タイムリーパらない、天崎ちゃん!

管野脩平

タイムリーパらない、天崎ちゃん!

 天崎悠あまさきゆうは、順風満帆な日常を謳歌していた。


 ◆◆◆


 私の名前は天崎悠。花も恥じらう女子高生。ぴっちぴちの十六歳。


 家族構成は父と母と双子の弟の四人暮らし。


 滅茶苦茶可愛い(過大評価。可愛くはある)けれど、学校の成績はほんのちょっとだけ悪い(過小評価。とんでもなく悪い)のが玉に瑕。


 この世界に、私の思い通りにならないことなんてひとつもない。幸せで幸せで、やり直したいなんて一度だって思ったこともないくらいに、とーっても幸せな人生を送っているのだ。


 今日はおろしたての真っ白な靴を履いちゃった。占いでラッキーカラーは白、ラッキーアイテムが靴だって言っていたから、きっと運命の出会いがあるに違いないよね☆


 ◆◆◆


 そんな感じで悠が希望に満ちた表情で勢い良く玄関のドアを開ければ、昨日のどんよりとした雨雲が嘘のように消えて無くなっており、空は物の見事に快晴だった。見渡す限り、雲一つ無い。


 家を出て数歩の距離、歩道と車道の境目には昨夜の豪雨によって作り出された大きな水溜まりがあった。悠が歩道に差し掛かるやいなや、通学中の学生が乗った自転車が物凄いスピードで車道を駆け抜けていく。


 車輪によって激しく跳ね飛ばされた薄汚れた水が、あっと言う間すらもなく悠の真新しい靴にまだら模様の染みを刻みつけた。一目見ただけで、すぐに洗ったところで最初の真っ白な状態に戻るとは到底思えなかった。


 悠は一瞬で表情を失った。目を見開き、開いた口が塞がらない。手に持っていた鞄をその場に取り落とす。次の瞬間には、膝の皿が割れそうな勢いで膝から崩れ落ちた。擦り剥いた膝からじわじわと血が流れていく。物凄く身体が痛い。無意識のうちに瞳から涙も流れ始める。物凄く心が痛い。


「終わりだ。もう世界なんて終わっちゃえばいいんだ……」


 言うが早いか、世界に急激な変化が訪れる。


 天は瞬く間に雷雲に覆い尽くされ、驚天動地の雷鳴が轟き、大地へ滅多矢鱈と降り注ぐ。どこからともなく強風が吹き荒び、各地で巨大な竜巻が発生した。震源地が判別不可能な巨大地震が立て続けに発生し、休眠状態だった火山が先を争うかの如く大噴火。地割れが人や動物や建物や、とにかく世界中の何もかもを飲み込んでいく。


 まさしく、阿鼻叫喚の地獄絵図。


 世界は、唐突に終わりを告げようとしていた――


「はい、ストーップゥッ!!」


 遅れて玄関を飛び出した双子の弟の天崎司あまさきつかさが人間業とは思えぬ超高速で悠の眼前にカットインしてくる頃には、司以外の世界の全てが完全に静止していた。世界を滅ぼす程の力を隠し持った超能力者サイキッカーである姉の悠と同様、司も世界を救うほどの力を隠し持った超能力者である。


 悠と違って司には自覚があるのが、世界にとって唯一無二の救いであった。


「この馬鹿姉がッ! 何回世界を滅ぼせば気が済むんだッ!!」


 全てが静止した世界で、司は一人虚空に向かって叫ぶ。


 眼の下の隈が酷い。


 この日、司は猛烈に寝不足であった。


 ◆◆◆


 夜間に襲来した異星文明の無差別攻撃により、安眠を妨害された悠は不機嫌極まりない寝ぼけまなこのまま、つい先ほどの終末的破局カタストロフィと同じように、至極あっさりと世界を滅ぼしかけてしまった。


