やっぱりどう考えてもこのヒロインとは馬が合わない。
花房 なごむ
第1話 いちごおぱんつ vs 黒のレース。
学生時代における恋愛などというものは通過儀礼と呼ばれ、そして彼ら彼女らはそれを淡く眩しい青春だと
だが俺はそれを許せない。そんなものは無い。
「白川、お前はお姉さんがなぜ黒のレースを履いているか理解できない?! お前ほんとに女なのか?!」
「わかってないのは黒崎でしょ?! そもそも年上のえちえちなお姉さんがエロそうな下着履いてるとか普通じゃない。お姉さんなだけでも嫌なのにこっちはあんたの好みについて議論してあげてるのよ? 感謝していちごおぱんつを履いているお姉さんで我慢しなさいよっ!!」
「エロそうなお姉さんがイチゴパンツだったら脳がフリーズするわボケっ!!」
「イチゴパンツじゃないわっ! いちごおぱんつよボケナス!!」
「俺の『理想のお姉さん』をロリ化するな!」
「ロリという純真無垢な正義を理解できないなんて……穢れてるわね」
「お前の脳みその方が穢れてるだろロリコン女!!」
別に示し合わせたわけではない。
そもそも仲良くなんてない。
黒髪ロングでパッと見清楚系で一応はこの高校では美少女で通っているこいつが、こんなどうしようもないロリコンなのだ。
むしろ仲良くしたくない。
ただ同じ文芸部で、ふたりしか部員がいないだけ。
2人だけなのに「文芸部」として認められているのはこの高校、正瞬高校からかつて文学賞を受賞した作家が何名か存在しているからである。
べつに普通の進学校で偏差値も高くはない。
特段文系の部活に力を入れているわけではない。
しかし文芸部はこれまでの功績を認められて特別に「文芸部」として認められている、というだけの実質同好会である。
「てかそんな普通なこと書いててプロの作家になんてなれるわけ? あんたがやってることって『あんぱんを食べたら中に餡子が入ってた』って書いてるのと同じじゃない。黒崎がまともなのは文章力だけで、アイディアとか独創性がないわ。つまんない」
「ならお前が言うロリっ子にイチゴパンツだって同じことだろうが!」
「全っ然違うわ! いちごおぱんつはロリにだけ許されたおぱんつなの。そんなこともわからないわけ?」
「わかってたまるか! 俺はお前と違ってロリコンじゃねぇんだよ! てか妹がいる身としては断固としてロリコンを認めない!」
「……い、妹がいるの? 写真見せて? 何年生? 初潮は来てる?」
「…………お前、正気か?」
「正気よ。何言ってんの?」
「……おまわりさんこいつです」
「わたしは許される。女の子同士はセーフなのよ」
「前提がアウトなんだよわかれ!」
絶対こいつにだけは妹を紹介しない。
妹が穢されてしまう。
てかなんで「初潮」とか聞けるんだこいつ?
頭おかしいんじゃないか?
俺がもしこいつに「お前はいつ初潮来たんだ?」とか聞いたら死刑確定だろうに。
聞きたくないけど。
「ならしょうがないわね。わたしが妥協してあげる。仕方がないから水色のしましまおぱんつで許してあげる」
「たぶん世間的にはそれもロリ枠だこのロリコン野郎」
「じゃあ何ならあんたは妥協するわけ?」
「う〜ん、そうだな。グレーのスポブラとか?」
「ロリさが無いから却下」
「じゃあマイクロビキニ」
「……それはそれで、いいわね」
うわぁ……とても人には見せられないような顔してるぞこいつ。
ほんとに美少女なのかこいつ?
