(自称)最強の魔術師の華麗(?)なる日常

ぐすてんたん

第1話 最強の魔術は何か

里華りかよ」

「どうしたの兄」

「最強の魔術って何だと思う?」

「雷魔術。細かく制御すればハッキング使えるから、それで個人情報抜き取れる。そしたらもう敵は私に従うしかない」

「そういう話じゃなくてさ。殴り合いとか撃ち合いの話だって」


 ある日、少年──真木まき 郷里きょうりは、妹の里華りかと家のリビングで話していた。里華はパソコンの画面から目を離さずに適当に答える。


「やっぱさあ、強化魔術が一番だと思うわけよ」

「兄が使えるのがそれしかないってだけでしょ」

「正論やめて」

「現実逃避やめて」


 内容はよくある、最強の魔術は何かという話。魔術師諸君なら一度は考えたであろうアレだ。世間一般の強化魔術への評価は低いが、郷里はめげない、しょげない、バカにした奴らをただではおかない。


 ちなみに強化魔術とは、魔力で自分の体を強化するという至ってシンプルな魔術だ。悪すぎる燃費とそれほどでもない効果、何より制御を間違えると命に関わるという危険性ゆえに、世間の評価は極めて妥当と言える。


 というかそもそも魔術師は近接戦闘を前提としていない。中距離以上から魔術を撃ち合い、相手の魔術は結界魔術で防ぐのが基本なのだ。激しく動きながらでは狙いも定まらないので、尚更使い手は少なくなる。それに動くにしても、風魔術で飛ぶなり土魔術で自分を運ぶなりできれば、強化魔術は必要ない。


「というわけで、自称最強の炎魔術の使い手と明日決闘することにしたわけ」

「どういうわけ」

「強化魔術こそが最強であることを世に知らしめるってわけ!」

「やめなよ」

「何でさ」

「兄の強化魔術はおかしいから」

「僕の強化魔術がおかしいって、強すぎって意味だよね?」

「うん」


 高校に入学して一週間、まだ中学時代からの友人としか話せていないような状況で、郷里は同級生に喧嘩を売っていた。……正確に言うなら、喧嘩を買っていた。


 とはいえ一応理由くらいはある。その中学時代からの友人が自称最強さんに絡まれていたのだ。そして丁度いい機会だったので、強化魔術の強さを知らしめてやろうと思ったわけだ。


「兄、普通の人はね、大気中の魔力を無尽蔵に取り込み続けるなんてことはできないの」

「強化魔術の弱みである燃費の悪さをカバーするための技術だよ」

「それ技術じゃない。特異体質」

「実力のうちだよ!」

「強化魔術の強さの話とは別問題でしょ……」


 郷里は特異体質で強化魔術の欠点である消費魔力の多さをカバーできる。代わりに魔力を体の外に放出できず、強化魔術くらいしか使えないのだが、それはハンデにもならないものだ。里華は、対戦相手の炎魔術師がグロ注意な目に遭わないことを祈った。


「もしこの体質で他の魔術が使えたとしたら?」

「大賢者にでもなってる」

「かーっ、残念だわ。マジ残念だわ。強化魔術しか使えなくてマジ残念だわ」

「私は良かったと思うよ」

「人の不幸がそんなに嬉しいか!」

「……兄が大賢者だったら、こうしてゆっくりお話しする時間も取れないでしょ」


 大賢者とは、魔術師のランク付けの中の最上位のものだ。実力相応に忙しくなることは想像に難くない。それを不安がる里華。郷里はニマニマしながら里華を撫で回した。


「ういやつめ、ういやつめ! このっ、このっ!」

「兄がいなきゃ強盗が来た時に殺すしかなくなっちゃう」

「あれ、僕は防犯システム扱い?」

「自宅警備員だよ?」

「……このっ、このっ!」


 自宅警備員と言うなら不登校の里華の方が当てはまりそうなものだが、郷里はそこは指摘せずに里華の頬をみょーんと引っ張った。


「ちなみに殺すってどうやって?」

「心臓に電気ショック。これでイチコロ」

「強化魔術なら防げるから雷魔術より強い!」

「よっぽど強めにかけなきゃ防げないと思うけど……?」

「余裕!」

「余裕??」


 強化魔術は、その力を最大限活かすなら常に発動させ続けなければならないので、普通は魔力がもたない。しかも魔力を温存しようとすると今度は出力が低くなりすぎるという、かなり使いづらい魔術だ。郷里には関係ない話だったが。


