薬師見習いレオナ、世界最強の恋をする

結城奏

第1話 薬師志願者レオナ

 宿題が多すぎる!

 私は、薬師様に渡された書物を前に、途方に暮れていた。

 

 2日前に13歳になったばかりの私は、薬師様に弟子入りしたくて街の治療所を訪れた。

 すると薬師様は、3日間でこれを全部読んでくるようにって、分厚い書物を沢山貸してくれたのだ。

 

 薬師様は私の曾祖母様。

 身内が王家に嫁いでも生活を変えず、街に残り民のために働いている。その生き様がカッコイイ!

 薬師様は幼い頃から、私の憧れだった。


 風の国レティシアは、病気の少ない国らしい。

 王様自ら癒やしの力で民を治療して下さる、恵まれた国だからだ。

 だけど、王様にも治せない種類の病がある。

 それに癒やしの力は瞬間のものなので、慢性の不調に弱い。

 病ではなくても、たとえば難産の時など、王様にできることは少ない。

 王様はそのことで悩み、民から、薬師志願者を募った。

 でも、全然集まらなかったという。

「薬師はハードな仕事だからね」、と薬師様の孫であるお父様は言った。

 今、この国の薬師は曾祖母様だけしかいない。

 薬師は、薬の調合だけではなく、病気も診るしお産も扱う、人の命に関わる責任重大な仕事だ。

 助手ならば時々志願者が出てくるが、薬師になりたい人は滅多にいない。

「だったら、私が薬師になる!」

 そう言ったら、お父様は笑った。

「レオナも大きくなったら、勉強したらいい」

 大きくなったらじゃ間に合わない。曾祖母はすでに高齢だ。引退の話も出ている。教えて貰うなら、なるべく早いほうがいい。

「私、今すぐ勉強する! 曾祖母様のところに行く!」

 そう言う私の言葉を、お父様は本気にしてくれなかった。

 末っ子だからって、いつまでも子供扱いして。

 私にだってきっと、できることはあるはずよ。


 私は、王妃であるお姉様にお願いして、王様に紹介状を書いて貰った。

 曾祖母なんだからそんなの無くても良さそうだけれど、無いよりはあったほうがいいだろう。曾祖母様はいつもお忙しくて、あまり会ったことが無いのだ。

 王様に、お父様が私を子供扱いして本気にしてくれないことを愚痴ると、「僕は、もっとずっと幼い頃に王になったよ。義父上は忘れちゃったのかな」と言って笑った。

 そして、「僕は、この先、必ず薬師が必要になると思っている。今の薬師様の知恵と技術を継承してくれる人を待っていた。だから、レオナが志願してくれて嬉しいよ」と言ってくれた。

「一緒に、この国のために働いて欲しい」とも。


 そして、紹介状を持って私は治療所を直撃。

 追い返されはしなかったけれど、大量の書物を持たされ、何とか家に帰った。

 全部読み切る自信はないが、途方に暮れていても仕方がない。

 できるだけ読もうと本を開く。

 時間を惜しみ、食事もろくに摂らず、深夜まで読書している私を、両親も姉たちも心配そうに見ている。

 夜遅くなって、お母様が夜食の差し入れに来てくれた。

 お母様手作りのパンケーキ。久しぶり、この優しい味。

「少しは栄養を摂らないと、頭も働かないでしょう」

 ふわりと笑う。お母様はきれいな人だ。若い頃は妖精のようだと言われていたらしい。日中はまとめ髪だが、今は後ろに美しい金髪を下ろしている。

「無駄話して邪魔したら悪いから、戻るわね。お父様は薬師様の仕事をよく知っているから心配しているけど、私はレオナを応援しているわ。立派だと思う」

 お母様の言葉に、私のやる気はますます燃え上がった。

 パンケーキをもりもりと食べて、また本のページをめくる。


 三日後、私は重たい本の包みを両手にぶら下げて、治療所に行った。

 全部読むには読んだけれど、本の内容、細かいところまで質問されたらどうしよう。三日じゃ覚えるところまでいかなかった……。

 そう思って不安だったのだけど。


 「合格じゃ!」

 借りた本を全部読んだと言ったら、薬師様はそう言って豪快に笑った。

 もっと厳しく試されるとばかり思っていた私は拍子抜け。

 え、ちゃんと読んだか確かめなくていいの? ぽかんとしていると、薬師様は言った。

「アーサーから苦情が来た。レオナが食事もしないで勉強してるとな」

 お父様ってば……。過保護なんだから。

「レオナ、本気で薬師になろうと言うのじゃな?」

「はい!」

「では、今からそなたは私の弟子じゃ。私の知恵の全てをそなたに授けよう」

 やった! 弟子だと認めて貰えた嬉しさで、舞い上がってしまいそう。

「この治療所にある書物も、器具も、薬品も、自由に使うと良い。そして、あらゆることを聞いて、見て、覚えよ。魂を研ぎ澄ませて、民の心に寄り添うのじゃ」

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薬師見習いレオナ、世界最強の恋をする 結城奏 @kanade_yuki

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