転生したら邪教のご神体だった〜それっぽい言葉を発していたらいつの間にか美少女信徒達に信仰されていた件〜

路紬

第1話 邪神って俺のこと!?

「どうか邪神様……。この世界を破壊に導いてください」


 目を覚ましたらとんでもないことを口走る美少女が目の前にいたのだが。


 それも両目から涙を流しながら、必死に俺に向かって祈りを捧げている。……え? なんでこんなことに?


「貴方は世界を破壊に導く邪神。だからどうか、この腐った世界を破壊し浄化してください」


 やっぱりとんでもないことを口にしている!?


 もしかして邪神って俺のこと!? そんな物騒なものになった覚えないが!?


 銀髪碧眼という、結構可愛らしい容姿をしているのに、言っていることはこの上なく物騒だ。とても怖くてドン引きしているよ俺は。


 この子と何とかしてコミュニケーションを取りたいんだけど、何故か身体がピクリとも動かない。声すら満足に出せない。


 さらに言うと、美少女と俺の間には青色の結晶みたいな物があって、それによって遮られている。


 よってコミュニケーションを取る術は皆無ということだ。うーんそれはとても困ったぞ。


 もっと言うと動けないから、俺はここでボーっとするしかやることがない。現状、女の子が必死に祈る姿を眺めること以外、やることないっていう感じだ。


「おねーちゃん! 転んでひざを擦りむいたから治してくれ!」


 バンっと扉が開く。幼い子供が入ってきた。


 俺の目の前で祈っていた美少女は、祈りをやめて子供の方へ振り向く。そしてニコリと綺麗な微笑を浮かべるのであった。


「ええいいわよ。また怪我をして……やんちゃな子なんだから」


 美少女が擦りむいた膝に手をかざすと、緑色の光が手のひらから現れて、膝を包んでいく。するとみるみるうちに膝の傷口が塞がっていった。


「すっげえ~~。リリーねえちゃんの魔法は頼りになるぜ!」


「あまり無茶したら駄目だよ。このことはみんなに内緒ね」


「ああ! いつも通り大人には何も言わねえよ! じゃあなねえちゃん!」


 そういって子供は元気よく駆けていく。その後姿を穏やかな表情で手を振りながら見届ける美少女――確かリリーって言うんだっけか。


 リリーは俺の方に向き直ると再び膝をついて祈りの言葉を並べる。


「あの子供が怪我をしたのも、この世界が不完全で醜いからです。だからどうか、そんな世界を破壊してください。邪神様」


 ちくしょう、一瞬でその可愛さが台無しだよ!!


 思想が強すぎて引くわ! 子供が怪我した理由を世界に押し付ける人、初めてみるぞ!?


 しかし、なんで俺はこの子に崇められているんだろうか?


 うーむ、分からないことが多すぎる。リリーの様子を観察していたら分かることもあるのだろうか?


 今は動けないし、一先ずはリリーを観察して、この世界のことやリリーについて理解を深めていこう。


 理解が深まればなんでリリーが物騒なことを呟いているのかも分かるかもしれない。


 ということで俺はリリーの観察をすることにした。


 数日間、リリーのことを観察して色々と分かったことがある。


 一つ目はこの世界には魔法と魔力というものが存在すること。リリーはよく教会に遊びにくる子供たちの怪我を治していることが多い。その怪我を治す際に使っているのが魔法という力らしい。


 リリーが手をかざすと怪我を治せる力。それが魔法らしい。


 魔法を使うには魔力が必要らしい。これはリリーの会話を聞いて理解したことだ。


 そしてここからは俺の予想。魔力は見ようと思えば見える。意識すると、空中に無数の大小さまざまな色の光が見えるのだ。


 これがこの体の特性なのか、はたまたこの世界の人間に標準的に備わっているものなのかは、俺が知ることはできない。


 ただこの魔力とやら、どうやらある程度は自分の意思で操作できるらしい。集めたり、散らしたり、形を変えたり。俺が魔力に対して何かしらのイメージをすると、その通りに魔力が動いてくれる。


 この魔力を使えばリリーと意志疎通できるんじゃないだろうか? それがここ数日リリーを観察しながら思ったことだ。


 そして分かったこと二つ目。


「ああ、邪神様。邪神様の穢れなきお姿。一糸纏う必要なき完璧なお姿。覚醒の時が楽しみです」


 悲報、俺全裸。


 リリーは毎日決まった時間に水晶を磨いてくれる。その時、顔を赤らめながらいつもこんなことを呟くのだ。


 はっきり言うと恥ずかしい。もっと言うと変な興奮を覚える。


 おっと、自分の癖が出そうになるところだった。抑えなくては。


「何度見ても惚れ惚れしてしまいます。封印されているというのに、生命の躍動すら感じてしまいます。ああ、もっと邪神様をお傍で感じていたい」


 ちょっとこの子、邪神への感情が重すぎないか?


 リリーを観察して、肝心なことが分からなかった。それはリリーが邪神様を崇拝する理由だ。


 こればかりは理解することができなかった。なぜ、リリーが邪神様を崇めているのか。そもそもリリーって何者なのか、それが理解できない。


 だからリリーと意志疎通が取りたい。そこで魔法の話に戻ってくるわけだ。


 魔法でコミュニケーションは取れないだろうか? 魔法を使うためには魔力が必要。リリーが魔法を使う時は、魔力を体内に取り込んでから、それを身体で魔法に変換しているみたいだ。


 ここで問題が出てくる。俺、水晶に閉じ込められているせいで魔力を取り込めない。


 俺がいる水晶の内と外では、魔力の有無が大きく関係している。外側には魔力はあるけど、内側にはこれっぽちも魔力はない。


「何をすれば邪神様は目覚めてくれるのでしょうか? 邪神様の魔力は強く感じますのに」


 リリーの言葉でヒントを得る。


 魔力ってわざわざ取り込まなくても、体内に元からあるのか? 視界が固定されていて、自分の身体を見ることが出来なかったから、自分の体内に魔力があるって気が付かなかった。


 なら、体内にある魔力を使おう。


 体内にある魔力でリリーに言葉を伝えるイメージ……。言葉を伝えるってどんなイメージだ? まあいいや、ノリでなんとかなれ~~~~!!!


『ワ……』


「!? 今、邪神様の声が!?」


 おお、どうやら声が聞こえたみたいだ。まだ一文字分しか発せていないけど。


 でもさっきのでコツは理解した。腹の底から声を出すイメージだ。水晶に阻まれている分、どでかい声を出すイメージが必要だ。


 こうとなれば言いたい言葉をイメージする。円滑なコミュニケーションを取るためには第一印象――つまり一言目はとても大切だ。


 挨拶でも「初めまして」っていうのと「チョリーッス」っていうのでは、相手に与えるイメージやその後の話しやすさも変わってくる。


 なるべく女の子に親しみやすい感じで話しかけなくちゃいけない。


 これが円滑なコミュニケーションを取る上では大切なことだ。温厚で親しみやすい一言目を。


『ワレハ……ナンダ?』


 ……違うな。言葉を発してみたけど、これはない。ほら、リリーだって目の前でポカーンと呆気に取られているではないか。


「じゃ……邪神様のお声が聞こえた……! 遂に私の祈りが邪神様に届いたのですね!! ぐすっ、ずびっ、こんな嬉しいことはう、産まれ初めてです!」


 ちゃう。これは感涙に打ちひしがれているところだ。


 ええ……あんな言葉で感動するってマジ? この子病んでいるのかな。ちょっと心配になってきたぞ。


 気を取り直して今度こそ親しみやすい言葉を発するぞ! イメージ、イメージ。イメージがとても大切だ。


『騒々しいぞ人間。我の声が聞こえぬとは言わないよな?(泣かないで。それよりも俺の声って聞こえてる?)」


 あ……うん、色々駄目っぽい。



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