまった。


 彼女は大人になるにつれ、環境が変わり、かつて憧れた正しさを身に纏うようになった。そんな時、彼と出会った。

彼は爽やかで人気者だった。

なぜか強烈に彼に惹かれた。

かつて自分が騙した男だとは微塵も気づかず、清く、正しく、美しい自分をアピールした。


高校時代の彼女の周りには正しさが彼しかなかった。欲と汚さにまみれた環境だった。大人になって取り繕った正しさは、彼女にとってやっと手に入れた世界の美しさだった。


清く、正しく、美しく……。


「私のこと好き?」


しかし彼女がいくら変わろうと、彼の中の過去は変わらない。




 永遠の美しさを手に入れた君を見て、僕の細胞が歓喜をあげる。


美しくなった君が悪いんだよ。

君が美しくならなければ…僕は僕の中の君を憎み続けていつまでもそばにいられたのに。

大人になるとみんな美しくなる。

取り繕った美しさは吐き気がするほどたんたんと世の中を渡る。

嘘さえ真実になる。

僕の中の僕は言う。



(君の過去はね、君の中じゃなく僕の中にあるんだよ)



僕は言う。


「君は…僕には勿体ないね」



語りかけても美しい君は反応しない。


「綺麗だね」


満足げに僕は微笑み、香ばしい香りに包まれ眠りにつく。


(僕の嘘で君は美しいままだよ。一緒に地獄に堕ちようね)





​――(完)



​※本作は「小説家になろう」でも掲載していますが、本人による投稿です。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真実の嘘*ベラドンナ* 山田 @yamada-yamada-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画