星の欠響-hosinokakkyou-
@tukizizyou
プロローグ前編
「朝は8時だから起きろ」
これは師匠の言葉、もういない人の、一番聞き馴染みのある声だ。
思い返す、いつもの朝のことを。
もっとも自分の部屋から朝の陽ざしを一回たりとも見たことがない、だってここには光源になる星「恒星」が近くにない
いつものように1階にいる師匠から口癖のように大声で起こされ2階にある自分の部屋を出て階段を下りる、光なら自分で灯すことだって出来るんだから、わざわざ光を放つ星のご機嫌なんて伺う必要なんてなくて、これが普通だった
階段を降りた後リビングに入り朝食がテーブルに並べられているのを一瞥した。
「体弱ってるのにもういいって言ってるだろ、寝てろよな」
「うるせぇ、いっつも起きるのが遅いのが悪いんだろうが、いつまでもそんな寝坊助じゃおれぁ、 楽になれねぇな」
「師匠が早すぎるんだろ、ルーティーンマシーンが」
リビングで必ずする言葉のラリー、師匠はいっつもしかめっ面でキッチンに立っていた。
その光景が、今日で終わるなんて思いもしなかった。
「今日はなぁ、お前に頼みたいこと...お願いしたいことがあるんだが...これは今すぐってわけじゃねぇ、ただいつか見つかったらでいいんだ..おれぇの息子をもし...もしだぞ..生きてたら面倒見てくれねぇか..」
食後、師匠はいつになく沈んだ声でそう言った。
「なんだよ、急に意味わかんねぇよ、いつもだったら冒険の心得とか話してるくせに」
顔を見ると、冗談じゃないと一瞬でわかるほど真剣だった。
「特徴とかなんかあるのか」
「すまん、おれぇはもう何年と、見てねぇんだ..顔もろくに思い出せねぇ..だがこの首飾りなら上げた記憶があるんだ」
そういって師匠が今までかたくなに外すことはなかった首飾りをテーブルに置いた
「なんだよこれ..宝石か..?」
「あぁそうだ、昔どこかの星に寄ったとき見かけたんだなぁ、元は1個しかなかったんだが無理行って3個追加で作ってもらってなぁ...もし息子が持ってりゃ、これが目印になるはずだ。」
遠くを見るような目をしてその宝石を見ていた。
「わかったよ師匠..もう長くないんだもんな..たまたま見つけたらだぞ..面倒見てやるよ..これ預かってもいいか?」
「あぁ、宇宙は広い、こんなおいぼれが持っていたら、お前はこの宝石を影も形も忘れるだろうよ..もってけもってけ..それとな、昨日船を直し終わったからいつでも行ってこい」
師匠の表情が少し緩んで聞こえた気もしたが、それを理解する前に口走ってしまった。
「マジで、船直したのか、最初は無理だなんだいってたくせにいつの間に修理してたんだよ」
「あぁそれなら簡単なことだ。あれは俺の船で一人で旅をしてたんだから修理なんて当たり前にできる。今まで嘘ついていたのは、お前を鍛えるためだ」
「なんでそんな、カッコつけても仕方ないだろうが..ったく。でもありがとな、師匠」
宝石をポッケに入れ、皿を片付ける。
「さて、じゃぁ師匠、ちょっと外出てくるわ..体動かしてくる」
師匠の返事を待たず裏口から外へ出る。
師匠がここに来て二年。屋敷に住む変わりに、修業をつけてくれることになった。
その結果魔力の原理を知らなかった俺が、今ではなんとか生きていける程度には扱えるようになった。
いつもの修行場、師匠お手製だから不格好ではあるものの、魔力の練習において不自由を感じさせないほどの障害物の配置、広さをしている
「もうそろそろ、星を出るときが来るのかな」
胸の奥がざわつき、魔力が少し揺れた気がした。
「もうこんな時間か..」
腕時計を見ると2時を指していた。屋敷出たのは大体9時あたり、つまり5時間ずっと集中していたらしい。
「まだ、ここに居たいな」
つい余計なことまで口にしてしまう。
帰路につきながら、ふと呟く。
「師匠って意外と元気なんだよな。昨日まで知らない間に船の修理してたし」
屋敷の前に立ち、扉に手をかけた瞬間、違和感が走った。
誰もいない。空気が、廃墟のように冷たい。
