2 光輝の事


イケメンヒーロー様へと進化した光輝の周りには、沢山の人が群がる様になり、それこそ光輝が一言「それ頂戴。」と言えば、何でも差し出してくれるくらい周りを魅了しだした。

最初こそ戸惑いがあっただろう光輝だったが、次第にそんな環境に慣れ、それからは地味で根暗な変態オタクな俺とは決別し、ヒーローとしての道を歩み始める事に────……。


「『攻略対象ブレイド王子』?

────あ〜……最近周りでやたらブレイドって言葉を聞くと思っていたけど、これの事だったんだ。」


突然雑誌に大きな影ができたと思ったが、背後から聞こえる低音ボイスが耳に入った事でその理由を知る。


「……光輝。」


「影太、一緒に帰ろう。」


斜め上を見上げる形で振り向くと、雑誌に載っている王子様ソックリの完璧な美姿で佇む美青年……光輝が花が咲く様な笑顔で立っていた。


あまりのスペックの差に、俺達の道は直ぐに別れるだろうなと思っていた俺。

いつも遊んでくれる光輝がいなくなる事にグスンと泣いた日もあったが、光輝はどんなにハイスペック同級生達や先輩達に誘われようが、俺の側を離れなかった。


『別に俺の所にずっといなくてもいいんだぞ?』


寂しさを押し殺し、単刀直入にズバッと言ってやった事もあったが、光輝はとても不思議そうな顔で首を傾げるだけ。

 ・・

『ここ以外どこに行くの?』


更にそう尋ねてくる光輝に、俺は最初ビックリした。

だって、行くところなんて沢山あるじゃん?……ってね!


『光輝は沢山誘って貰ってるじゃないか。それにまずは行ってみたらどうだ?

人心掌握は悪役としても大事な能力だし、キチンと人同士の付き合いってのも大事にしたほうがいいと思うぞ。』


これは俺の本音。

確かに光輝がいないと寂しいけど、俺みたいな凡人とばかりいても、なんだか光輝の才能やチャンスみたいなモノを潰してしまう気がして……それは嫌だと思ったのだ。


全然釣り合ってないと言われているが、これでも俺は光輝の親友……だと思っているし!


ペラペラとコミュニケーション能力の重要性について語れば、光輝は渋々「分かった……。」と答え、それからは、多少は俺の側を離れる様になった。

だが……。


悶々と色んな事を考えていたのが悪かったのか、返事が遅れる俺を見て、光輝は突然手に持っていた雑誌を優しい手つきで取り上げる。


「……この王子様をよく見ていたけど、影太はこういう感じが好き?

人気はあるみたいだよね、最近街ではこのポスターよく見るし……。でも、珍しいね?いつもは明らかに人外の姿の悪役ばかり見ているのに。」


光輝はペラペラと滑舌に喋りながら、雑誌を片手に、俺の腕を掴んで立たせてくると、素早く自分が椅子に座った。

そしてそのまま俺の体を自分の膝の上に落とすと、後ろから抱き込まれる形で雑誌を差し出される。


「???」


この間、わずか一秒にも満たなかったかもしれない。

気がつけば、幼子に絵本を読んであげる体勢で座らされている!光輝の膝の上に!


「こ、光────……。」


「乙女ゲームね。……ふ〜ん。なんだか嘘みたいにカッコいい男達が沢山いるね。

────まぁゲームだから、正義のヒーローサイドは、願望が凝り固まったキャラクターになるのは当然か。その一人に俺が似ている……と。

フフッ。なんだか可笑しいね。」


耳元で喋られると擽ったい!

そのためモゾモゾと光輝の口元から耳をなんとか離し、前に広げられているゲーム雑誌を捲った。


「俺のおすすめは、こっちの<ストロング・キング・〜失われた記憶〜>だな!

見ろよ!この中ボスのビジュアル!カッコいいだろう!

この口についているタコの口から、水の機関銃が飛び出して連続攻撃をしてくるんだ。

初見殺しのこの技によって、幾度もヒーロー達は追い込まれて────……。」


ゲームについて聞かれたら、答えないわけにはいかない!

そう思った俺は、自分の今季おすすめのゲームと、推しの悪役モンスターについての解説を始める。

すると、光輝はなぜか凄く嬉しそうな顔をして笑った。


「影太は本当にブレないね。ほら、こっちのも今年大ブレークしているゲームなんでしょ?

この間、家で一緒にやったじゃん。結局どのタイプの子が良かったの?」


「あ〜……それな。うんうん。」


光輝が雑誌のページをまた捲って見せてきたのは、<剣と魔法と恋愛と……?!>という、いわゆるギャルゲーに分類される恋愛とファンタジー作品を合体させたゲームだ。


主人公は冴えてない男子高校生……というのは名ばかりの、イケメン面した主人公が、ファンタジー世界の学園を舞台に、ヒロイン達と恋愛して最終的には世界を救うのだが、そこまで突き刺さるものではなかったため、サクッとクリアーして終了してしまった。

やり込んでいないため、そこまで記憶にない沢山のヒロイン達を思い出し、俺はズラッと並ぶヒロインのイラストの中の一人を指差す。


「この子かな。」


「……影太は、巨乳が好きなんだ?」


プリリ〜ン♡と揺れる豊満なオッパイに、お色気たっぷりのピチピチ白衣を着たビッチ系ヒロインの保健室の先生。

確か攻略ターゲットは、このお姉さんにした気がする。

イラストをじっくり見つめ、ニンマリとエロ目全開で笑った。


「そりゃ〜そうだろう!こんなエッチなお姉さん!嫌いな男なんているもんか!

欲を言えば、なんでもデカい方が俺は好き!

オッパイだって背だってお尻だって腰回りだって……全部大きいのが大好きだ!!」


これは譲れない事だったので興奮して叫び、同意を求めて前の席に座っている中野に視線を送ると……中野は真っ青な顔でブンブンと首を横に振る。


中野は、どうやら光輝が苦手な様で、こうして部室に光輝が来るとこんな感じだ。

暑くない時も汗を大量に掻いて、血の気を感じない顔色でこんな感じで首を振るだけになる。

本気で心配し、光輝の何が苦手なんだと尋ねたが、中野は「怖いから……。」と小さい声で一言答えただけだった。

いつも穏やかに微笑んでいる光輝が怖いなんて、ちょっと違和感を感じたが、人の感じ方なんて星の数ほどあるかと気にするのは止めている。

中野から良い返事が聞けずに、チェ〜と残念がっていると、突然後ろの光輝によって目元を隠された。

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