第2話 はじめて

ギルドの奥、受付カウンターの前で、ティナは背筋を伸ばして立っていた。

意識しすぎて、少し硬い。

「……ご、ゴブリン討伐を、受けたいんですけど……」

受付の女性は、書類から顔を上げると、手早く二人を確認した。


「パーティはお二人ですね?」

「は、はい」

淡々とした声音。

それだけなのに、なぜかほっとする。

だが――。

背中に、刺さるような視線を感じた。

ちらりと振り返ると、近くのテーブルにいた冒険者たちがこちらを見ていた。

好奇心と、警戒と、あからさまな嫌悪。

「ナイトメアと組むのかよ……」

小さな声が、はっきり耳に届く。

ティナは思わず、エイルの前に半歩出た。

(気にしなくていい……)

自分に言い聞かせる。

けれど、胸の奥がざわつく。

受付は変わらず事務的だった。

「街道南の森。ゴブリン三〜四体。初心者向けですが、油断は禁物です」

依頼書を差し出す。

「帰還時は討伐証明を提出してください」

「は、はい……!」

カウンターを離れた瞬間、視線がさらに増えた気がした。

横を見ると、エイルは何も気にしていない様子で歩いている。

「……平気?」

小さく聞く。

「何が」

「えっと……さっきの、視線……」

「慣れてる」

短い答え。

(慣れてる、って……)

それが、なぜか胸に引っかかった。


街を出て、街道を南へ。

森が近づくにつれ、人の気配は減っていく。

「……ここから、静かに」

エイルの声が低くなる。

「は、はい」

声を潜める。

心臓の音だけが、やけにうるさい。

(私が、しっかりしないと)

森の中は湿っていて、足元が悪い。

剣の柄を握る手に、汗が滲む。

「……止まって」

エイルが言う。

反射的に足を止めた、そのとき。

茂みの奥から、かすれた笑い声が聞こえた。

「……いる」

喉が鳴る。

(ゴブリン……)

草が揺れ、緑色の影がちらつく。

「……来る」

その声と同時に、

茂みが大きく揺れ、甲高い声を上げてゴブリンが飛び出してきた。

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