俺の彼女が卵を産んだ

ここグラ

俺の彼女が卵を産んだ

「私が卵を産めばいいんだよ!!」

「……なあ林檎、一応聞いておくが前世は鳥だったとかないよな?」

「失礼な、私はちゃんとお父さんとお母さんが産んでくれた子だよ」


 学園の教室で俺、高校生の榎宮正嗣えのみや まさつぐは頭を抱えた。目の前にいる可愛い女の子、玉城林檎たましろ りんごは俺の自慢の彼女なのだが……こんな発言をされては、異世界転生疑惑も持ちたくなるものだ。いや、むしろ擬人化か?


「しかしなあ、人間が卵を産めないのは分かってるだろ?」

「でも、人間を産むには精子と卵子をだね」

「ストップ!! この小説をアップ出来なくなるような話はやめよう」

「正嗣君のメタっぽい話の方が、やめたほうが良いと思うんだけど」

「と、とにかくだ、どうしてそんな発想になったんだ?」

「要は、正嗣君が私を独り占めしているのが問題なわけでしょ? だったら、私が増えれば解決じゃない!!」


 まあ、理屈は通っているんだが……問題はそれが実現不可能だということだ。少なくとも、ここは魔法学校でも特撮の舞台でもない。


 どうしてこんな話になっているのかと言うと、要は林檎が人気がありすぎるせいだ。林檎は学園一の美少女で、当然男子生徒から絶大な人気を誇る。彼氏である俺が彼女の林檎を独り占めするのは何ら変ではないのだが、嫉妬に狂う野郎どもがそんな簡単に納得するわけがないというわけである。


「いや、それが不可能だから言ってるんだろ?」

「異世界転生できるなら、卵を産むくらい出来るんじゃない?」

「謝れ!! 異世界転生作品に謝れ!!」

「あ、産めたよ卵」

「出来るんかい!!」


 林檎の掌から、6個の卵が出現した。割ってみると、掌サイズの林檎が出てきて、机の上でわちゃわちゃはしゃいでる。どういう理屈なのかは分からんが……可愛いからどうでもいっか!!


***


 掌サイズの林檎6人は瞬く間にクラスの話題になり、あまりの可愛さにお持ち帰りしようとする奴が男女問わず続出したため、あくまで見ているだけの共有財産となった。


「せ、殺生な……こんな可愛いミニ林檎ちゃんに触れられないなんて。ナデナデして、抱きしめて、頬スリスリしたいのに」

「ポケットに入れて、四六時中一緒に過ごしたい!! 家に帰ったら机の上に置いて着せ替えして、枕元に置いて一緒に寝たい!!」

「お前らみたいのがいるから、共有財産になるんだっての!!」


 まあ、気持ちは分からないでもないが……ぶっちゃけ、俺もしたいし。ミニ林檎可愛すぎだろ、大量殺戮兵器だぞ、これ。


 で、うちのクラスだけ独占するなってことで学園のいたるところにミニ林檎は出張することになった。まず一人目、ミニ林檎1号は……授業中、先生に資料を渡したり黒板消しで黒板の字を消している。


 なぜかミニ林檎は空を飛べるらしく、その姿は授業を受けている生徒はもちろん、先生をも魅了し、ぶっちゃけみんな授業そっちのけでミニ林檎に夢中である。


「やべ、俺こんな授業が楽しみになったの初めてだわ」

「癒されるよね~。一家に一台ならぬ、一教室に一人ミニ玉城さんが良いなあ」


 ミニ林檎、無限増殖かよ!! で、次はミニ林檎2号なんだが……学食で配膳の手伝いをしている。出来上がった料理をカウンターで生徒に渡す係なんだが、みんなミニ林檎に夢中でボーっとして立ち止まる奴が続出し、回転率が良くなるどころか悪化した。


「すいません……私の分身のせいで」

「あら、ミニなあなたのおかげで今日はお客さんの人数倍増だから、気にしないで」


 こういうところは律儀なんだよなあ、林檎は。そして、ミニ林檎3号は……風紀委員の手伝いで、校内を歩き回って風紀を乱している生徒に注意している。


「こらー、制服はちゃんと着ないとダメだよー」

「は、はい!! 気を付けます!!」


 何だか効果てきめんとのこと。まあ、愛くるしいミニ林檎に言われたら、そりゃ言うこと聞きたくなるわなあ。しかし……何だろう、このモヤモヤした感じ。


***


 ミニ林檎4号~6号も学園の至る所で活躍し、放課後になったらすべてのミニ林檎は林檎のもとへ帰ってきた。林檎とミニ林檎6人の合計7人の林檎と一緒に、今は帰っている。うーん……これもハーレムと言うのだろうか?


「今日は賑やかな日だったね」

「ああ、やっぱり林檎は人気者だな」

「……何だか元気ないよね、正嗣君」

「そうか?」

「うん。みんなはしゃいでる中で、何だか一人だけ、みたいな」


 そう……かもしれない。可愛い林檎がたくさんいて、みんな林檎を愛してくれて、嬉しいはずなのに……なぜか面白くない。


「私を……独り占めしたいとか?」

「!!??」

「図星?」

「……ああ。ミニでも分身でも、やっぱり林檎は俺だけの林檎でいてほしい。独占欲強くて、嫌かもしれないけどさ」

「ううん……嬉しい。ごめんね、私が軽率だった。私も……正嗣君だけの、私でいたい」


 その瞬間、ミニ林檎6人は光を放ちながら、消えた。明日、学園中の人達が落胆すると思う。だけど、それでも良い。俺と林檎の世界は……二人だけのものだから。


「ちなみに……ミニな私は、どうだった?」

「……滅茶苦茶可愛かった」

「このロリコン」

「ロリコンっていうのか、これ!!??」


 だってさ、幼くなったんじゃなくて小さくなっただけだろ? うーむ……萌えは奥深い。




~あとがき~


 読んで下さって、ありがとうございました。可愛い女の子がミニサイズになって増殖してわちゃわちゃ動く、想像するだけで愛らしいですね。


 カクヨムコン11では他にも、長編ミステリー『冥恐の死神伝説殺人事件~瞬間移動を使い、乙女を狩る怪物~』を書いておりますので、読んで下さると嬉しいです。作品のURLは以下の通りです。


https://kakuyomu.jp/works/822139840483911526

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の彼女が卵を産んだ ここグラ @kokogura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画