お前たちがそう望んだから俺はその手を放した 4

お前たちがそう望んだから俺はその手を放した。

そう思い込んだその言葉が呪いとなってからいくら経っただろうか。

仲間を失い、一人きりになっても旅をつづけた男が遭遇したのは一体の魔族だった。

先の出来事以来、技も体も鍛え続けた男にとっては全くもって相手にならなかった。

余りにも手ごたえがない相手に、哀れみを持った男は一度は見逃すことにした。

一人になってしまった自分と相手を重ねてしまったのかもしれない。

しかし、彼は魔族というものをわかっていなかった。

彼らが如何に復讐というものに貪欲で、執拗で、陰湿なのかということを見に持って味わう結果となった。


再び魔族と出会ったとき、人影が多いことに気づいた。

魔族の背後には二人の外套で顔を覆った人物が見える。

男は当然剣を構えたが、魔族が満面の笑みで後ろの二人へと合図を送った。

二人が外套を脱ぎ顔を表すと、剣は男の手から滑り落ちた。

そこにいたのは、以前彼を逃がすために殿を務めた仲間たちだった。

瞳から光は消え失せ、体中に残る傷痕は二人がどういう境遇にあったかを示すには充分すぎるものだった。

そして、二人は武器を取り出し構えた。男に向かって。

男は慌てて剣を取り直すが、踏み込んでくる二人に対して受け流すことしかできなかった。

みんなで世界を救おうと誓ったあの日を、その誓いを胸にまた必ず会おうと託されたあの日が胸の中を駆け巡っていた。

今目の前にいる二人は誓いなどどこへ行ったのかという風情で襲い掛かってきていた。

恐らく今男が想像できるものを遥かに超えるような目に合い、手放さざるを得なかったのだろう。

男は涙が止まらなかった。

自分がもっと強かったら、自分が残っていれば、自分が一緒に捕まっていれば。

自分が二人に逃がされる前に倒されてしまっていれば、二人は捕まらずに済んだのではないのだろうか、と。

その姿を見ていた魔族は高笑いを上げていた。

直後、魔族が手を振り上げると、二人は男の眼前で光と共に四散した。

男がその激しい爆風に包まれたのを確認した魔族は腹を抱え地面を転げまわった。


爆炎が収まり始めたとき、魔族は己の目を疑い何度もこすっていた。

煙が漂う中を一歩ずつこちらへ向かってくる影が見えたのだ。

その姿を確認する前に逃げ出そうと背を向けた魔族は背後から首元を握りしめられた。

今にも潰れようかと軋む音を上げながら足が宙に浮く感覚を覚え、視線を何とか背後に送るとそこにはただひたすらに無表情な男がいた。

必死に恐怖を取り繕い魔族は男に向かってジェスチャーをしていた。

自分のおかげでアイツらに会えたんだろう?と。

男はそれを理解したのか、はたまた見てすらいなかったのか、そのまま首を握りつぶし、剣を振り下ろした。

幾度も振り下ろされたその剣の刃が折れたとき、男の手はようやく止まった。


二人が着ていた外套を手に持った男はそのままさ迷うように旅に戻っていった。

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