第3話 『 猫屋敷 』

 僕らが住んでいたのはヒロセさんと云う旧地主さん(女性)が所有する集合住宅の一つだったが、そこは小高い山を切り開いたようなところにあり、周りから見ると隠し砦的に分かりにくい場所だった。そしてそこは一方で猫天国であり、時には野犬までが群れで駆け回る、ほとんど動物王国同然の所だった(後になるとそこに山羊の親子も加わった)。

 ヒロセさんは旦那さんを早くに亡くしたふくよかな人柄で、本宅にはご両親が住み、自分は別棟の洋風の家で大家兼、市議会議員をやっていた。そしてこのヒロセさんが大の猫好きらしく、来る猫来る猫に餌を与え、ほとんど地域の猫全体を養っているような状態だったのだ。

「カイは多分あれだな。うちに来るまでは大家さん家で食べて、凌いでたんだな」

 僕がそう言うと、

「何言ってんの。今朝だって向こうで他のと混ざって食べてたよ。私が家賃払いに行っても、素知らぬ顔してガッツいてんだから」

 と女房はいささか憤慨気味で返した。つまるところ、僕ら店子は大家さん家の大勢いる猫の一匹(それもかなり御年配の)を成り行きで引き受けてしまったらしい。

やれやれ、僕も犬猫は小さい頃から飼ってるので嫌いではないか、どうせならもう少し可愛い奴が良かったな…。思わずそんな愚痴も漏れそうになった。

するとまた、縁側からガッ、ガッと云う力強い音がして当のカイが帰って来る。

「つまらん詮索と期待は止せ」

 と言わんばかりにカイは僕らの間を悠然と通り抜け、そして畳の上にドスンと横倒しになったかと思うと、もう気持ち良さそうに目を閉じていた。

 僕らの家はそうやって中も外も猫屋敷と化していったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る