冷静と情熱のあいだの勇者
茶電子素
第1話 あっさり
魔王を倒した瞬間、世界は平和になった。
……らしい。
いや、知らんけど。俺は別に平和を望んで魔王を倒したわけじゃないし。
俺の名前はレオン・ガルディア。
世間では「勇者」と呼ばれているが正直どうでもいい。
魔王城の玉座の前で
俺は血まみれの剣を肩に担ぎながら倒れた魔王をつま先で軽くつついた。
「おい、死んだか?」
返事はない。まあ死んでいるな。
後ろで仲間のミラが震えながら言った。
「レオン……魔王を倒したんだから、もう少し喜んでもいいんじゃない?世界が救われたのよ?」
「救われたかどうかは知らんが魔王がいなくなったのは確かだな」
「いや、そこは“やったー”とか“終わったー”とか……」
「終わってない」
俺は魔王の死体を見下ろしながら淡々と告げた。
「魔王を倒したら次は世界征服だ」
「……は?」
ミラの顔が固まった。
後ろで控えていた僧侶のカイルも杖を落としそうになっている。
「レオン、それは冗談……だよな?」
「冗談に聞こえるか?」
「聞こえないから困ってるんだよ!」
カイルが頭を抱える。
ミラは口をぱくぱくさせている。
俺は二人の反応を見て少しだけ肩をすくめた。
「魔王を倒したら世界が平和になる?そんなわけないだろ。国家同士の争いは続くし、腐った貴族はのさばるし、民は搾取される。だったら全部まとめて俺が支配したほうが早い」
「いや、発想が極端すぎるのよ!」
「極端か?合理的だと思うが」
「合理的の意味を辞書で引き直してきて!」
ミラが叫ぶ。
俺は剣についた血を軽く振り払った。
「まあ見てろ。すぐ終わる」
「終わらせる気なの!?本気で!?」
もちろん本気だ。
魔王を倒した今、俺を止められる存在はこの世界にいない。
それは俺自身が一番よく知っている。
――というわけで世界征服を始めることにした。
◆
最初のターゲットは魔王討伐を命じてきた アストリア王国 だ。
王都の城門前に立つと衛兵が慌ててやってきた。
「ゆ、勇者レオン殿!?遠征中とお聞きしましたが……!?」
「もう用事は済ませた。通せ」
「い、いえ、王命により閉じられた門ゆえ、いくら勇者殿でも我らの一存では――」
衛兵が言い終わる前に俺は門を軽く押した。
ギギギ……バキバキ……ドゴォン。
門が外れた。
「……」
「……」
衛兵たちが口を開けたまま固まっている。
俺はその横を通り抜けながら言った。
「修理は後でいいだろう。王に急ぎの用があってな」
「いや、後でよくないだろ……!」
カイルが後ろでぼそっと呟くが聞こえないふりをした。
王城の玉座の間に入ると
アストリア王、グランツ三世が驚きを隠し切れない顔で立ち上がった。
「ゆ、勇者レオン!つい先ほど聞いたぞ。魔王討伐ご苦労であった!褒美を――」
「褒美はいらん。国ごともらう」
「……は?」
今日二度目の「は?」を聞いた。
王は震えながら言葉を続ける。
「ゆ、勇者殿……それは、どういう……」
「そのままだ。今日からこの国は俺のものだ」
「いやいやいやいや!」
王が玉座から転げ落ちそうになった。
「な、なぜだ!?魔王を倒したのだぞ!?世界は平和に――」
「平和じゃない。お前の国は腐ってる。税は高いし、貴族は好き勝手してるし、民は疲弊してる。だから俺が治める」
「そんな理由で国家を奪うと!?」
「理由としては十分だ」
「冗談も休み休み言え!」
王が叫ぶが俺は聞く耳を持たない。
玉座に近づくと王は情けない声を出した。
「ま、待て!話し合いで――」
「話し合いは嫌いだ」
「嫌いで済ませるな!」
王の肩を軽く押すと、玉座の横に転がった。
「よし、今日からここは俺の国ということで」
「よしじゃない!」
元国王が涙目で叫ぶが、
気にしていたらきりがないので無視する。
ミラが頭を抱えている。
「レオン……本当にやるのね……」
「やると言ったらやる」
「どうしてそんなに迷いがないのよ……」
「迷う理由がない」
俺は玉座に座り足を組んだ。
玉座は意外と座り心地がいい。
「さて、次の国に行くか」
「もう行くの!?」
「気持ちが盛り上がってるうちに早く終わらせる」
「終わらせるって言い方が怖いのよ!」
◆
その後の展開は、驚くほどスムーズだった。
隣国のベルンハルト帝国 は、俺が国境に立っただけで皇帝が白旗を掲げた。
「勇者殿!どうか攻め込まないでください!国ごと差し上げますから!」
「話が早いな」
「早くしないと命がない気がしたので!」
皇帝は泣きながら印璽を差し出してきた。
俺はそれを受け取ると次の国へ向かった。
サルディナ共和国は議会が大混乱になり最終的に議長が泣きながら言った。
「勇者様が統治したほうが、たぶん……いや、確実にマシです……!」
「そうか」
「はい……もう好きにしてください……」
議員たちが机に突っ伏している。
俺は淡々と国旗を取り替えた。
エルフェリア王国は王女が震えながら言った。
「わ、私たちは戦う覚悟があります……!ありますけど……その……」
「あるのか?」
「……ありません……」
「なら降伏しろ」
「はい……」
王女は言われるがままに降伏文書にサインした。
そんな調子で、俺は各国を次々と支配下に置いていった。
戦争は一度も起きなかった。
俺が国境に立つだけで、どの国も勝手に降伏した。
ミラは途中で言った。
「ねえレオン……これ世界征服っていうより、世界が勝手に転がり込んできてない?」
「結果が同じなら問題ない」
「いや、問題あるでしょ……!」
カイルは途中から諦めたように言った。
「レオンが歩くだけで国が消える……なんだこの地獄の散歩は……」
俺は別に散歩しているつもりはない。
ただ、やるべきことは早く済ませたいだけなんだ。
◆
そして――。
最後の国、北方連邦の首都に到着したとき連邦議長が震える声で言った。
「勇者レオン殿……我々は抵抗しません。どうか……どうか優しくしてください……」
「優しくするかどうかは、お前たち次第だ」
「ひぃっ……!」
議長はその場で気絶した。
俺は仕方なく代わりの官僚に降伏文書を書かせた。
こうして――。
世界征服は三日で終わった。
ミラは呆然と空を見上げていた。
「……本当に終わっちゃった……」
「終わったな」
「いや、あっさりすぎるでしょ……!」
カイルは地面に座り込むと空虚な目で呟いた。
「俺たち……いったい何をしてるんだろう……」
「世界征服だ」
「たしかにそうだけど!そういう意味じゃない!!」
俺は世界地図を広げ、すべての国が俺の支配下にあることを確認した。
「さて、次は世界の再編だな」
「まだ続くのね……!」
「当然だ。征服は始まりにすぎない」
ミラが頭を抱え、カイルが泣きそうな顔をしている。
だが俺は満足していた。
魔王を倒しただけでは終わらない。
世界を変えるには、まず世界を手に入れなければならない。
――というわけで世界征服は完了した。
あっさりと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます