過日の遊戯に御空の風を

ルークアイド・チェス

Section1 - クエスト!!

【依頼番号】

 0000009D23


【依頼名】

 新世界の開拓と整備


【依頼者】

 かわいいかわいいセンチュリーくんの、たった一人のお姉ちゃん!


【概要】

 先日、探知によって新規に発見した異世界『ヴェンガーソー』(暫定命名)の開拓と整備を依頼したい。

 道具および食料はこちらで十分な量を用意している。また、ヴェンガーソーとの移動、帰還はこちらで用意する。


【報酬】

 要相談。


【達成基準】

 一通りの居住生活が可能な程度に整備


【追加報酬条件】

 子供が好きに遊び回れるくらいの広く安全なスペース、適度なオブジェクトの配置

 その他便利で面白い様々なものの配置


【受注状況】

 受注済み。

 担当者は【ニコラス】および【フラットキャンバス】。



 * * *



「海の香りだぁ~」


 ニコラスは両手を広げ、潮の香りのする空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 知的な佇まいをした、しかしながらどこか抜けた子供のような無邪気さを併せ持つ、高身長の女研究者だ。短い金髪のうち、一部だけがまるで漂白剤で脱色したようになっているのが良く目立つ。


「……髪が重いし、しっぽが湿気る、ぬぬぬ」


 フラットキャンバスは自分のしっぽを静かに上下させながら、不愉快な環境への苛立ちを隠さない……。


 赤と青のツートンカラーの帽子、シャツに身を包んだ、猫獣人の少女。栗色の髪と派手な服装はややミスマッチにも見えるが、彼女を見慣れた人からすればよく似合う。


 ――彼女らの目の前に広がるのは、どこまでも続く大海原である。


 船も、飛ぶ鳥もなにひとつ見当たらず、ましてや陸地などどこにもない。本当にどこまでも海が続いていた。


 その上に雲一つない青空が広がり、太陽は見当たらないが夏の日差しのように眩しく、暖かい。


「開拓整備って言っても……」


 フラットキャンバスは後ろを向いた。


 ふたりが今立っているのは、サイズにしておよそ一辺五メートル程度の岩場だ。もっと言うとそこにはほとんど物と呼べる物がなく、これだけでは開拓どころか彼女らの生活すら危うい……。


 ただ、今回の開拓の要はそこに置かれた『ボックス』だ。正式名称はこれまた長ったらしいものがあったが、今はいいだろう。


 概ね一メートル程度のサイズを持つ、小さな金属製の立方体の箱だ。よく磨かれているのか、その白い表面はとても滑らかである。


 その『ボックス』は開閉できるようになっているが、今は鍵がかかっている。今回の依頼者曰く……時限式で定期的に鍵が開き、この海の底に沈んでいる何かしらの『おたから』を持ってきてくれるんだとか。


 まあ、金銀財宝とは限らないのだが。土塊かもしれないし、錆びた銅かもしれないし、はたまた魚かもしれないとのことである。


「あれでしょ~。マイクラみたいにこう、領土広げればいいんだよね? まあ私やったことないけど!」


「じぶんも無いよ。ニルちゃんを連れてくるべきだったでしょ、あの子プレイヤーだし……。なんでじぶん……」


 残念ながら『ボックス』はまだロック中だ。開けられるようになるまで……あと一分ほどか。


「むん……」


 人差し指を宙に向けてみるも、魔力は途中で消えてしまう。微かに橙色のきらめきが舞った。


 この世界は魔法的な観点からするとどうやら異質な環境にあるようで、魔法の持続的な行使が妨げられてしまう。パッと物を切断するとか、水を乾かすとかいうのはできる。


 半面、岩魔法で岩石の足場を創ったり、草魔法で木を生やしたりということが不可能なのだ。あくまで『持続的な』行使ができないため、一瞬だけであれば岩を創り出すことはできる――本当に一瞬だけであれば。


 まあ、こんな環境だからわざわざ面倒な依頼を出したのだろう……依頼主の実力があれば、普通の世界にプレハブを作ることなど造作もないはずなのだから。


 ――かちこーん。


「やった~! 開いた開いた!」


 気の抜けたベルのような音とともに、『ボックス』の蓋がひとりでに開く。中に入っていたのは――


「岩がいくつかと――よいしょっ、砂だ!」


「おー」


 ごろごろとした大きな岩石が五個。収まりきるはずのないサイズを見るに、どうやら『ボックス』には空間的な異常特性もあるようだ。


 それから正直細かな砂なんていくらあっても使い道がそう無い気はするが、念のため貰っておこう。


 入っていたおたからをすべて取り出すと、『ボックス』の蓋はひとりでに閉じ、またチクタクとカウントを始めた。


「さーてさて! にしし、それじゃあ領土拡張~!」


「そんな岩でどうやって……?」


「『水刃アクアカッター』! 『火球ファイアボール』!」


 がこん、ばきっ、じゅう……。


 なかなか耳にしない音と共に、あっという間にニコラスは岩を成形、溶接し、一枚の綺麗な岩だったかのように元の足場にくっつけてしまった。


 バキリと折れて沈んでしまいそうにも見えるが、どうやら海面の浮力やらなんやらで一応の均衡は保たれているらしい。


「……おお」


 思わず感嘆の声を零すフラットキャンバス。


 余すところなく岩を活用した結果、陸地は十メートル強まで拡張された。さすが、一応科学者なだけはある。


「んじゃあまあ……物の加工とかはかなり簡単に済みそうだね」


「だねえ~!」


 テンションの温度差はひどいが、一応なんとかやっていけそうでは……ある。

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