第19話:CEO爆誕
あれから数年。 ダブレ領はもはや、周辺諸国にとって争う対象ではなく、
畏怖を込めて交易を請うべき「怪物」へと変貌していた。
他国の要人が訪れるたび、エミリーは「友好の証」と称して
最新兵器のデモンストレーションを開催。
火を噴くライフルと唸りを上げる迫撃砲を前に、
他国は戦意を喪失し、ダブレの抑止力は完璧なものとなった。
領内はかつてない豊かさに沸いていた。
エミリーはミランダを使い、民に「節税」
という名のレクチャーを徹底させた。
所得が年間 金貨360枚以下なら税率はわずか10%だが、
それを1枚でも超えれば95%という、
文字通りの「鬼の重税」が課される仕組みだ。
結果、民の誰もが「金貨359.9枚ギリギリ」で所得を抑え、
生活水準が均一化。
ダブレの民は、自らを理想的な「中流階級」だと思い込み、
平和を謳歌していた。
◆
だが、エミリー本人は別のことを考えていた。
この世界での人生を十分に楽しみ、満足もしている。
そして最近では、三歩後ろで熱い視線を送ってくるミランダの気持ちに
「気づかないふり」をすることにも、限界を感じ始めていたのだ。
エミリーは、ミランダを呼び出した。
「ミランダ。貴方の『ミランダ教』、
今週中に誰か適当な後進に教祖の座を譲りなさい」
「えっ、そんな適当でよろしいのですか?」
「いいのよ。あんなの、適当に作ったインチキ宗教なんだから」
困惑するミランダを連れて、
エミリーは鉄工所の隣に新設された巨大な工場へと足を踏み入れた。
そこには、蒸気と油の匂いを纏った、
巨大な黒鉄の塊が鎮座していた。
「えええええっ!? エミリー様、これはいったい……」
「フフフ……。これはね、『蒸気機関車』よ。
ミランダ、貴方は私の言うことなら、何でも聞くと言いましたわね?」
えっ ハッ 仰せのままに。
「貴方、来月から『ミランダ鉄道株式会社』の
代表取締役に就任してちょうだい。」
「CEOの爆誕よ!!」
エミリーの計画は壮大だった。
港町タミンから王都までを繋ぐ、王国初の鉄道敷設。
エタール王国の全土の70%を横断する建設だった。
王都の国王エタール5世も、欲深い11人の元老院も、
「ダブレが全額出資するなら」という条件で、
二つ返事で建設を許可していた。
ミランダは、有り余るダブレの資金を投入し、
駅周辺の土地を猛スピードで買収していった。
線路が引かれ、駅ができ、
そこにダブレの技術による5階建てのビルやデパートが建つ。
土地価格は爆発的に高騰し、人、物、電信を使った情報網、
そして莫大な富のすべてがダブレへと逆流し始めた。
駅ごとに作られた「ダブレ銀行」が、出来た時、
王国の経済を実質的に支配下に置いた瞬間だった。
◆
その時になって、
王都の王族や貴族、元老院も
一切金を出さなかった事に後悔する。
この時点で「ほぼ 利権が無かったのだ」。
焦った 王都側は、
ついに 目の上のタンコブのエミリーを葬る事を決意する。
弱みを握られてる エタール5世王ですら 決断する事になった。
いや むしろ もっと早く始末するべきだったと思う位だった。
まず 王都側は、ダブレに対し 非常識な重税を課すと、
使者を送りつけて来たが エミリー側は、返答すらせず追い返した。
エミリーは ミランダを呼んだ。
(エミリーの残された時間が迫っていた)
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