勇気を出した私と逃げた君の後悔

@komari8944

第1話

「上原緋色ひいろさん、私と付き合ってください!」


今日私は人生のターニングポイントにたった。

高校二年生の9月、秋に向かうそよ風と夏の残り香が同居する季節に私は上原緋色に告白をしてしまった。


今まで親友として近くに入れるだけで良かったのに、彼女を見ているとどんどんと欲が溢れ出ていく。

親友ではなく、彼女の隣で一生を添い遂げたい。


そんな欲は私と彼女の親友という繋がりを簡単に壊してしまう。

修復不可能な程に。


━━━━━

「上原緋色さん、私と付き合ってください!」


私の勇気と欲が合わさってなんとか口に出せた言葉。

それは彼女にたった一言で粉々に砕かれる。


「……冗談…だよね?」


あぁ、だから口に出すべきじゃなかった。

彼女の隣で短くても親友として残りの時間を楽しむべきだった。

でももう口に出してしまった。

なら言いたいことは言ってしまおう。


「冗談じゃない、本当に私はあなたの事が「やめて!」」


「ねぇ、嘘だよね?今ならまだ面白い冗談で終わるからさ、ね?」


彼女のその言葉には焦燥、寂寥感が混ざっていた。

それは親友だと思っていたものがいなくなることになのか、同性からの好意という未知のものに対してなのか私には分からない。


だが彼女の目はこれ以上言って欲しくないと切実に訴えてきていた。

つまり拒絶されたということだ。

ここまでしっかりと伝えられてまだ相手に好意を伝えられるほど私の頭はお花畑じゃないし私の心は強くない。

だから私は逃げ出してしまった。

逃げ出した時、上原緋色は何か喋っていたが今の私には聞いてはならないものだった。

聞いていたら私の心は跡形もなく壊れていただろう。


逃げ出したあとのことはあまり覚えてない。

気づいたら自分の部屋に籠って寝ていた。

茫然自失とはまさにこの事なのかもしれない。


あぁもう学校行けないや。


----------------

私は昨日、宮浅葱あさぎに告白されていた。


初めは驚きだった。

同性の相手からの告白、しかも親友から。

別に嫌ではなかった。

彼女からの好意を嬉しくも感じた。


でも私は彼女を拒絶した。

親友としての関係が終わってしまうことに私は恐怖を感じていた。


だから私は冗談ということにして元に戻ろうとした。

彼女からしたらあんなことを言った手前、前のようには戻れないと理解していたのかもしれない。


だから彼女は逃げ出した。

そして彼女の居なくなった後、私はどうしようもない喪失感と深い後悔の念に駆られた。


次の日、私はもしかしたら昨日の出来事は夢なのではという淡い期待を抱いて登校した。


だが彼女が学校に来なかった。

私は焦りながら担任に聞いた。


「先生、浅葱さんってどうして休んだんですか?」


「ごめんね、まだこっちに連絡来ていなくって分からないのよ。」


やっぱり昨日の出来事のせいだ。

私が彼女の覚悟を踏みにじったから。

私が親友を失うことを怖がったから。


後悔は一度してしまうと止まらない。

心臓に穴が空いたように痛み出す。

まるで身体が自分のに罰を与えているようだった。

だんだん苦しくなる。

息が…酸素が…なくなって……。


「緋色!」


どこからか声が聞こえてきた。

それも呼ぶような声ではなく叫ぶような、声の主を探すとすぐに見つかった。

桜部古白さくらべこはく、私の友達。

宮浅葱の次に仲がいいと言っても過言じゃない人物。

古白は心配そうにこちらを見て問いかける。


「大丈夫?今日朝からずっと死にそうな顔してる。何か悩みとかあるの?」


その彼女の問いかけはまさに天からの救いの手のように感じた。

今の私にはその救いの手を取ること以外にこの状況に耐えられるすべはなかった。


だから昨日あったことを彼女に全て伝えた。

古白は何も言わずに黙って話を聞いてくれた。

そして全てを話し終えた。

彼女は暫く頭を悩ませていたが意を決したように話し始めた。


「ねぇ緋色、なんで悩んでんの?」


「……え?」


彼女からのそんな問いに変な声が出た。


「だって今回緋色がしたことは最悪なことだよ。相手の好意を踏みにじった挙句、自己嫌悪して自分を戒めてるように見せかけて自分を慰めてる。」


「……そんなことわかってる。」


少し不機嫌な声になってしまった。

だが彼女は私の機嫌など気にせずに言葉をつむぎ出す。


「ならさ、謝るしかなくない?別に嫌ではなかったんでしょ?」


「……うん。嫌じゃ…なかった。最初は好意を抱かれて最純粋に嬉しかった。」


