路上占い、あれこれ163その2【占い師は暴露する(仕事編)】

崔 梨遙(再)

職場の掌編、第2弾 2095文字 です。

 僕は今、障害者の就労継続支援A型事業所で働いています。勿論、一般で働くことが目標であり前提です。僕も一般で働くためのリハビリと思って働いています。とはいえ、今目の前にある仕事に全力でぶつかってきました。リハビリとはいえ、あるいはリハビリだからこそ、手を抜くことはありません。



 今回はイケメン職員Aさんのお話をしますね。これから、イケメン職員さんと書きます。


 イケメン職員さんは30代後半、かっこいいです。いかにもモテそうです。


 僕が入社した時、美人利用者(僕達は社員でも職員でもなく利用者と呼ばれる立場です)さん主催してがいました。美人利用者は40代前半でしたが若く見えました。さすがに20代には見えませんでしたが、30代前半に見えました。美人利用者さんは、みんな(男性陣)から『かわいい、カワイイ、めっちゃかわいい!』と言われていました。いわゆるマドンナ的な存在だったんですね。ですが、僕は少し違いました。『そんなにかわいいか?』と思っていました。確かにカワイイです。カワイイのですが、『めっちゃカワイイ』って『めっちゃ』をつけるほどか? このくらいなら、ざらにいるぞ! と思っていました。自慢と思われてもいいですが、僕は元モデルとか、もっとかわいくて、もっと美人の女性達と付き合ってきました。そこで、思いました。利用者はみんな障害者です。身体障害者は少なく精神障害者が多いのですが、みんな早くから発症しています。本当の美人を知らずに生きてきたんだな、世界が狭いんだな、と。僕は恵まれていたのだと思い知りました。ですが、僕は美人利用者さんに気は遣っていました。長年の経験から、女性スタッフを敵にまわしてはいけないとわかっていたからです。ですが、僕は美人利用者さんを好きにはなれませんでした。美人利用者さんは自分がカワイイということを自覚していることがわかっていたからです。僕はそういう人は好きにはなれません。


 という美人利用者さんなんですが、1月の終わりの懇親会で、イケメン職員さんと席が隣になりました。それから、美人利用者さんはおかしくなりました。昼食を階段の踊り場で食べたり、奇行が目立つようになったのです。そして、最終的には事業所に出勤しなくなりました。


 結論、美人利用者さんは退職しました。その話はイケメン職員さんと美人利用者さんの電話から始まりました。

『この前の懇親会、なんで私の横に座ったんですか?』

『そこしか席が空いてなかったからです』

『私、ダメです。あなたのことを本気で好きになりました。あなたが他の女性スタッフと話してるところを見るだけでヤキモチを焼くようになりました。もう耐えられません』


 要するに、マドンナはイケメン職員さんに惚れてしまって事業所から去ったのです。男性でも女性でも、ただ魅力的というだけで他人を振り回してしまうことがあるんですね! っていうか、イケメン職員さんには奥さんがいるんですけどね。



 しばらくして、20代後半のギャルが入社してきました。ウチの事業所は、見学、体験実習、それから契約なのですが、班長が休んだのでイケメン職員さんが見学と体験の対応をしました。体験の時にはイケメン職員さんのことを『お兄ちゃん』と呼ぶようになっていました。契約手続きで社長が同席しても、まだ『お兄ちゃん』と呼んでいたらしいです。


 入社して、ギャルがイケメン職員さんに言いました。

『私、見学の時からここで働くと決めてました』

『仕事に興味を持ったんですか?』

『お兄ちゃんのことを好きになったからです』

『……』


 でも、イケメン職員さんとは実務になると接点が無くなるんです。実務はもう1人の職員さんと班長が仕切るからです。イケメン職員さんはデスクワークです。


 するとギャルは初日からイケメン職員に面談を希望。ミーティングルームからギャルが号泣する泣き声が聞こえていました。『せっかく入社したのに、お兄ちゃんが相手をしてくれない』という悲しみの号泣だったらしいです。


 そして入社3日目、朝、喫煙コーナーでイケメン職員さんとギャルと、もう1人女性スタッフでタバコを吸ってる時にもう1人がイケメン職員さんに仕事の質問、イケメン職員さんは一言『そうですよ』。そしてその日もギャルは面談希望。今度は、『私には冷たいのに、もう1人の女の子には優しかった』

と、駄々をこねたらしいです。


 イケメン職員さんもケジメを考え、

『こういう業務に関係無い面談なら、次回から面談中は時給が発生しなくなりますよ』と。


 すると、ギャルは翌日から来なくなりました。


 イケメン職員さんが理由で入社して、イケメン職員さんが理由で来なくなったというお話です。



 ここからは余談ですが、さっきの話に出て来たもう1人の女性スタッフ、巨人なのですが、この人もほとんど休んでいました。たまに来たと思ったら、

『仕事って緊張しますー!』

と言いながら仕事中によく寝ます。絶対に緊張してない。

 今月の中頃に電話がありまして、

『年内は休ませてください、しんどいです。来年からまたよろしくお願いしますー!』

とのことです。


 怖い、怖い。こんな職場です。



 まだ仕事の話は続きますよ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

路上占い、あれこれ163その2【占い師は暴露する(仕事編)】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る