社畜OL、転生先でお嬢様になったら村人NPCと勇者を倒すことになりました
rhythm
第1話 社畜OL、異世界でお嬢に転生!!
終電間際の駅構内、柳沢真紀は今日も足を滑らせた。膝が痛むのも、満員電車で押し潰されるのも、すべて「仕事だから仕方ない」と思い込み、我慢してやり過ごしてきた。
「今日も終わらないな……」
スマホでメールを確認しながら駅の階段を駆け下りる。明日の会議資料、上司のチェックリスト、クライアントからの催促。頭が痛い。吐き気がする。社畜として生きるということは、こういうことだ――心からそう思った。
その瞬間、視界に強い光が差し込んだ。足を滑らせ、身体が空中で一瞬止まった感覚。次の瞬間には、地面も音も消え、耳元で異様な振動と光が入り混じる。
「……っ、またか……?」
意識が遠のく中、頭の中で愚痴だけははっきりしていた。残業、過労、満員電車……こんな人生、もう嫌だ。
――そして目を開けたとき、世界はまったく別物だった。
豪華なシャンデリア、金縁の大きな絵画、赤と金の絨毯が敷かれた床、窓際には柔らかそうなベッド。広間の隅には執事のような男性が丁寧にお辞儀している。
「テファニアお嬢様、お目覚めでございますか」
...
......
「どうされました?シャンドルド・テファニアお嬢様」
……え? お嬢様?
自分の手を見る。白く細く、まるで小説やドラマでしか見たことのない手。指先の感触も、身体の柔らかさも、間違いなく現実だ。私は異世界に――転生したのだ。
「……夢じゃない。柳沢真紀……じゃなくて、私はテファニアお嬢として生きる?」
頭の中に前世の記憶が鮮明に蘇る。社畜としての生活、理不尽な上司、残業に追われる日々――そのすべてが、この世界での生存に役立つはずだ。
「お嬢様、朝食のご用意が整いました」
「……あ、ありがとう」
自然に出る丁寧な口調。身体がすでにこの世界に馴染んでいることを感じる。
窓の外に目をやると、庭には噴水、整然と並ぶ薔薇の花壇、遠くには小さな村が見える。あの村人たち――序盤で接触する人物たち――きっと、最初に関わることになるだろう。
執事が小さな手帳を持って近づく。
「お嬢様、本日のご予定ですが、村のご視察と家臣たちのご挨拶がございます」
「ふむ……なるほど」
私は前世の経験を思い出す。社畜として培った観察力、合理的判断、心理戦術――この世界でも武器になるはずだ。
「まずは村人たちの様子を把握する。そして、情報を整理し、動きを読む」
ベッドから立ち上がり、窓の外を見据える。小さな家々、働く村人たち、家畜や市場の様子――すべてが情報源になる。前世では、毎日満員電車の中で人間観察をしていたことが、今では大きな力になる。
――そして、勇者と呼ばれる人物の存在も忘れてはいけない。
世界の英雄、正義の象徴――しかし社畜OLとしての私は知っている。正義の裏には理不尽が潜んでいることを。無垢なまま正義を振りかざす勇者は、この世界では単なる障害物になるかもしれない。
「……よし」
胸に決意が湧き上がる。
まずはこの世界の“常識”を把握する。
村人の性格や情報、勇者の行動パターン――すべてを計算して、次の一手を考える。
「生き抜くだけじゃない。私のやり方で、この世界を動かす」
庭の方から、かすかな声が聞こえた。小さな子供たちの笑い声、働く村人たちの声。華やかに見える世界の裏に、見えない駆け引きが渦巻いている――そう直感した。
――これが、転生した私、シャンドル・テファニアお嬢の第一歩だった。
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