 睡眠中に叩き起こされた司は慌てて世界の時間をその瞬間で留め置くと、異性文明の襲来以前にまで時間を飛び越えたタイムリーパった



 同時刻、太陽系第三惑星近郊の宇宙空間、異星文明先行強襲部隊の母艦にて――


 地球人類に良く似た体型の、地球人類では有り得ない毛髪の全くない灰色の肌をした手足の短い奇妙な生き物が、母艦の中を所狭しと忙しなく駆け回っている。作戦開始時間が迫り、若干の緊張感が漂っているが、科学力の差を鑑みれば負ける要素が微塵もなく、どことなく余裕すら感じられる。


 母艦の中心部にあるメインコントロールルームに設置された、体型に不釣り合いなほどに巨大な座席に腰掛けた司令官は、短い腕と短い足をそれぞれ無理矢理組んで大仰にふんぞり返りながら、メインモニターに表示された青い惑星――地球の全景を眺めている。


『くくく、あの青い惑星は、間もなく我々の手によって滅び去るのだ』


 ※本来は異星文明の言語ですが、特別に日本語に翻訳してお送りしております。


 言うが早いか、艦内で爆発音が轟いた。メインモニターを含む全てのモニターが赤く明滅して、けたたましい警告音アラートが響き渡る。


『何事だッ!?』

『げ、原住民が艦内に転移テレポートしてきましたッ!』

『馬鹿なッ! そのような技術を持つ文明では無かったはずッ!?』


 司令官の苛立った詰問の声に、オペレーターが慌てて返答するが、それがさらに司令官の苛立ちを加速度的に増大させていく。


 艦内の監視カメラが侵入者を捉え、瞬時にコントロールルームのメインモニターに映し出される。


 映し出されたのは、可愛い花柄パジャマ姿の司だった。その表情は、服装とは不釣り合いな悪鬼羅刹の如く歪みに歪んでいる。


「お前らのせいで、馬鹿姉が寝ぼけて、世界を滅ぼしちまうだろうがぁッ! 責任取って、先に滅んじまえぇぇぇぇぇッ!!」

『何を言っているんだあいつはッ!?』


 司令官は、原住民の言語を正確に翻訳しているにも拘わらず、理解不能な言動を繰り返す司に困惑するばかりであった。


 司は驚異的な精度を誇る空間転移テレポーテーションの使い手であった。行ったことがあろうとなかろうと、自分が行かねばならないと考えた場所に一瞬で転移が可能である。座標の計算だのなんだのの配慮をしなくても、世界が勝手に調整してくれる程度には世界からの寵愛を受けている。


 さらには凄まじい念動力サイコキネシスの使い手でもあった。その辺に落ちている物体を手も触れずに振り回して超高速であちこちに叩きつける。何なら物体を利用しなくとも潰れろとか捻れろとか想像するだけで実行可能な程である。異星文明の反撃もそのことごとくを、念動力を駆使した見えない障壁により無効化する始末。


『誰か、助けてくれぇぇぇぇぇッ!』

「何言ってるか、わからねぇんだよぉッ!!」


 理不尽ここに極まれり。


 感情の赴くままに異星文明の母艦を破壊し尽くした後は、宇宙空間に出て随伴艦隊を相手に引き続き戦闘を繰り広げる。呼吸? 念動力で空気の膜を作っておけばどうとでもなる。酸素が足りなくなったら転移で地球から補給だ。


 結局、司は最後まで一人で戦い続け、異星文明の侵略者たちを撃退することに成功した。


 こんな凶悪な生物が生息している惑星など滅ぼす意味も制圧する意味もない。とばかりに、圧倒的戦力差を痛感した異星文明は、地球圏への立ち入りを半永久的に禁止するまでに至った。その異星文明が銀河の覇権を争うレベルの超科学力を持つ超巨大文明であったがために、銀河中に地球圏は恐れ戦かれる羽目に陥り、地球外生命体とのファーストコンタクトの機会は半永久的に失われることと相成った。