胸騒ぎというものを、初めて感じた。
「師匠..もしかして..」
それ以上言えず、扉を開ける気にもなれなかった。
師匠と出会った日のことが、ふと蘇る。
「お前ここに住んでるのか、名前と親が何処にいるか教えてくれるか」
ふと背後から知らない声が聞こえる。一か月ぐらいか、自分の声以外を聞いていないせいかひどくびっくりしてしまう。
「あ~、わりぃわりぃ..驚かせるつもりは無かったんだがなぁ、俺の名はフルザメル、よろしくな」
馴れ馴れしい口調に警戒が強まり言葉が出ない。
「まぁいい..そうだな上、見えるだろう惑星シタルム..降りようと思ったんだがどうもドンパチやってるのが見えたからな、急遽軌道近くにあったこの星にしたんだ。
お前さん見たところおれと同じシタルム人だろ、なら何か知ってるか」
恐る恐る彼の顔を見るとその顔には敵意がなく、ただ不安が浮かんでいた。
警戒を解くまではいかないが、フルザメルと名乗った男が久々に会う他人なのもあり言葉が漏れ出していた。
「あなた、宇宙..外から来たんですか?」
「あ?..あぁ、そうだとも..」
質問が返ってくるとは思わなかったのか少し驚きつつ返答していた。その反応を確認し、続けて先の質問に答える。
「シタルムは..何が起きてるのか知らない..です。いつの間にかポッドで脱出させられてたので..でも、あと少ししたらお手伝いの人が来てくれるって約束してますから..」
「そうか...ここに来てどれくらいだ」
「えーと..分からないです、あ..でもシタルムの周りを10週以上はしてると思います」
「10週か..なるほど、ありがとうな教えてくれて..そうだな、そのお手伝いさんが来たらお話を聞くとするか」
そういうと背を向け歩き出していた。
「助かぅたと思ったけど、違うのか..」
「あの時、そのままどっか行っちゃうと思ってたのにな..まさか居座るだなんて」
少し呼吸が落ち着き、改めて扉を開け屋敷に入った。
玄関からそのまま左手にリビングにつながる扉がある。そこに向かってゆっくりと足音を立てないように歩いていく。
別に音を立てようが立てまいが、結果が変わることはないと知ってはいるものの、気持ちとして静かでいたかったのだ。
玄関の扉より数段重く感じた扉に手をかけ開ける。
なぜだか視線は下向きに入り、床、絨毯、椅子、テーブル、そして壁..ゆっくりと視線を上げていく、壁の横には絵画、時計と並んでおり唯一、時計が音を立てていた。
入って左奥にベッドがあるそこに1人横たわってる人陰が見えた。
近づくほどにそれが師匠だと確信し、近づくほどにそれが生き物としての活動を止めていると感じていた。
「なんで..いや..そうだよな..おかしいと思ったんだよ..今日、急にお願いとか言い出すし、船の修理が終わったとか言い出すし..師匠は..フルザメルさんはすべて理解してたんだな」
涙はそこまで出なかった..2年という短い時間しか過ごしていないからではない、もっと本質的にここに留まる言い訳が出来なくなったことの方が苦しかった。
師匠を弔うなんてことより、自分の今後をどうするか思考を巡らせていた。
「俺ってクソ野郎だな」
我に返り独り言ちる
自己的な思考が消えたわけではないが、改めて師匠を見遣り考えた。
「師匠のこと..弔うやり方なんて知らないな..」
昔にこの屋敷に貯蓄されていた食料で腐ったものを見た師匠は、臭いがどうとかこうとか言って怒鳴り散らしていたなと思い出す。
あの時どうしてたっけ..
思い出そうとするほど、脳が拒むように記憶が遠ざかっていく。
「どうすりゃいいんだよ、師匠」
呟いても返事はない。当たり前だ。もういないんだから。
気づけば時計は6時を指していた。本来なら夕飯の時間だ。
でも、何もやる気が起きなかった。
全部投げ出して、自分のベッドに横になり、目を閉じた。
もう聞けないであろう言葉を思い出しながら。
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