Dangerous Pair 〜Out Side〜
乾杯野郎
プロローグ
捜査本部は騒然としていた
男たちの人だかりの真ん中を3人組の女刑事が歩く
3人組の真ん中には顔を腫らして唇から血を流し手錠をかけられた男
男の名は連続強姦致傷事件の容疑者
「梶原 智一」
捜査本部の机に指示を出す本庁管理官が乱雑に椅子を下げ3人組の女刑事に詰め寄る
「貴様らは誰の指示で…」
「私の指示です、管理官」
「上野!自分のした事をわかっているのか?!」
「お言葉ですが大木警視正!これだけ証拠と目撃証言が揃っていて何故躊躇したのですか?!逮捕状請求すらもしないで…何故こん…」
「それを決めるのは私だ!お前じゃない!少し優秀だからって調子に乗りやがって!これだから女は嫌なんだ!感情で動き周りを混乱させる!それに私の許可を得ず服務規程違反の疑いがある所轄の下っ端なんぞ連れて逮捕なんて!お前ら覚悟…」
後ろに控えていた1人の女刑事が前に出ようとすると
パチン!
上野警部は大木警視正の頬を勢いよく振り抜いた
「服務規程違反と連続強姦、どちらが国民の平和に害をなすのですか?!服務規程など安心して暮らしている人々に関係ない!我々だけの決まり事!泣いている被害者を服務規程で守れますか?!新たな被害を止められますか?!それに我々警察は弱き国民を守る為、引いては法治国家を守るために機能する物!けっして誰かに忖度する組織ではありません!」
叩かれた男は頬を抑えながら怒りを押え
「良い啖呵だな、覚悟しとけよ!上野と所轄2人!この処分は…」
2人の女刑事も反論しようとするが上原が制止
「この2人は私の命令で動いただけです!全ての責任は私にあります!雪、Nancy、梶原 智一の取り調べお願いね、これは警部としての命令」
上野は軽くウィンクをしてアイコンタクト
刀を腰に差している女刑事が両頬を軽く叩き気合いを入れスカートスーツの女刑事は自分の尻を叩き気合いを入れる
「警部殿!私たち2人にお任せください!」
2人は声を揃えて梶原智一を引っ張って行ったのだった
しかし事態が急変したのはその3日後
被害届けを出していた1人の被害者が被害届けを急に取り下げ、目撃証言をした人間も面通しした梶原を犯人とは断定せず全く人違いだと証言
それに連続と思われた強姦致傷事件の2人目と3人目の事件当日の梶原智一のアリバイを証言する者が現れ警察は梶原智一を釈放
その後、梶原智一は自分を逮捕した上野 奈緒美警部、藤原 雪巡査 、田原・Nancy・香織巡査相手に自供の強要させられたと訴訟を起こした
〜県警本部第15会議室〜
長い机に5人の警察幹部が座りその前には制服姿の上野 奈緒美、藤原 雪、田原・Nancy・香織が立っていた
1人の警察幹部が書面を読み上げる
「これより処分を下す、藤原 雪巡査、田原・Nancy・香織巡査は減俸、降格、2人とも東部署交通課勤務、上野 奈緒美警部は謹慎と訓告、以上だ」
読み上げられたあと田原巡査は肩を落とし藤原巡査は脇に抱えていた帽子をその場に投げ捨てた。
「ちょっと待ってください!」
声を上げたのは上野警部だった
「何故2人の処分と私は違うのですか?!」
問い詰められた男は淡々と答えた
「これが妥当だと判断した、以上だ」
「私がキャリアだからですか?!」
「それは関係ないよ、梶原智一さんは君からは何もされなかったと弁護士を通じて君への提訴を取り下げ、違法な取調べは藤原、田原両名にされたと提訴している、だから君には何も無…」
男が言い終わる前に藤原と田原は会議室を出ていったので上野は追いかけた。
「待って!待ってよ!何とかするから!」
「もういいよ、奈緒…」
「良くない!Nancy!私たちは…」
「…やっぱ同期でもキャリアは違うなぁ!」
上野を藤原が突き飛ばすと倒れ込んだ
「そんな言い方やめてよ!」
「…実際そうじゃないか!アタシらは交通課!アンタはそのまま…何が全責任を取るだよ、結局下っ端のアタシらはトカゲの尻尾切り…アンタを信じたアタシらが馬鹿だったんだ…」
「違うよ!ちゃんと私は報告したの!私の命令で確保、拘束させたって!なのに…」
「なのになんだよ、結果これじゃん、それに被害届けを取り下げられて目撃証言も覆された、そもそも目撃証言だって奈緒美…あんたが持ってきた証言じゃん!アンタの言う通りにしてこの結果だよ…」
藤原は会議室前のエレベーターに乗り込んだ
倒れ込んでいる上野は田原に縋るように声を掛けた
「Nancy…信じて…私は今でも友達だと…雪とNancyを親友だと思ってる、あの時…警察学校の卒業式で約束したの覚え…」
田原も上原に背を向けながら
「ごめん…今は奈緒美の言葉を受け入れられない…」
そういい2人はエレベーターに乗り込んでいった
謹慎中も上野は1人で捜査をしていた
服務規程違反なのは分かっていたが藤原巡査と田原巡査からもう一度信じてもらうには梶原智一を逮捕し2人は正しかったと証明するしかないと考えたからだ
上層部なんぞどうでもいい
2人にわかってもらえたらそれでいい
身体を壊して入院している母親の世話は妹に任せとにかく捜査
被害者に会うも門前払い
目撃証言をした人間に会うも「勘違いだった」の一言
手詰まり…
もう1人では限界を感じた
そんな時…
飛び降り自殺の報道を目にした
名前を見て呆然とした
飛び降りたのは「上野 麻美」
奈緒美の妹の麻美だった
遺書も見つからず自殺の理由は不明なので遺体は司法解剖へまわされ結果、血中から違法薬物が検出された
大きく報道され入院していた母の耳にも入りショックで心臓麻痺を起こし母親まで亡くなった
奈緒美は家族である母と妹を同時に亡くした
大切な家族を2人同時に送るなんて奈緒美は現実を受け入れられなかった
梶原智一を追う代償が家族を失うというあまりにも大きい代償
それでも諦めず奈緒美は同僚や上司の大木に妹の自殺と梶原智一の再捜査を嘆願したが上野 奈緒美の謹慎中の捜査行為を上層部が問題視したのと身内が薬物使用の嫌疑をかけられ奈緒美は移動と言う名の島流しに。警視庁刑事部捜査第一課強行犯から運転免許試験場への移動辞令
悲しみにくれ、誇りも仕事も家族も失いもうどうにもならない時、足が自然と雪とNancyがいる所轄署に向いた。警察署近くで2人を待つと1台のパトカーが帰ってきた、車内から制服姿の2人を発見
奈緒美は走って2人に駆け寄った
「雪!Nancy!」
呼び止められた2人は顔を向けるとやつれた奈緒美が立っていた
「何…?今更」
「雪、そういう言い方は…」
Nancyが止めるも雪は感情を抑えられない
「…要件言えよ」
「私は今でも梶原が犯人だと…コレ見て!新しい梶原の目撃証言も…」
操作資料をまとめた書類を渡すが雪に跳ね除けられた
「もういいんだよ!奈緒美を…アンタを信じた結果交通課さ。アタシとNancyは警察にいたいの!そんなに捜査したきゃ本庁でやれよ!刑事部捜一警部なんだろ?!アタシらなんかより優秀な…」
「もう私は運転免許試験場に移動なの!もう貴方達2人しか頼れない!お願い力を貸して!」
奈緒美は深々と頭を下げた
「やめろよ、そんな事するの!」
雪が強めの口調で答えるが
「もう私には家族も同僚もいない、本当に2人しか…私には2人しかいないの!」
Nancyが何かを思い出し
「もしかしてこの前の飛び降りって…」
「………母もショックで…私は梶原智一を追いかけ全てが無くなった…だからどうしても」
「妹さんとお母さんの事、気の毒に思う…でもだからってアンタに協力する気は…アタシにはない。もうさ?キャリア様の正義ごっこに下っ端巻き込まないでよ…住む世界が違うんだから」
