【パイロット版】前世の"魔王"としての記憶を取り戻した俺、美少女に転生した元配下に懐かれる。

シトラス=ライス

第1話 真央が魔王覚醒!


「おい菅田、金よこせよ」


「ど、どうぞ……だから殴っないでくださ……」


「3000円ってしけてんなぁてめぇ! ぶっ殺すぞ!」


「ひぎゃぁぁぁぁぁーーーー!」


 坂下の鉄拳が腹へ捩じ込まれた。

その衝撃で、俺は高架下にあるフェンスまで吹っ飛ばされてしまう。

 そして頭がコンクリートの柱に当たり、鈍い音が脳髄へ直接響き渡る。


「やっぱヒョロガリはよく飛ぶなぁー! ひゃはははは!」


 学校でもよくちょっかいを出してきて、こうして度々恐喝をしてくる不良の坂下は、地面にうずくまる俺を見て悪魔のような笑い声をあげている。

 と、そんな中、視界に赤が差し込んできて、意識が呆然としだす俺。


「お、おい、これやばいんじゃ……?」


 坂下の取り巻きの1人が声を震わせていた。


「なにぼさっとしてんだ! 逃げるぞ!」


 そして坂下をはじめとした、いつも俺をいじめているグループはその場から、風のように逃げ去ってゆく。


……もし、ここで俺が死んだら、状況証拠とか色々であいつらは地獄行きだ……ざまぁーみろ……


 などと強がりを思い浮かべつつ、俺は地面へ伏していった。


 今日は気温が比較的高いはずなのに体が寒気を覚えている。


 どうやら俺【菅田 真央】の17年間の人生はここで終焉を迎えてしまうらしい。



ーーそう自分の最期を思い浮かべたその時だったーー



『我が名は魔を統べる王の中の王……"大魔王ゴルゴルディ"! いくぞ、皆の者! 魔族の自由と平和を勝ち取るために!』



 明らかに自分とは違う声。でもどこか懐かしさを覚えるその声に、俺は耳をそばだてる。



『はっ! 我らが三魔将王は共に! 行くぞ皆のもの! 人間どもを殲滅だぁー!』


 ああ……この屈強だけど、スマートな印象のこいつは、1番最初に俺に共鳴してくれヴァンパイアロードの"メルサード"だったけ……こいつは最後の最後まで、愚かな俺を信じて、付き合ってくれたんだよなぁ……。


 他にも黄金のリビングアーマーだったり、髪が全て蛇なゴーゴンの美女だったり……多種多様で、しかも大勢……大勢なんて矮小と思えてしまうほどの、有象無象の大軍勢が俺の目の前にいて荒れた大地への進軍を開始する。


 我ら"魔族軍"の目的はただ一つ。

相容れぬとのことだけで、我らを虐げてきた人間どもを蹂躙し、世界を"魔族が安心して暮らせる世界"へ作り替えること!


「ふ、ふふ……そうだ……ようやく、思い出したぞ……全てを……!」


 かつての記憶は、俺に一切合切の魔法や、さまざまな知識を思い出させる。

手始めに無詠唱で"回復魔法"を展開してみれば、血に染まった視界はあっという間に明るさを取り戻し、体に力が舞い戻る。

そしてコンクリート地面を両足でしっかりと踏み締めて、再び大地に立つ。


 そんな今の俺はーー


「菅田 真央とは世を偲ぶ仮の姿……俺の本当の名は"ゴルゴルディ"……大魔王ゴルゴルディである! ふふふ……あーっははははは!!」


 全てを思い出した俺は興奮のあまり、かつてのような高笑いを高架下に響かせる。


「ママー! 変なお兄ちゃんが笑ってるー!」


「みちゃいけません!」


 と、目の前を慌ただしく走り去ってゆく母子。


 他にいた通りすがりのサラリーマンは唖然としているし、JKなんかはクスクス笑いがならスマホを向けている。


……俺は恥ずかしさのあまり、その場からピュッと駆け出してゆく。


 そして人目をやや気にしつつも、飛翔魔法を使い、夕焼け空へその身を舞いあげた。


(全てを思い出したのなら、やるべきことはただ一つ……前世の悲願の達成だ!)



