#拡散希望
パイパイ星人
第1話 指先の記憶
指先だけは、今でも綺麗だと思っている。
色白で、細くて、少し長い。
昔、ピアノを弾いていた名残だ。
ユウはフリーターだ。二十代後半。
昼は倉庫、夜はコンビニ。
音大を出たことなんて、誰にも言わない。
ピアニストだった。
正確には「ピアニストを目指していた」。
コンクールも出た。結果も残した。
でも、それだけだった。
生活できるほどの金は稼げず、気づけば夢より現実のほうが重くなっていた。
今日はクリスマスイブ。
部屋は静かで、外の楽しそうな声だけがやけに響く。
「……おっぱいが大きな彼女、ほしいな」
独り言は、すぐに消えた。
スマホを手に取り、SNSを開く。
楽しそうな写真、恋人、成功報告。
見ているだけで、胸の奥が少しずつ削れていく。
そのとき、ふと思った。
誰かに見てもらえたら、何か変わるんじゃないか。
カメラロールを開く。
そこにあるのは、何枚かの手の写真。
鍵盤の上に置いた、自分の左手。
顔は写っていない。
これなら、いい。
深く考えず、文字を打った。
ーーー
クリスマスひとりぼっち
元ピアニスト、今はフリーター
この投稿を拡散してくれた人の中から
抽選で1人、デートします
#拡散希望
ーーー
投稿してから、五分もしないうちに通知が鳴った。
いいね。
リポスト。
10、20、、
数字が増えるたび、胸が少し軽くなる。
承認欲求だと分かっていても、止まらなかった。
そのとき、DMが届く。
「その手、まだ弾けるよね?」
心臓が跳ねた。
プロフィールにはピアノのことなんて書いていない。
なのに、なぜ?
返事を打つ前に、もう一通。
「指の形で分かるよ」
思わず、左手を見た。
昔、先生に褒められた指。
部屋の奥から、
カタン、と音がした。
クローゼットの中。
電源を抜いたままのキーボード。
ド。
確かに、音が鳴った。
スマホが震える。
ユウは気づいてしまった。
この投稿は、
ただの冗談じゃ終わらない。
夢が、自分を放していなかった。
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