「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
藤宮かすみ
第1話「偽りの断罪、追放の夜明け」
「アリシア・ヴァンデルーク。お前との婚姻関係を、本日をもって破棄する」
玉座の間。磨き上げられた大理石の床に響いたのは、夫である皇太子クロード・レヴァントの氷のように冷たい声だった。彼の隣には、今にも泣き出しそうな儚げな少女、セシリアが寄り添っている。私を断罪するこの茶番劇の、主役の一人だ。
「理由をお聞かせ願えますか、殿下」
背筋を伸ばし、私は努めて冷静に問いかける。周囲の貴族たちが向ける視線は、憐憫、嘲笑、そして侮蔑。ヴァンデルーク公爵令嬢として、そして皇太子妃として生きてきた私のプライドを無遠慮に踏みにじってくる。
クロードは私を一瞥すると、感情の欠片も見せずに言った。
「理由は、お前自身が一番よく分かっているはずだ。お前はこのセシリアを嫉妬心から虐げ、その命さえ狙った。皇太子妃にあるまじき悪逆非道。もはや、お前を妃の座に留めておくことは国益に反する」
嘘だ。私はセシリアを虐げたことなど一度もない。彼女が階段から落ちたのも、彼女が淹れたお茶に毒が入っていたのも、すべては彼女自身が仕組んだ罠。私は嵌められたのだ。この、か弱さを装った女に。
「セシリア嬢の証言だけで、私を罪人となさるのですか。殿下、それはあまりに…」
「黙れ!」
クロードの叱責が飛んだ。彼の蒼い瞳には、かつて政略結婚の相手として最低限の敬意を払ってくれた頃の光はない。ただ、私を忌むべき存在として見る凍てついた光があるだけだ。
「セシリアは聖なる力を持つ、国にとっての至宝だ。彼女の言葉と、お前の悪評。どちらを信じるかは明白だろう」
彼の隣で、セシリアが震えながら口を開く。
「殿下……もう、おやめください。アリシア様も、きっとご自分のお立場に悩んでいらっしゃったのです。私が……私が殿下のお側に仕えるようになったばかりに……」
その言葉は、火に油を注ぐだけだった。貴族たちから「おお、なんとお優しい」「それに引き換え公爵令嬢は…」という囁きが聞こえてくる。
(ああ、そう。あなたはそうやって、いつも私の居場所を奪ってきた)
転生者、と彼女は言った。初めて二人きりになった時、勝ち誇ったように私にだけそう告げたのだ。
『ここは乙女ゲームの世界。私はヒロインで、あなたは悪役令嬢。皇太子殿下は最終的に私と結ばれるの。あなたみたいな悪役は、断罪されて追放されるのがお約束よ』
馬鹿げている、と一蹴した私を彼女はあざ笑った。そして、ゲームのシナリオ通りだとでも言うように私の評判は地に落ち、クロードの心は彼女に傾いていった。
「アリシア・ヴァンデルーク。お前の公爵令嬢としての爵位、およびヴァンデルーク家の財産はすべて没収する」
非情な宣告が続く。父も母も、もういない。ヴァンデルーク家のすべてを継いだのは私だった。それを、すべて取り上げるというのか。
「そして、お前を帝国の最北端、辺境の地ノースガルドへ追放する。そこで己の罪を悔い、一生を終えるがいい」
ノースガルド。その名を聞いて、場がさらにざわめいた。魔物がはびこり、冬には極寒の吹雪がすべてを閉ざす不毛の地。事実上の死刑宣告に等しい。
セシリアの瞳の奥に、歓喜の色が浮かぶのを私は見逃さなかった。
だが、私の心は不思議と凪いでいた。絶望に染まる貴族たちの顔、勝ち誇るセシリア、そして氷の仮面をつけたクロード。このくだらない茶番から、ようやく解放される。
私は最後の力を振り絞って、唇の端に笑みを浮かべた。
「承知いたしました。ですが、一つだけよろしいでしょうか」
「…なんだ」
「離婚は受け入れましょう。追放も甘んじて受けます。ですが、私は何も恥じることはしておりません。いつか、殿下がこの決定を後悔する日が来ないことを心よりお祈り申し上げます」
それは、悪役令嬢に与えられた最後の台詞。精一杯の強がりであり、偽りのない本心だった。
私の言葉に、クロードの眉が僅かに動いた気がした。だが、それだけだった。
「連れていけ」
兵士に両腕を掴まれ、私は玉座の間を後にする。引きずられていく私の目に最後に映ったのは、セシリアに優しく微笑みかける、かつての夫の姿だった。
(さようなら、私の愛した人)
心の内で、私は静かにつぶやいた。愛など、もうどこにも残ってはいなかったけれど。
古い馬車に揺られ、私に付き従うことを許された年老いた執事のギルバートと共に王都を離れる。追放の夜明け。空は皮肉なほど美しく燃えていた。
だが、これは終わりではない。私の本当の物語は、ここから始まるのだ。不毛の地ノースガルドで私は必ず生き延び、そして私からすべてを奪った者たちに真実を突きつけてやる。
悪役令嬢の筋書きなど、私がすべて書き換えてみせる。
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