「とりあえずこれで格付けが一つ完了しちゃったわけだけど」

「勝手に完了させないで」

「炎と雷だったらどっちが強いと思う?」

「雷。速いもん」

「でも雷って、通り道的なのを作らないと空気の中は通れないんじゃないっけ?」

「……それでも速いもん」


 里華は拗ねてしまったが仕方ない。雷魔術は発動までのタイムラグが長い魔術なのだ。その隙があれば、強化魔術師は敵の魔術師本体を殴りに行ける。仮に里華と戦うことになれば、優しく顎を殴って気絶させるだろう。


「雷魔術が最速の魔術だとして」

「ホントに最速だもん」

「光魔術には勝てるの?」

「……アレもなんかおかしいから」

「ちなみに強化魔術なら光魔術も防げる! 最強!」

「光速で飛んでくる無限のエネルギーをどう防ぐと……?」

「だって強化魔術だよ?」

「だって強化魔術なんだよ??」


 こうきたらこう、と郷里がシャドーボクシングのような動作でレクチャーするが、速すぎて里華の目には残像しか見えなかった。


「できると思えばできる。できないと思えばできない。魔術ってそういうものでしょ?」

「兄、まさか本気で強化魔術が最強だと思い込んでるの?」

「そりゃもちろん」

「精神科ってどこにかければいいんだろ……」

「ちょっとちょっと」


 現代の魔術は、脳内のイメージを魔力で具現化するものだ。ちなみに、それがつまりどういうことかというのは、魔術を使っている魔術師たち自身もよく分かっていない。


 イメージのプロセスを図式化した魔術陣の発明も、ここ数世紀のうちのものだ。魔術の歴史は、遡れば石器時代にまで行き着くというのにだ。


「強化魔術はね、まず魔力を体に纏わせるんだよ」

「うん」

「そしたらね、筋肉とか骨格とか内臓とかを意識するんだよ」

「うん?」

「でね、少しずつギアを上げる感じで細胞単位に至るまで魔力を染み渡らせるの」

「は?」

「あとは魔力をどんどん供給して、細胞が破裂するギリギリくらいまで溜め込むの」

「は??」

「イメージは全身を魔力のタンクにする感じね。あとは魔力を燃料にして、エンジンをふかすの」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「何で分かんないのさ」

「いや分かんないよ」


 郷里は分かりやすいように言葉にしながら、強化魔術を発動させるプロセスを里華に示す。途中から里華にはついていけなかったが。


「とにかく、皆が強化魔術を雑魚雑魚ってバカにするのは、皆が正しい強化魔術の使い方を知らないだけなんだよ」

「今調べたけど、そのやり方だと最悪心臓がぱーんってなるみたいだよ」

「なりかけた!」

「バカじゃないの」

「でも、何のリスクも負わずに強さを求めようだなんて、そんな甘ったれた話があるとでも?」

「普通の魔術は身の危険が及ばないような鍛え方があるんだよ」

「ぐう」

「ぐうの音が出ちゃった」


 人体と魔力の親和性には個人差があるが、そもそも過剰量の魔力は体に毒だ。つまり、強化魔術は危険ということである。これしか無いからと鍛え続けた結果、郷里のやり方は危険性を度外視した形に落ち着いてしまったのだが。


「そういえば、魔術師と公式な試合をするのは初めてなんだけど、強化魔術使わないなら皆普通はどうやって攻撃防ぐの?」

「結界魔術がある。ほら、超無敵バリアー」

「貧弱貧弱ゥ!」

「うわっ、こっそり5枚重ねにしてたのに全部壊された」

「しれっと何してるの」


 試した相手が相手だったので仕方ないとは理解しているが、里華はちょっとだけ自信のあった結界魔術があっさり破られたことに、密かにショックを受けていた。


「まあ、ほどほどに頑張ってね。ほどほどに応援してる」

「妹のほどほどの応援で僕は120%を出せるよ」

「じゃあ応援しない」

「妹が応援しないなら僕は応援してくれるように150%を出すよ!」

「無敵かこの兄……」


 欠伸が出て、ふと里華は時計を確認した。時刻は午前2時。真夜中だった。


「ねぇ、明日というか……今日決闘なんでしょ? 寝なくていいの?」

「強化魔術は眠気を誤魔化してくれるよ。一ヶ月くらいなら不眠不休でもいける!」

「さては既に何徹かしてる?」

「今日で四日目!」

「寝なさい」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」





──────────





おまけ

本編で説明しきれないかもしれない設定など(読み飛ばしても問題ありません)