 そんなこんなで司が家に帰ってシャワーを浴びて布団に潜り込む頃には、既に夜は明けていたのであった。


 戦いの余波で雨雲は全て吹っ飛んで、翌日の天気予報が大外れでクレーム殺到という新たなる悲劇を生み出すほどの激戦であった。


 八面六臂の大活躍。まさしく救世主である。


 実に、通算九十六回目の救世であった。


 ◆◆◆


 その時と同じように、司は何の躊躇いもなく時間を飛び越えるタイムリーパる


 次の瞬間には、悠が玄関で新しい靴を愛でるように優しく紐を結んでいるのを尻目に、素早く乱暴に靴を履いて、悠の横の隙間を潜り抜けるようにして大慌てで玄関を飛び出す。


 司のよくわからない行動に、悠は呆気に取られて先ほどの時間軸よりも家を出る時間が僅かに遅くなる。


 その結果、先ほどと同様に自転車が駆け抜けて薄汚れた水が巻き上げられると、悠への防波堤となるべく文字通り身体を張った司の全身をものの見事に汚して見せた。


 これでは、明け方にシャワーを浴びた意味がない。急いで着替えなくては始業時間に間に合わない。


「なにやってんの、あんた……」

「ほっとけ!」


 姉の怪訝なものを見るような視線を受けつつ、直接の原因でありながら理解することは決してない無慈悲な言葉を投げかけられて、司はふくれっ面で吐き捨てた。


「いつまでこんな日々が続くんだ……」


 司は悲嘆に暮れていた。天を見上げて打ち拉がれるしかなかった。


 通算九十七回目の救世であった。


 ◆◆◆


 急いで制服の汚れを濡れタオルで拭き取り、代えの効くワイシャツや靴下や下着などは全速力で取り替えて、自分を待つことなく先行して学校に向かっている悠を必死の思いで追いかけた。


 追い付けば追い付いたで、再び「なにやってんの」と思っているのが見え見えの怪訝な視線を向けられて、苛々を必死で抑え込んで歯噛みする。


 慌てるのも当然だった。いつ何が起こるかわからない。つまりは、いつ世界が滅びるかわからないということだ。


 就寝中だってあんな感じな訳だから、無論、登校中だって気が休まらない。


 普段は杞憂に終わっているものの、よりにもよって眠気がマックスの今日に限って、往来のど真ん中に銀ぴかの全身タイツのおっさんがいた。


 悠も司も呆気に取られてその場で固まってしまった。


「我々は未来からやってきた。この時代に世界を滅ぼす程の超能力者がいるとの調査結果に基づき参上した。我々の安寧のためにその身を研究材料として捧げるがいい!」


 悠が突然銃を突き付けられて誘拐されそうになり、いつものように世界は瞬く間に滅び去ろうとしたので、司はいつものように時間を飛び越えるタイムリーパる


 誘拐犯が現代の時間軸に辿り着く前に単身で未来に殴り込み、過去の超能力者を誘拐しようとする過激派集団をあっという間に殲滅した。


 その際の司の表情があまりにもアレな感じで、攻撃方法もあまりにもアレな奴ばかりだったので、未来人たちは超能力者そのものに恐れ戦き、研究したり操ったりするのは諦めて若干謙りつつも手と手を取り合い協力関係を結んだ。おかげさまで割と詰んだ感じのディストピアになりかけていた未来に、僅かながらも希望の光が灯った。


 通算九十八回目。


 ◆◆◆


 再びの通学路。


「ワレワレハ、チテイジンダ」

「出直してこい!」


 なんかいた。


 問答無用で時間を飛び越えるタイムリーパる。地底帝国に乗り込んで速攻で叩き潰した。捻り潰した。引き千切った。てんやわんやの大乱闘だった。


 あまりの強さに、地底世界の新たなる神として崇め奉られる始末。地底人にとって、地上は神の住まう、決して手を出してはならない恐怖の世界に変わった。以後、地底人が地上に繰り出したという記録は残っていない。


 通算九十九回目。


 ◆◆◆


 天崎司は、荒唐無稽な非日常に辟易していた。


「今日はいくら何でも多すぎるだろうがッ!!」


 悠に聞こえないように悪態を吐く。月一回だって多いくらいだってのに、なんでまた今日に限ってこんなに立て続けに世界が滅びなくちゃいけないんですかッ!?