今この瞬間なら通報しても無事に捕まると思う。
「だったらクマさんおぱんつはどうよ? これなら妥協できる?」
「……ダウナー系お姉さんが履いてたら萌えるかもしれん」
「ふんっ。勝ったわね」
「いや別に勝負なんてしてねぇからな?」
てかこいつ頑なに「おぱんつ」だな。
筋金入り過ぎてこわい。
そして入部して1ヶ月、残念なことにこれが俺ら正瞬高校文芸部の日常である。
新入生歓迎会球技大会も一瞬で過ぎ去り、ある日の放課後に白川はこう言ってきた。
「黒崎、どっちがプロの作家に先になれるか勝負をしましょう」
「お前はそもそもプロの作家になる前に捕まるだろう。ゆえに俺の方が先にプロ作家になる」
「そんなことないわ。あんたはお姉さんの下着を盗んだ罪で捕まる予定だもの。だからわたしの方が先にプロ作家になるわ」
「バカかお前? 俺が好きなお姉さんは安易にベランダに下着なんて干さないんだよ。ゆえに俺がパンツを盗むことは不可能に近い」
「いいえ、キャバ嬢ならワンチャンあるわ。だからあんたは捕まる」
「キャバ嬢じゃなくてもっと上品で魅惑的なお姉さんがいい」
「べつにあんたの好みとか聞いてないし」
「……不毛だなこのやり取り」
こいつと話していると疲れる。
そして執筆がちっとも進まない。
こいつがいなければ今頃俺は既にプロ作家になれていたかもしれないというのに。
「じゃあ負けを認めるということね? なら筆を折る? ライバルが1人消えて楽になるから助かるわ」
「はぁ? 誰がお前に負けるって? 誰が筆を折るって? 俺がお前に負けるわけねぇだろ? そもそもお前がラブコメを書くなんて無理だ。ラブコメは俺たち男の為のジャンルだ」
ラブコメのブームは下火状態。
それでも俺はラブコメが好きだし、辞める気は毛頭ない。
俺はプロ作家になって、新たなるラブコメブームを到来させるのだ。
というかそもそも女である白川なら、ラブコメじゃなくて恋愛ものを書けばいいだけの話だ。
悪役令嬢書いて王子様にチヤホヤされるのを書く方が売れやすいに決まっている。
「全然わかってないわ黒崎。ラブコメならどれだけロリを書いても許されるの。そしてわたしは男主人公になりきって女子小学生とイチャイチャしたいの」
「お、おう……そうか。頑張れよ」
「なんで引いてるわけ? おかしいわよ?」
「だからおかしいのはお前だ」
こいつ、これでも学内では美少女で通っている。
しかし、残念なまでにロリコンなので入学してすでに3回告白されて3回断っているらしい。
理由は「男だから」らしい。
黒髪ロングで清楚な巨乳美少女をそのまましていれば、もう少しまともな高校生活を送れただろうに、どうしてここまでこいつは残念なのだろうか。
そして俺はこいつの将来が心配である。
もしもその時が来たら俺は迷わず「いつかやると思ってました」とインタビューで応えるだろう。
「わたしはおかしくないわ。だからわたしはあんたに勝つの。勝ってわたしのロリへの愛が正しいと証明するわ」
……え? そういう話?
つまりあれか、俺が負けたらロリコンが社会的に認められてしまう世界線があるということか?
そんなことあっていいのか?
あっていいはずがない。
男は美人で巨乳なお姉さんに鼻の下を伸ばしているべきなのだ。
というかロリは社会的にアウトだ。
守るべき未来である。
ゆえにこいつの野望を俺は阻止しなければならない。
「なら、負けた方は勝った方の言うことをなんでも聞かせることができる。これなら勝負してもいい」
「ならわたしが勝ったら、ありとあらゆるロリヒロインのラノベをあなたに読ませるわ」
……こいつ、俺をロリコンにしようとしているのか?
どんな社会的害悪だよ。
いや、べつにロリコン作家をバカにするつもりはないし、創作ならそれはそれで自由だとは思う。
だがロリコンの押しつけはいけない。
「だったら俺が勝ったらお前にありとあらゆるお姉さんヒロインが出てくるラノベを読ませてやる。えっちなお姉さんからダウナー系お姉さんにケモ耳お姉さんまで」
「いいわよ? なら勝負よ」
そうして、どうしようもなくくだらない勝負が始まったのである。
やっぱりどう考えてもこのヒロインとは馬が合わない。 花房 なごむ @rx6
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