◽️プチストーリー【神様、夏祭りに来ませんか?】(作品No_05)

かんすい

◽️プチストーリー【神様、夏祭りに来ませんか?】(作品No_05)

♪はぁあ 踊り踊るなぁらぁ ちょっいと東京音頭

♪ヨイッヨイッ


やぐらの方から、音楽が聞こえてくる


おかあさーん、綿アメ買ってよー

子供たちの声も聞こえてくる


私はお財布を開き、五百円玉を取り出し、暗くて見えづらいお賽銭箱に向けて投げた。コトンっ。


深いお辞儀を静かに2回

パンパンッ。

ゆっくりと目を閉じて、口をパクパク動かした。


「ゆうこー何してるの?」

私は目を開き、後ろを振り向いた。

なぎさ が左手と右手にフランクフルトを1本ずつ持っていた。

「はい、ゆうこ に1本あげる。どこかで食べようよ」

「なら、あそこの 人があまりいない神社の裏の、石の段差に座ろうよ」

ゆうこ は考えながら口にして指さした。

「えー、あそこ、ライト届かないし、お祭りに来てる人たちも見えないし、せっかくの雰囲気が味わえないよ」

「まぁまぁ、なぎさ とゆっくーりと語らいたいということでいいじゃないですか」

私は なぎさ の手を取って、神社の裏側の石段に連れて行って2人で肩を並べて座った。


「いただきまーす」

2人は乾杯するようにお互いフランクフルトを見せ合って大きく口を開けて頬張った。プチっという音と共に肉汁が口いっぱいに広がる。

「うまぁ!」 2人の声が重なった。


♪やーとな それヨイヨイヨイ

♪やーとな それヨイヨイヨイ


「私、けっこうこの距離感好きなんだ。暗いと思っても、ほら、隣には なぎさ いてくれてるし、耳を傾ければ、盆踊りの音楽が聞こえる。そこに集まって踊っている人たちの足音、子供たちの元気な声、カップルの慎重な声。

色んな音で溢れてて、今を楽しもうとしてる。なんか、いいのよ」

「ふーん」なぎさ は、首を少し傾けた。

私はそんな なぎさ の目を両手で塞いだ。

「ちょ、ちょっと何するの、いきなり」

「まぁまぁ、しばらく、じっとして」

2人は神社と一体となり、周りの音だけが残された。


♪やーとな それヨイヨイヨイ

♪やーとな それヨイヨイヨイ


「ゆうこ の言うこと、少しわかったかも」

「でしょぉ。これが通の楽しみ方よ」

「何をそこまで自慢げに! 」

ふふふふ。ははははは、2人は笑い合った。

「ゆうこ、まだ何か食べたい?かき氷とか? 」

「ううん、ありがと。今日はあまりお腹空いてないかな」


私たちは、この神社の裏側で、たわいもない、

でも今の私たちには、たわいもなくない話をしばらく語り合った。


なぎさ が立ち上がり私の手を取って

「ゆうこ、私たちも盆踊りの輪に入ってみよう!踊ろ! 」

「え?!私、踊り知らないし、運動苦手だよ」

「聞こえませーん」

「なにそれー痛い痛い。行くよ、行くから! 」


そんな楽しい時間はあっという間に過ぎた。ちょうど良い時間ってのはあるのだろうか。


お祭りをたっぷりと堪能した2人は帰るために神社の入り口の鳥居に近づいていた。


なぎさ は思い出したように

「そういえば、ゆうこ、私と待ち合わせてるとき、神社にお参りしてたよね。

何をお祈りしてたの?彼氏できまようにとか?もっと先行っちゃって幸せ結婚できますようにとか!! 」

「違う違う、そんなじゃないよ。

 でも、教えない。言うと願い叶わないかもだから。叶ったら教えるよ」

「何それー。気になる」

「まぁまぁ、さあ、帰ろ帰ろ」


数時間前、なぎさ を待つ間、ゆうこ は神社でお参りをしていた。

『神様、私は、夏祭り直前に彼氏に突然別れを言われてしまいました。楽しみにしてたのに、、、。

なぎさ は何も聞かず、即座に2人で夏祭りに行こうと強引に決めてくれました。

神様、一度、夏祭りに来ませんか?

私、つらい、私はつらいけど。この場所に来たら、このお祭りの場には、今を全力に楽しもうという気持ちに溢れてる。私は、、、やっぱり今も、自分も、これから会う人も信じていたいです。どうか私が挫けそうになったら、そのときだけ神様、私に力を貸してください。』


(了)

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