第5話 許す事にした。
陽子も邦明も会社から居なくなり、周りは少しだけ俺に同情的な物の、いつもの日常に戻った。
少し違う事は、ここに恋人の陽子も、親友の邦明も居ない事だ。
2人が居なくなり思った事は意外にも寂しいだった。
よく考えたら学生時代も成績維持の為に勉強ばかりしていたから友人は少なかった。
女の子に至っては傍に常に陽子が居たから、他の女友達なんて誰もいない。
それに……今回の裏切りは許せない。
だけど……体の相性、一緒にいた時の居心地の良さ。
長年一緒に過ごしていたからか、悔しいが陽子以上の相手には恵まれない気がする。
おばさんから聞いた話では中絶の手術後、陽子は原因不明の発熱状態が暫く続き不妊症になったそうだ。
詳しい理由は教えて貰えなかった。
俺は誰にも言っていないが『子供があまり好きじゃない』
勿論、大人の俺はそんな事は表に出さない。
だが、二日酔いの時に、外から聞こえてくる子供の遊ぶ声にイライラした事は1回や2回じゃない。
だから、子供が出来ない体というのも、俺に取ってハンデではない。
と……思えなくもない。
子供が欲しい反面、子育てを俺がちゃんと出来るのか?
二つの天秤は半分半分。
悩まずに結論が出た。
そう考えれば良い。
おばさんもおじさんも顔を合わせる度に『言えた義理じゃないけど、娘に会って欲しい』そう言ってくる。
うちの親も親で散々怒ってはいた物の、いざ陽子が引き篭もってからは……『顔位出してあげたら』とやや同情的だ。
どうしようか迷いながらも俺は未練があるので陽子の家を訪ねる事にしたんだ。
◆◆◆
「純也くん来てくれたのね」
「ええっ、まぁ……」
おばさんに挨拶だけをして勝手知ったる陽子の部屋に向かった。
ドアにはカギが掛かっている。
トントントン
ノックをしてみたが返事がない。
「純也だけど……」
俺が名前を名乗るとドアがガチャリと開き中から陽子が顔を出した。
「純也……来てくれたんだ入って……」
俺は黙って陽子の部屋に入った。
「……」
さてなにから話そうか……
「あのね、純也、私、邦明にね……酷い事言われて捨てられちゃった……あははははっ」
「そう……」
まぁ、話しは聞いている。
「私って馬鹿だよね! 本当に男を見る目が無かったんだ……子供が出来たら『自分の子じゃない! 純也の子だ』なんて言い出して責任から逃げようとするんだから最低だよ彼奴……」
俺が色々言ったせいかも知れないけど……まぁ、逃げたのは邦明だ。
そして、そんな逃げる様な奴を俺以上に好きになったのは陽子だ。
「だけど、そんな邦明を好きになったのはお前だろう? その結果捨てられた。それだけの話だよな? 」
「うん……そうだよ……それは分かっている。私が見る目が無かったの……それだけ……」
かなり、へこんでいるのは見ただけで分かる。
折角出来た赤ちゃんを堕ろして子供が出来ない体になったんだからそりゃそうだ。
「それで、おじさんやおばさんから、陽子が『俺に会いたがっている』そう聞いたんだけど? なにか言いたい事があるのかな?」
まぁ、言いたい事は分かる。
「うん……私が悪かったの……もう元通りには戻れないのも分っているつもり……だけど、まずは謝らせて……ごめんね」
「そう、謝罪する気はあったんだ! だけど、言葉だけの謝罪じゃ足りないよ……」
「うん、分かっているよ……私、純也には随分酷い事をしたもんね。もし、許してくれるなら私、なんでもするよ! うん、土下座でも何でも……これから一生かけて償うから……駄目かな……」
「口約束じゃ、信用できないから、それちゃんと書面にしてくれる?」
「許してくれるの?」
「ああっ、良いよ……」
こんな状態でも俺は陽子を愛している。
だけど、二度と裏切られたく無い……
その予防はさせて貰うよ。
「うん、私二度と純也の事裏切らないから……」
そう言って陽子は笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます