赤子

ねほりはっとう

赤子

「……よし、カメラ回ってるよな」

「ごめん。父ちゃん、母ちゃん」

「って、もう聞いてるかも知んねえか」


「俺、捕まっちまったよ」

俺何やってんだろうな。わざわざ、大学まで行かせてもらってさ。

「これはイタズラでも何でもねえ」

「だから、これから話すそれに至る経緯と、何をしたかを真剣に聞いてくれよ」


「会社が悪いわけじゃない」


会社は悪くない。むしろこんな俺をよく扱ってくれたと思う。ちゃんと有給も取らないことを心配してくれたり、無理矢理残業させられたこともなかった。


「俺が悪いんだ」


そう、俺が悪いんだ。それは分かっている。分かっているはずだ。俺が何もできないから。業績は、いつも一番下だった。そんな俺を会社はきちんと支えてくれた。

「次があるから頑張ろうぜ」

同僚が言った。

「まぁまぁ、そんなときもある、次は頼むぞ。俺は気にしてないから顔を上げろ」

上司が言った。

その”次”はいつも空回りで終わっていつまでも来なかった。なんでか、それを問われても

「分からない」

俺は何度その言葉を口にしただろうか?


「赤子が嫌いでさ」


俺は赤子が嫌いだった。その泣き声を聞くだけで、その顔をぶん殴りたくなる。会社の帰り道に、その泣き声をよく聞いては、アダルトサイトを開いて包めたティッシュをゴミ箱に募らせ、不快な臭いをワンルームのアパートいっぱいに広げた。


「んでさ、なんかこう。イラッとしちゃって」


なんて言えばいいのだろう。

ずっと、同じことやってきて。飯食って、仕事して、クソして、寝て。仕事を、して。そういえば、人から励まされることはあったけど、褒められたことはなかったっけ。ずっとミスを無くそうと空回りしてばかりだったから。赤子はそんなミスすらしなくても、喚くだけで褒められる、カバーをしてもらえる、そんな赤子が羨ましくも、そんな自分が情けなかった。


「だからさ、殺しちまったよ」


「こう、ナイフで、サクッと」


どんな感じだったか思い出せない。


「えっと、まず、スーパーかなんかだっけ、外で放置してるベビーカー見つけて」

「それでそのまま、ベビーカーごと貰って」

「自分の部屋に持って帰って」

「それで、そのまま。腹を殴って」


「殺して」

赤子の鳴き声が部屋に響いて。


「そんぐらい」


「だから」


「父ちゃん、母ちゃん」



「ごめんな」


カメラを切った。


赤子の泣き声が、アパートに響いた。

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赤子 ねほりはっとう @Nehorihattou

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