星詠の魔女

@culo3385

第1話 2人を繋ぐ最初の魔法

この世界は、眩しいほどに美しい。輝く海、木々が揺れる森、動物が平和に過ごす山々、風でなびく草原、そして…人々の笑顔が飛び交う街………。

全てが美しく、全てに残酷なものが紛れている。

ある時は津波で人を呑み、森は理不尽に切開かれ、動物は動物同士で殺し合う。山々は地獄を顕にした炎で生命を焼き尽くし、草原では獰猛な風が気まぐれに軽々と人を吹き飛ばす。そして…人々は悪意から、人を殺し、従わせ、滅ぼす。

「人」とは、生まれ持っての勝ち組。何せ、人には全員、強大な力を得ている。それは、言わば「魔法」と呼ばれる技術。個々が持つ「体質」と、最大の武器である「知恵」を使い、何者に対しても対抗できる「術」に昇華させた、正しく人類が作り出した唯一の結晶。

しかし、その結晶は所有者によって、輝くものにも、淀むことにもなる。これこそ、世界が残酷であることを体現している。力というものは、平等に分けられるものではない。

その被害にあった人は多くない。実際、私もその一人だ。

「……あぁ…。今日は…これだけか……。」

いつも通り、ゴミ箱を漁り、出てきたものはパンの耳のみ。

「……とは言え、腐った生肉よりかは…マシかな……。」

本当に、何時もよりかはマシなご飯だった。私は迷わず、パンの耳を口に放り込み、食事を終えた。しかし、いくらマシであったとしても、パンの耳ではあまり体力をつけることは叶わない。

「………てことは…安静かな……おじさんたちに見つからないようにしなきゃ…」

私は、自身が見つけた穴場である、とある店の路地裏で身体を休める。ベッドなどという上等なものなんて無く、雨風を凌ぎ、病に体を蝕まれないようにするには、棄てられたボロボロの布切れしかない。

「……もう…寝よう…。」

そう言い、目を閉じようとしたその時……。

「おい、小娘。何をしている?」

目の前には、美しく、整えられた青い長髪に、惹き込まれそうなほど艷やかな桃色の目、そして特徴的なのは、「魔法使い」を象徴する尖った帽子…。

間違いなく「魔法使い」である。そして、私は知っている…。「魔法使い」は、人を見下してくるろくでなしばかりだと。私は、諦めたように言い放つ。

「……それを知って、どうするの…?殺すの…?」

どうせいつもの人と同じ。そう思っていた矢先、魔法使いは口を開き、私に向かってこう言った。

「まぁ…知ったところで意味はないな。大体予想もつくしな……。」

(…………だろうね…こんなに分かりやすい状況だもの…。)

そう思いつつも、聞かれたことに対して答えることにした。

「……住む家がないの。ずいぶん前からね…。」

嘘偽りなく、きちんと答えた後、その魔法使いは言い放った。

「そうか…。なら、私が拾ってやろう。」

………多分、この人は変人なのだろう…。物好きと言い換えてもおかしくは無い……。

そう思いつつも、今の生活よりも苦難なものはないため、この魔法使いに着いていくことにした。

着いて行った後に、殺されてしまうことになっても、大して後悔はないため、デメリットがないと踏んだからだ。それよりも、普通にご飯を食べられるかも知れないというメリットがすくなからずあったからだ。

「意外とあっさりだな。てっきり抵抗すると思っていたが…。」

「……抵抗する意味がないもの。それで…私は貴女の元に行って、何をすれば良いの……?」

そう問うと、魔法使いは冷たい眼差しを向け、こう言い放つ

「私の下で役に立てるように修行してもらう。役立たずなら実験に使う。ただそれだけのことだ。」

他の人にとって、これはかなりの脅しなのだろう。だが、私にとっては願ったりなことであった。ご飯も食べれて、寝泊まりもできる。ここまでおいしい話は他にない。

「良いよ。貴女には、私を好きなようにさせてあげるよ。」

予想外の反応だったのか、目の前の魔法使いは少し目を見開いて、驚いたような表情を見せる。

「……生意気だな…。まぁいい、付いて来い。」

私も立ち上がろうとする。しかし、思ったように身体がうまく動かない。ふらふらと立ち上がり、目の前もぐにゃりと歪む。呼吸もしづらい。

そんな姿を見た魔法使いが、私の腕をつかみ、苛立ったような顔で

「ッチ……。鈍臭いな…。仕方ない。おい、ガキ。しっかり掴まっておけ…。」

そう言うと、私たちの足元に、光り輝く魔法陣が浮かび出す。その魔法陣から風が吹き、下から私たちを巻き上げると、突然の浮遊感が私たちを襲った。そして、目を開けた瞬間……

綺麗な自然が広がっていた。つい先程まで居た、私たちの街の何倍も綺麗な平原だった。

「……全く…。ガキ、お前のせいでわざわざ転移魔法を使う羽目になったんだぞ?」

イライラしたように、私に向かってそのような言葉を吐き捨てる。

すると突然、こちらを向いて、ある一つの問いを投げかけてきた。

「そう言えばお前、名前は?」

そう言えば、二人とも名前を名乗っていなかったのだ。私は、魔法使いに向かってはっきりと言った。


「私は…レイ・フロル。貴女は?」

そう言うと、魔法使いも名前を上げた。


「私の名前はリゼル・ライラル。『魔女』だ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星詠の魔女 @culo3385

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