魔力について

 世界に満ちる不思議パワー。生物の魂から発生する。魂の形によって固有の波長がある。


魔術

 魔力を用いて発生させる超常現象。具体的なイメージが大事。発動には脳のリソースを割いて集中しないといけない。魔力から炎や光などを作り出すこともできるが、元が魔力であることに変わりはないので、どこまでいっても炎っぽい何か、光っぽい何かでしかない。ただし雷魔術なら当てた相手を痺れさせたり、炎魔術なら物を燃やしたりはできる。


最強の魔術について

 魔術に相性のようなものはなく、基本的に魔術師の技量によって強弱が決まる。ただし強化魔術だけは他の魔術よりも明確に劣るものとして扱われる。郷里はそれが気に入らない。


決闘について

 魔術師同士がいざこざを解決する際によく用いる手段。この世界ではスポーツの一種としても楽しまれている。基本的なルールは「対戦相手の殺害禁止」のみ。どちらかが負けを認めるか立っていられなくなるまで試合は終わらない。


大賢者について

 魔術師の称号の一つ。称号には弱い方から魔術師、魔導士、大魔導師、賢者、大賢者というものが存在する。また、賢者まではそれぞれに初級、中級、上級の区別もある。基本的には得意な魔術の名前を取って「○○魔術師」のように名乗る。ただし称号を得るための試験の採点基準に強化魔術のためのものが用意されていない。


郷里の特異体質について

 本人も知らないが、魂が不定形。ゆえに魔力が固有の波長を持たず、周囲の波長に影響される性質を持っている。他人の近くにいるとその人の波長に近くなるし、触れれば完全に合わせることもできる。波長が合った相手は自分の一部とみなし、強化魔術をかけることもできる。本人はいくら魔術を使っても魔力切れにならない便利な体質だと思っているが、魂の状態が不安定なので普通はヤバい。でもなぜか生きている。


真木家について

 両親は海外で働いているだけで普通に生きている。


魔力について②

 魔力を水に例えると、


 魔術師→魔力の海から変形できる桶で水を汲んでその辺に撒く人。

 魔術→桶で汲まれた水や撒かれた水。

 魔術の種類→桶の形

 魔力の波長→桶を運ぶ時の揺れ


 という感じになる。水が放っておくと蒸発して雨になって海に帰ってくるように魔力も世界を循環するので、魔術師がどれだけ魔術を使っても総量は変わらない。また、水が蒸発するように、魔術も放っておくと魔力に分解される。桶の大きさは体に蓄えられる魔力の量、一度に撒ける水の量は魔術の火力、桶の形のレパートリーは使える魔術の種類、汲み直すまでの速度は魔力の回復速度、といった風になる。郷里は底の抜けた桶を海に投げ込んでるので、使える魔術の種類は変えられないけど魔力を無尽蔵に使える。





キャラクター概要


「強化魔術最強! 強化魔術最強! お前も強化魔術最強って言え!」

名前 真木 郷里

年齢 15歳

所属 なし

称号 なし

概要

 自称、最強の強化魔術師。強化魔術師の中でも魔術師の中でも最強だと信じて疑わない、実力のあるバカ。特異体質ゆえに誰よりも強化魔術を使いこなせる。幼稚園児の頃から無茶な訓練を積んできたので、強さだけは本物。それを最強と呼べるかどうかは分からない。過酷な訓練の代償として身長が犠牲になっていると本人は主張しているが、普通に背が低いだけだと里華は思っている。


「兄、うるさい」

名前 真木 里華

年齢 10歳

所属 なし

称号 初級雷魔術師

概要

 雷魔術師。ただしハッキングなどの技術に特化しているので単純な撃ち合いには弱い。といっても他人の脳の発せられた電気信号に干渉するくらいはできる。諸事情で不登校になり、ここ数年は家から一歩も出ていない。最近の趣味は雷魔術で擬似的な人格をネット上に作り出し、色んな会社のサーバーに侵入して目についた機密っぽい情報を漁ること。

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