彼女の言葉は優しく、有無を言わせないような力強さがあった。

いつもなら軽くかわせる、でも今だけは真摯に向き合わないといけないと思った。


「私…謝る……浅葱に謝って自分の気持ちをしっかり伝える。」


だから自分で言葉にする。

これから起こす行動の決意を。

おそらく私は彼女に拒絶されてしまうだろう。

彼女の勇気を踏み躙り、関係をぐちゃぐちゃにした私を恨んでいてそんな私を許さないと思っているのかもしれない。


でも、もし……もし許しくれるなら彼女と真摯に向き合いたい。


━━━━━

放課後、私は浅葱の家に来ていた。

心を落ち着かせてインターホンを押す。


しばらくすると浅葱のお母さんが出てきた。


「緋色ちゃんどうしたの?」


「学校のプリントを届けに来ました。あと……浅葱と話をしたくて。」


私は覚悟を決め言葉を放った。

これから彼女と向き合うという決意を忘れない為に。


「あら、そうなのね。じゃあ上がっていきなさい。」


「はい、お邪魔します。」


私は挨拶をして玄関に入る。

浅葱の部屋は2階にある。

十数段登ればつく、それくらい近い場所なはずなのに今の私には、ものすごく遠く感じた。

深呼吸をして心を落ち着かせる。

ここで引き下がったらもう二度と浅葱と話すことはできない。


それは嫌だ。

だから覚悟を決めて彼女の部屋の前にたった。

彼女の勇気、覚悟は昨日の放課後彼女自身が見せてくれた。

なら次は私が見せる番。


そう思い私は勢いよく彼女の部屋の扉を開けた。


----------

何時間ぐらい寝たんだろう。

私の体はまだ鉛のように重い。

もう一度寝ようかとそんなことを考えていた時、いきなり自室の扉が空いた。

お母さんかなと思い、私が目をやると扉の前にいたのは上原緋色だった。


私は体が強ばるのを感じた。

段々と息ができなくなっていき、脳に酸素が送られない。

彼女からまた拒絶されるのが怖い。

だから逃げようとした。

だが体は鉛のように固く動かない。

私は何も出来ずにせめて彼女の顔をこれ以上見なくて済むように目を強く閉じた。


----------

彼女の部屋に意を決して入った私は1日ぶりに宮浅葱と対面した。


彼女は私を見ると怯えるような顔をして震えていた。

これが私が彼女にしてしまったこと。


そう感じれば感じるほど悔恨の念が強くなっていく。

だが後悔は今じゃなくてもいい。


今この彼女の震えを止められるのは私しかいない。

だから意を決して彼女の近くまで行き、そのまま彼女を抱きしめた。


「……?」


そう困惑してる彼女に向かって私は言葉を紡ぐ。


「浅葱、ごめん!昨日の私酷かったよね。本当にごめん。」


「……え?」


浅葱は私の言葉の意味がわからないような声を上げた。


「浅葱からの告白、嬉しかった。行為を向けられて嬉しかった。でもそれと同じくらい親友って関係が終わることが怖かったの。」


私の口から出てくるのは言い訳ばかりで彼女に対していかに自分が最低なことをしていたのか再確認させられる。


「……ひい…ろ?」


浅葱から戸惑いのような声が聞こえる。

私はその声になんて答えればいいのかわからずしばらく沈黙した。

黙ったまま私は彼女を抱きしめる。


今私のできる精一杯の謝罪、そして気持ちの伝え方。

彼女に届くかは分からない。

でもやる価値はあると思った。


「ひいろ、私からの告白嫌じゃなかったの?」


「嫌なんて全然思わなかった。むしろ嬉しかった、浅葱からこんなふうに思って貰えてたのかって。」


私は彼女の質問に心からの返答を送る。

彼女はまたしばらく黙ったが先程までの震えはもう止まっていた。

彼女は一度深呼吸してから話し始めた。


「緋色!私ね諦めが悪いんだ。告白が失敗してもまだそれでも緋色のそばに入れるなら私ずっとあなたに好意を伝え続けるよ。」


泣いているのか少し嗚咽まじりの声。

でも今までのか弱い声がうそのように今の彼女には力強さと明るさがあった。


私はその声に酷く安心した。

私が粉々にしてしまったものは完璧には戻れない。

でもまた新たに強固に結びつき始めたように感じたから。


だから私は彼女の顔をしっかり見て笑顔を向けた。

宮浅葱も笑顔を返してくれる。


そんな空間が嬉しくて愛おしくて我慢ができなかった。

真摯に笑顔を向けて私と向き合ってくれた彼女に対して……。


宮浅葱に対して私はキスをした。

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