 もうやだ。


 司が打ち拉がれて一瞬だけ悠から目を離した瞬間だった。


 悠が、バナナの皮を踏んですっころんでいた。すってんころりんという言葉に相応しい醜態を目の当たりにし、司は世界の滅亡を幻視した。バナナを絶対に許さないと決めた。


 だがしかし――


 颯爽と現れた同じ高校に通う男子生徒(見覚えはないが制服が同じだった)が、悠の身体をしっかりと抱きかかえていた。


 新たな救世主の誕生だ。


 司は神に感謝した。二人を出会わせてくれてありがとう。


 悠は、自分を助けてくれた男子生徒の顔をまじまじと見詰めて、頬を朱に染めている。


「好きです。結婚してください」


 頭の中が年中お花畑で季節感に乏しい悠の、階段を十数段飛び越えたかのような愛の言葉を聞いて、司は瞬く間に鬼神の如き形相となった。


 司は神に激怒した。どうして二人を出会わせてしまったのだ。


 これ、振られたら世界が終わる奴だ。


 しかも、巻き戻したところで直接的原因を排除することが難しい。この瞬間だけ一時的に出会わないようにするのは簡単だが、学校が同じとあってはまた顔を合わせることもあるだろう。そうなれば、同じことが繰り返される危険が常につきまとう。


 そうなる前にあの男を消すか。


 人としての一線を越えた思考が脳裏を過ぎる。


 いや、人殺しになるのは避けたい。いやいや、地底人だとか未来人だとか宇宙人だとか魔王だとか超能力者だとか転生者だとか暗殺者だとか忍者だとか暴走トラックだとか、これまでにも散々ぶっ殺してきたから今更と言えば今更ではあるが。殺さないと世界が滅んでしまうんだから不可抗力ということにしてほしい。そうでなければストレスで司の胃袋に穴が空いてしまう。あ、暴走トラックには人が乗っていなかったからカウントミス。いや、今はそれどころではなくて。


 混乱しまくった司は一歩目を踏み出すのが遅れに遅れた。


「ちょ、まッ!」


 司のちょっと待ったコールが届くより僅かに早く、男子生徒が口を開く。


「もちろんです。私はあなたに会うために生きて来たのですから」


 二人は見つめ合い、幸せなキスは公衆の面前だから流石にしないけど、なんやかんやでハッピーエンド。


 いや。なんでや。


 司は一歩目を踏み出そうとした不自然な体勢のまま、心の中で精一杯のツッコミをぶちかました。


 背後から拍手の音が聞こえた。


 振り返れば、真っ黒いぴしっとしたスーツをバリッと着こなした長身のバリキャリ風味の女性が立っていた。バリキャリと断定しないのは怪しいことこのうえないクソでかサングラスをかけているからである。


「よかった、実によかった。長年の苦労がやっと報われた」


 なんでか知らんが泣いていた。泣きたいのはこっちの方だと司は思う。


「なんなんすか、あんた……」

「申し遅れました。私はこういう者です」


 名刺を差し出された。


『秘密結社 世界救済機構(有)』 課長代理補佐見習い 地堂遙ちどうはるか


 なんこれ。


 今時中学二年生でもそんな安直な組織名を付けないだろう。秘密結社なのに有限会社とはこれ如何に。役職なんかはお察しである。司は半眼で遙を睨み付けた。


「お気持ちはお察しします」


 こっちがお察ししていたらお察しされていた。解せぬ。司の半眼は細めに細められて糸目になりそうなくらいであった。


「ここからは、私どもにお任せください。必ずやお姉様を世界を滅ぼす気にさせないくらいの幸せで圧死するくらいに幸せにして差し上げます」

「ナチュラルに殺害するのやめてくれます?」


 しかし、直後、その発言の違和感に気付く。


「なんで、知ってるんです?」

「時間を飛び越えれば、あなた以外の誰も察することは出来ないとお考えでしょう。しかし、世の中には世界が書き換えられたことを認識出来る能力者も存在する、とだけ」


 サングラスをくいっと押し上げにやりと笑う。頭がいいと思われたい人がよくやるあんまり頭がよく無さそうなアレだ。自然にやるなら似合っていて頭が良さそうに見えるが、わざとらしく目線を合わせて笑いながらそれをするのはよくない。実によくない。司からしてみれば、現実的に考えるとサイズが合っていなかったり、汗を拭わず放置していた結果ずり落ちているだけで、その仕草自体が頭が良さそうには思えないのであった。


