卵回帰

狼二世

観測記録


■定例報告:3


 ■■銀河XCFD-37――

 現地名称、太陽系第三惑星、地球、極東地域人口密集地――


 市街地の真ん中に卵がある。

 楕円の殻に包まれた、白い卵が鎮座している。

 その大きさは1メートルから2メートルまで様々。


 つい先ほどまで、『人間』と呼ばれる現地生命体であった。


 観測機の情報を確認した時は半信半疑であったが、間違いがない。


 ――この惑星の生命は、突如『卵』になる――


 慣れたもので、無事な人間が邪魔にならないように移動をしている。

 外部からの物理的な破壊は不可能。保管をしておく他はない。


 この珍しい現象が、未だ衛星にも生活圏を広げられない未開拓惑星独自の物である。

 我々は、現地の人間から正体を隠しながら、この現象を観測する。


 さしあたり、まずは本現象を『卵化現象』と命名する。


■定例報告:23


 卵化現象から目覚めた人間が出現した。

 殻を破り、出現した彼らは決まって晴れやかな顔をしており、肉体も若返っている。

 そう、若返っているのだ。

 これを解析できれば、不老不死の実現につながるかもしれない。


 我々は引き続き観測を続ける。


■定例報告:344


 卵化現象の対象が広がった。

 今まではこの星でもっとも広く繁殖している知的生命体、人間のみに確認をされた。

 だが、自転周期三十回ほど前から、他の生命の間でも卵化現象が起こるようになった。

 哺乳類、魚類――そして、植物。


 何故発生するのか? 条件は?

 まだデータが足りない、引き続き観測をする。


■臨時報告:1


 油断をしていた――卵化現象は、生命体にのみ発生すると思っていた。

 気がついたのは、極点上に『殻』が出現した時。我々は目撃されることも覚悟のうえで宇宙船を飛ばした。


 殻は、徐々に広がっていった。

 楕円上に、空を覆いつくした。

 ――地球が殻に包まれる――卵になるのと、我々が月面に降り立ったのは、ほぼ同時であった。


 地球そのものに卵化現象が発生したのだ。

 引力は変わらない。月は未だに卵となった地球を定期的に周回している。


 この全宇宙を通しても特異な現象について、我々は観測を続けたい。


■定例報告:566789


 惑星であった卵に変化はない。

 孵ることもない卵が、延々と恒星を公転している。


 この観測に意味はあるのだろうか。

 本星に幾度となく問い合わせたが、答は現状の維持だった。

 

 引き続き、観測をする。


■臨時報告:2


 本星へ、応答を求む。

 地球であった卵が割れる。楕円の先端から日々が入り――ああ、これ以上はリアルタイムで情報を送信する!!


◆◆◆


「はじめまして、観測者の皆さま」


 何だ、この声は?

 くそ、ひび割れの中から光が見える――だが、その存在を認識することが出来ない。


「当然です」


 なんだと、私の思考を読んだのか?


「ええ、その程度は造作もありません。一つ上の生命体として生まれ変わった私たちならば。

 逆に、アナタたちは姿をとらえることも出来ないでしょう?

 それが、旧生命体であるアナタたちの限界です」


 何を……言っているのだ。

 いや、そもそも、何故声が通じているのだ?

 かつて地球が存在していたポイントと、月面基地とでは距離が離れている。

 なにより、音は通じない筈。


「ええ、旧生命体の認識ではそうでしょう」


 お前は、何者なのだ?


「私たちは生まれ変わった……いえ、生まれなおしたのです。

 新たなる生命体として、一次元上の存在として新生したのです!

 なんと素晴らしい事でしょうか。一つになり、我々は全てを理解しました。

 個と言う存在が以下に非効率的であるのか。どれほどの時間を無駄にしていたのか」


 何を……言っているのだ?


「さあ、あなた達ももうすぐ……」


 ――本星より通信――


 『宇宙の外』に殻が出現した。


 この宇宙も卵になる――


≪了≫

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