 俺たちゴルゴルディ軍団の悲願は、この世に魔族の楽園を作ることであった。

だが前世では勇者のクソ野郎に負けてしまい、その悲願を達成できなかった。

でも、いつかその夢を叶えるために、俺は自身や腹心の部下達へ秘術である"転生の魔法"をかけて、"今のこの世界"へ解き放っていたのだ。


(もしこの世界においても、あいつらが困っていたり、助けを求めているのなら必ず救い出す。それが、この世界で大魔王ゴルゴルディとして覚醒した俺の務め!)


 と、超高層ビルのアンテナの上で、今後の予定を考えていたその時、俺の千里眼が不愉快な連中の不愉快な行動を見つけてしまう。


 なんと、先ほどこの俺様を殴り飛ばした、クソ野郎坂下とその取り巻き達が、人間の少女に襲いかかっていたのだ。


 やはり人間は下等で愚劣だ。美女を見つければ、人だろうが、魔族だろうが遠慮なく襲いかかる猿に等しい。


「くく……だが、試し撃ちには丁度いいのは確かだ! 今の俺に、部下たちを救う力があるかどうかを見極めるのにな!」


 俺は超高層ビルから飛び、目下で学生服の美少女を壁へ押し付けている、坂下の阿呆どもへ向かってゆく。


「い、いやぁ……! 離してっ……!」


「ジタバタすんじゃねぇ! 大人しくしねぇと……」


「まてぇい!」


 今まさに、坂下が黒髪美少女を手にかけようとしていたその時!


「だ、だれだ!?」


「いつの時代・異なる世界においても存在しうる、王道から悪しき道外れし愚かな輩……俺、それを"外道"という!」


「お、お前……菅田なのか……?」


 ようやく俺の存在をはっきりと認識した坂下は明らかに動揺した顔をしている。


「菅田……そう確かに俺は、ついさっきまで、ただの菅田 真央という人だったのは認めよう……!」


俺は驚愕する坂下とその取り巻き達を、魔力で紫紺に燃える双眸で睨め付けた。


「だからなんなんだよ、お前!」


「お前らに名乗る道理などない! さぁ、大人しく我に跪けぇい!」


 腕を振るい紫紺の魔力を放つ。


 それは俺を中心にして波紋のように広がって行く。


「うがっ!? な、なんだ、これは!? あ、足がっ……!」


 強烈な魔力は浴びせかけられただけで、相手を怯ませることができる。

だから坂下と、その取り巻き達は俺の圧倒的な力を受けて、膝をついてしまったのだ。


 本当はボコボコにぶん殴って再起不能にしたり、魔法でミンチにしてやるのもやぶさかではないが……現世でそんなことをした日にゃ、俺の方が、国家権力に捕まってしまう。それはまだ困るのだ!


「どうした、坂下? 恐怖のあまり声も出ないと言ったところか?」


 それでもこれまで覚醒前の俺に散々酷いことしてきたコイツには一矢報いたいと思い、奴の頭を靴底で踏みつける。


 奴は憤怒と恐怖がないまぜになったかのような、可笑しな表情をしている。


「さぁ、坂下。俺の名を呼んでみろ」


「う、ぐっ……す、菅田っ……」


「なぁにぃ!?」


「うぐっ、ああ……菅田様ぁぁぁぁぁーーーー!!」


 遂に恐怖に負けた坂下は路地裏にそんな情けない声を響かせる。

ちゃんと言えたということで、頭を踏むのはやめてやる。


「良いか、この名をよく刻んでおけ。もしお前が再び俺に楯突くようなら、次は容赦なく殲滅してやる! わかったな!?」


「ひ、ひぃぃぃーーーー!」


 解放された坂下とその取り巻き達は脱兎の如く駆け出して行くのだった。


 これにて坂下への制裁は、とりあえず完了。


 あとはもう一つ……あいつらにエロいことをされそうになっていた人間の美少女から俺の記憶を消さないと。

今はまだ、俺が大魔王ゴルゴルディだと知られるわけには……


「あれ? どこいった……?」


 何故か真正面から美少女の姿が消えていた。


「こちらでございます、魔王様!」


 驚いて視線を下げる。


 するとそこには地面へ恭しく傅き、頭を垂れている学生服の美女2人の姿が!?


「私のことをお忘れですか!? ヴァンパイアロードのメルサードでございます!」


 黒髪清楚な印象の美女が、そう口にしてくる。


なんか見覚えが……てぇ!?


この人って【千祭ちまつり 月夜つくよ】さんじゃないかぁ!?

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