不埒な女
───なんで?
なんでって、何?
私は何も悪いことをしていない。
ただ普通に生活しているだけ。
それなのに、なぜこんな冷たく薄暗い檻の中に、閉じ込められなければならないの。
怖い。
帰りたい。
可愛い、あの子に会いたい。
「そうしてると、まるでわんちゃんみたいね!」
女は無邪気に笑いながら、私に言った。
……わんちゃん?
私が?
私が犬?
ケージに入れられた犬だと言いたいの?
私は、あの子をケージに閉じ込めたりなんてしない。
家族だもの。
種族が違っても、あの子は可愛い私の家族だ。
「私は、犬じゃないわ」
低く、怒りに満ちた声が出た。
侮辱された。
私も、あの子も。
女を睨みつける。
それでも女は、ただ微笑んでいた。
「あなたは、何がしたいの。私を家に帰して」
知らない女への怒りが、胸の奥で膨れ上がる。
こんなことをされる覚えは、私にはない。
女は椅子から立ち上がり、檻越しに私の目の前へ来た。
「お手」
女は右手を差し出し、命じた。
なぜ、私が。
なぜ、この女に。
腹が立った。
差し出された手を、勢いよく払い除ける。
「痛いなぁ。躾のなってない犬」
呆れたように言う女。
私は犬じゃない。
人間だ。
なぜ、お手なんてしなければならないの。
苛立ちは、限界に近づいていた。
「出せって言ってんだろ!
誰だよ、お前!」
怒りが抑えきれない。
一秒でも早く、あの子の元へ帰りたかった。
それなのに──
「無駄吠え、うるさーい」
女は耳を指で塞ぎ、舌を出して私を煽った。
我慢の限界だった。
殴ってやりたい。
女は一度、離れた椅子の方へ戻る。
そして大きな段ボールを抱えて戻ってきた。
次の瞬間、
その中身が、私の方へ撒かれた。
───大量の、犬の糞。
臭い。
汚い。
服が汚れた。
顔にも、ついた。
イヤ。
イヤ。
イヤ。
「あなたの大切な、あの子のものだよ」
嫌悪に歪む私の顔を、女は楽しそうに覗き込む。
───これ、全部……うちの子の糞?
汚れにまみれ、私は意識を失った。
目を覚ましたとき、私は知らない公園のベンチに座っていた。
手には、ペット用の防臭処理されたビニール袋が握らされている。
あの女は、誰だったのか。
なぜ、私は捕らえられたのか。
あのやり取りは、何だったのか。
疑問だけが、脳裏に焼き付いている。
夢だったと、思いたかった。
それでも、
体中に残る汚れと臭いだけが、
すべてが現実だったことを、静かに告げていた。
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