【カクヨムコン11短編】玉子頼んだら王子が来た

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第1話

「アイ・エッグオーオン! 僕は君との婚約を破棄する!」

「君の罪は、えーとアレだ! 証人も証拠もここにある!」

「僕にとって相応しい相手は、ヌレギーヌ・クロマークだ! 君はこの国から追放する!」


 こんな感じで王子に一方的に婚約破棄を宣告された私は、国を追放された。





 うっすらと降り積もるレンガ造りの駅前を通る。かじかんた手を温めるために息を吐くと、白い息は雪が落ちていくのとは正反対に空へ向かって行く。

 それらを眺めながら、私は今まで起きた出来事を反芻する。

 よくやった、と私は自分を慰める。結果は変えられなかったけれど、それでも出来る限りの事はした。国は追放されるけど、私の無罪を信じて受け入れてくれる場所は見つかったんだ。これからはその人たちに報いるためにも、新天地で頑張ろう。

 それにしても、疲れた。これからの頑張りのためにも、今までのご褒美としても、何か美味しいものが食べたい。

 寒さで強ばった顔を上げると、くすんだ青い影が落ちる雪景色の中で、ほんのり温めるような橙色の灯りが見える。


 心細さ故に灯りを追いかけて、目に止まったのは、「お寿司屋アベンジャーズ」と言うお店だった。


 …………なんか今、トンチキな名前が着いた一枚板の看板が見えたような。

 目を擦ると、やっぱり「お寿司屋アベンジャーズ」と、立派な筆使いで書かれた看板が見えた。やだ幻覚じゃない。え、この王子から婚約破棄が申し込まれる世界に、お寿司屋さんがあるのか。しかもアベンジャーズってタイトル大丈夫か。

 ごくり、と私は唾を飲む。


 すごく……お寿司が食べたい。

 これまたテンプレートに前世日本人だった私にとって、お寿司とはソウルフードだ。

 口元から流れそうなヨダレをぐっと堪え、私は引き戸を開けた。



「へい、いらっしゃいませ。お嬢様」



 なんかヤクザゲームに出てきそうな寿司職人さんがいる。

 顔が厳ついとか、目つきが鋭いとか、耳が潰れているとか、そんな見た目で得られそうな情報から出力されたイメージじゃなく、バトル漫画で見られる『覇気』とか『圧』とかがエフェクトで見える。


「何を握りやしょうか」


 これから私の弱みとか握る予定でしょうか?

 今すぐ逃げたくなったけど、寿司職人さんの『圧』でお店から出るのが躊躇われる。

 ぎらん! と寿司職人さんの目から光が放った。


 私は大人しく、カウンター席に座った。


「それじゃあ……玉子お願いします」


 私がそう言うと、寿司職人さんは「へい喜んで!」と言って握り始めた。居酒屋さんかな?


「はい王子一丁!!」


 そう言って寿司職人さんが私の前に出したのは、



 王子だった。

 私に一方的に婚約破棄を突きつけた、この国の王子だった。

 海苔の代わりなんだろうか。黒い結束バンドで全身ぐるぐる巻きにされている。口元まで覆われているから、叫びたくても「むぐー!」というくぐもった声しか出ない。


 私が頼んだの「玉子」であって「王子」じゃないんですけど。点どこ行った。点Pみたいに消えたんか。


「お嬢様、ご存知ですかね……?」寿司職人さんはドスの効いた声で言った。


「玉という字によく似た『玊』と言う字があるんですが、こいつぁ『傷が付いた玉』、もう一つは『玉を磨く職人』と言う意味なんでさぁ」

「へえー」


 熱い緑茶とともに、豆知識をいただく。

「どうされやすか?」寿司職人さんは言った。


「今からでも『タマなし』に調理する事も可能ですぜ……?」


 急な下ネタがぶっ込まれた。

 いや、下ネタというか拷問の話だけど。


「他にも色々握れますぜ」と寿司職人さん。


「お嬢様をダシにした連中(ヌレギーヌ、証拠を捏造した証人)を炙って真っ白な舎利シャリにする事だって可能でさあ……。


 さあ、次は何握りやしょう」


「普通に玉子ください」

「あいよー」


 前世ぶりのお寿司は美味しかった。

 王子はそのままにした。

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