第9話 『 狩人 』

 カイが普段はほとんど鳴かなかったのは前述の通りだが、僅かにその例外があることも御承知の通りだ。

 或る日の縁側でのこと。カイが虚空を見上げて珍しく鳴いている。それも聞いたことがない調子で。

「ニャ、ニャ、ニャ、ニャ」

 それはまるで誰かに語りかけるかのような調子だった。

「おい、カイ君が喋ってるぞ」

 僕が女房に言うと、彼女は

「多分獲物を狙ってるんだよ」

 さらりとそう言った。

「獲物?」

「そう。多分近くにスズメかなんかが止まってるんじゃない?」

 言われてみると確かに先程から小さな鳥が庭先の木々を行き来している。そしてカイはそれに向かって優しげな鳴き声を上げているのだ。

「鳴いてどうするんだろう?」

「決まってるじゃない。おびき寄せて掴まえるのよ」

「え?」

 女房曰く、カイは時々この家の主として、様々な獲物を狩って帰ってくるらしかった。それは時にネズミ、そして時に小鳥だった。

「それで食べるのか、それを?」

「違うわよ。私たちに見せるのよ。『ホラ、お前らの為に持ってきてやったぞ』って」

「え~」

「ほんとにこの前鳥を掴まえてきた時はびっくりしたわよ。いきなり家の中に瀕死の鳥がいるんだもん。思わずカイを叩いて鳥は逃がしたけど、多分ダメだったろうな、あの傷じゃ」

「そりゃあ、ムゴイな」

「やっぱりこう見えてもトラやライオンの親戚なのよね。狩りをすることが一つのアイデンティティなのよ」

 う~ん。僕には女房の言葉がいささか大げさにも思えたが、後(のち)に僕は近所で二匹の猫が共同でカラスを仕留めているのを見掛けたことがあり、つまり女房のそれは的を得た知見だったと云うことだろう。

 それ以来僕は夜、女房とカイと川の字で寝ながら、いつ自分はコイツらに寝首をかかれるのだろうと密かに怯えるようになった次第だ。

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