崇拝の女

「信じるものは救われる」


神は私に、そう教えてくださった。

今日も神の教えに従い、経典を大声で読み上げる。

神のご加護が宿った、このブレスレットが、今日も私を護ってくださる。


「人に優しくありなさい」


神に教えられた言葉。

だから私は、神の仰る通り、人に優しくした。


道を譲り、席を譲り、

困っている人は、積極的に助けた。


週に一度、神にお会いできる日。

私は、いつもより緊張していた。

神に、ちゃんと報告しなくてはならない。


「きーめたっ!」


女の声が、耳元で囁いた途端、

視界が暗転した。



目が覚めたとき、

私は冷たいコンクリートの上にいた。


私は急いで立ち上がった。

神との時間に遅れるのではないか。

その焦りだけが、胸を満たす。


檻?

出られない?

もう、間に合わない?


絶望が、静かに広がった。


少し離れたところに座っている女が、憎かった。

神との時間を奪った、この女が。


「大切な日だったのに!

なんなのよ!

早く出してよ!

遅れるじゃない!」



「人に優しくありなさい」


神の言葉が、脳裏をよぎった。


「私はあなたを許します。

だから、この檻から私を出してください。

お願いします」


椅子に座った女は、

ただ、微笑んでいるだけだった。

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