「雪!そんな言い方!」
「Nancyも分かってるだろ?正義を信じた結果アタシらは交通課…奈緒美だって…キャリア組だったのに正義なんてもんにこだわってさ、こんなんになっちまった…もういい加減にしてくれよ。正義なんてどこにもない…」
それだけ言うと頭を下げた奈緒美に目もくれず雪は署内へ入って行った
「奈緒美、ごめん…雪もホントは分かってる、奈緒美の妹さんの事もお母様の事も本当に気の毒だと思う、でもやっぱりすぐには割り切れないよ…それは私も一緒なの…今はほっといて欲しい。」
そう言うと奈緒美を引き起こしNancyは軽く頭を下げて署内へ
奈緒美は2人の背中を見送るしか出来なかった
どうやって家に帰ってきたかわからない
マンションの部屋の鍵を開けようとすると宅配業者から声がかかった
どうやら奈緒美宛の特別日付指定の荷物らしい
部屋に入り宛名を確認すると差出人の名前は
「上野 麻美」
だった
奈緒美は小さな箱を力任せに開け中を確認すると写真と通帳、手紙、そしてマイクロSDカードが入っていた
手紙を開くと
〜お姉ちゃんへ〜
ごめんね…こんな形でお別れて
でももう耐えられない…
これ以上…お姉ちゃんの足でまといになりたくない…
遺書と思われる告白にはとんでもない事実が記載されていた
奈緒美は膝から崩れ落ち泣き叫んだ
自分が信じ
正しいと思ってやってきたことは一体なんだ
市民を守る為に
弱き者を守るために
声なき声を聞くために
自分は正義を遂行する為に警官となった
より良い世界は無理だとしても
より良い社会に近づける為に
正しさは必要
でも私は
1番守りたかった
大切な物を守れなかった
悪いやつに何もできない
法は無力だ…
正義なんて何も生まない
奈緒美は一晩中泣いた
何もかもが虚しくなった
それから奈緒美は家からも出なくなった
ただ死んでいない無意味な生
全てを憎み恨み自分で自分の幕引きを試みるも恐怖心に負ける己がみっともなく小さい
その嫌悪感に吐き気をもよおす
日がなただ天井を見つめる日々
まず奈緒美は洗面所の鏡を叩き割った
愚かな自分を見たくないからだ
そして鏡のあった場所に「1」と書きなぐる
割れた破片で自身の顔を傷つけその割れた鏡に自身の血で「2」と
県警本部からの電話が鬱陶し買ったので固定電話もスマホも叩き割った
電話のあった場所に「3」
落ちたスマホに「4」
奈緒美は家の中で触れたあらゆる物に数字を書いていった
壁、枕、コップ、洗面所、トイレに、シャワー…
数字を書く度に
ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…
と涙を流し呟きながら
どれくらい時が流れたか
記載数字が49999と記載したボストンバックを持ち奈緒美は50000の数字を家の扉に記し外へ
行先は寂れた港町
奈緒美は海岸に行く前に封書をポストに投函し岩場へ
岩場でバックを開け中身を確認
そこには梶原智一の事件資料、国家公務員試験突破の記念写真や警察学校の卒業式での雪とNancyと並んだ3人の記念写真、妹と母との記念写真…そして一番上には警察手帳
奈緒美は近くにあったひしゃげた廃材のドラム缶にバックを投げ入れライターオイルをバックの中身と外側に満遍なく巻きターボライターでタバコに火をつけた後、新聞紙を入れタバコをドラム缶へ
中身は勢いよく燃えた
炎が全てを燃やした事を確認すると奈緒美はその場から立ち去った
数日後警視庁人事課に差出人 上原 奈緒美の封書が届きそこには
「辞表」
と書かれていた
その後、上原 奈緒美は姿を消したのだった…
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