 そういう仕草は本当に頭がよくて似合っている人が自然とやるからよいのである。


「あまりに時間が掛かってしまった。あなたの十六年にも渡る献身に心からの感謝を」


 遠い目をして現実逃避を始めた司を余所に、遙は深々と頭を下げた。


 その所作には、あまりにも実感が込められていた。心の底から感謝しているのだと伝わってくる。


 自分の苦労を理解してくれる人がいたという事実に、司は目頭が熱くなった。


「もう、時間を飛び越えなくてタイムリーパらなくて済むってことですか?」

「……極力」


 遙はサングラス越しで視線が交差していないにも拘わらず、首がぶちっともげそうな勢いで視線を逸らした。


 熱くなった目頭が、すぐに乾燥しそうなくらいに遙を改めて睨み付ける。


「……時間を飛び越えるタイムリーパることもあると?」

「……時と場合によります」

「そうですか」

「頻度は、減らせるように、前向きに善処する、と約束したい気持ちなのですが気持ちの問題なので如何ともしがたいような、そんな感じで……」

「はぁ……」


 司は大きな溜息を零した。


 空を見上げる。


 お空綺麗。綺麗にしたのは自分だが。


 ◆◆◆


 天崎司は、荒唐無稽な非日常に辟易していた。


 生きることに疲れた高校二年生。


 双子の姉を、長きに渡って見守ってきた。世界の滅亡に一人で立ち向かい続けてきた。誰にも自分の苦労が伝わることはなかった。それが、こうやって、いまいち頼りないけれど、理解してくれる人が現れた。


 先ほどはイラッとして涙が引っ込んだが、改めて状況を顧みると、やっぱり何だか泣いてしまいそうだった。


 最終的に自分が出張らないとならない可能性は示唆されているが、出来うる限りは秘密結社(笑)の皆さんがどうにかしてくれるのかもしれない。


 これからは、少しくらいは、自分のために時間を割いてもいいのだろうか。


「この後、暇だったりします? お茶でもどうっすか。救世主の愚痴の一つくらい聞いてくださいよ」


 司のお誘いに対し、遙は懐から懐中時計を取り出すと時間を確認した。


「間もなく始業時間ですが?」

「駄目、っすかね……」

「いえ、救世主を労うのですから、一日くらいサボったところで神も仏もくっそ無能で事なかれ主義のパワハラ鬼上司も何も言うますまい」


 最後の一人には得も言われぬ恨み辛みが込められていた。


「就職の際は、是非、我らが世界救済機構を選択肢の一つにお加えください」

「え、やだ。そんな鬼上司がいる会社なんて」


 流石の司も即断即決である。


「ご安心ください。此度の功績を以て、あなたが就職先を決める頃には私が機構を牛耳っていることでしょう。ふはははは」


 外見は格好良いが、中身は面白いお姉さんだった。


 この人が上司であるならば面白可笑しい職場になりそうだが、部下は苦労することになるんじゃないだろうか。


 でも、まあ、一人で世界を救うよりはずっとましかもしれなかった。


「前向きに検討致します」


 遙の表情がサングラス越しでもパッと華やいだのがわかった。しかし、次の瞬間には凄まじい勢いで華が散って表情が曇り散らかす。


「あ、払いは割り勘でお願いします。今月厳しいので」

「あなた、役職付きの社会人なんですよね?」


 司は訝しんだ。就職先は前向きに検討することを止めて慎重に検討することとしよう。


 幸せそうに手を繋いで校舎へ向かっていく悠と新しい救世主の背中を見詰めながら、司は校舎に背を向けて歩き出した。


 前途洋々とはいいがたいものの、何はともあれ、天崎司くんの天崎悠ちゃんのために時間を飛び越えるタイムリーパる日々は、一応の終わりを迎えたのであった。

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