『かっこいい女子が好きって言ったよね? ~失恋した私がガチ空手で全国制覇して、幼馴染を後悔させるまで~』
@gamakoyarima
プロローグ 可愛いだけじゃ、君の隣には立てない
三月の風は、まだ少しだけ冷たかった。 舞い散る桜の花びらが、私の視界をピンク色に染めていく。中学校の卒業式が終わった放課後の、校舎裏。 誰もが憧れるシチュエーションで、私は人生最大の絶望を味わっていた。
「ごめん、凛(りん)」
目の前に立つ幼馴染、颯人(はやと)は、困ったように眉を下げていた。 その表情があまりにも優しくて、だからこそ、続く言葉が鋭利な刃物のように私の胸を突き刺す。
「凛はさ、すげーいい奴だし、可愛いと思うよ。妹みたいで大事だし」 「……うん」 「でも、俺さ。付き合うなら『かっこいい女の子』が好きなんだよね」
時が、止まった気がした。 かっこいい、女の子? 私の思考が真っ白になる。颯人の好きなタイプに合わせて、髪も少し伸ばした。口調だって女の子らしく気をつけた。守ってあげたくなるような、そんな女の子を目指してきたのに。
「かっこいいって……どういう?」 震える声で絞り出す。 「こう、何かに打ち込んでてさ。凛とした強さがあるっていうか。自分の足で立ってる奴。そういうのに惹かれるんだわ。だから、ごめん」
じゃあね、と軽く手を振って颯人が去っていく。 私はその背中を呼び止めることもできず、ただ立ち尽くしていた。
――可愛いだけじゃ、ダメなの? ――守られるだけじゃ、好きになってもらえないの?
悔しさが、遅れて込み上げてくる。 私は無意識のうちに、スカートの横で拳を握りしめていた。 ぎり、と音がしそうなほど強く。爪が手のひらに食い込み、鋭い痛みが走る。でも、胸の痛みに比べればこんなもの、何でもなかった。
私の握力は、平均よりもずっと強いらしい。 赤く鬱血したその拳が、これから私の人生を変える「武器」になることを、この時の私はまだ知らなかった。
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