不埒な女

私の可愛い愛犬。

血統書つきの、純血種。


愛しくて、可愛い存在だ。

叱るなんて、とんでもない。

この子は愛されるために生きているのだから。


無駄吠え?

無駄じゃないわ。これはこの子の意思。


でも、家を汚されるのは嫌。

排泄は外でしてちょうだい。


リードを付けるのも嫌。

この子はペットじゃない。

私の家族だもの。


可愛い愛犬との散歩を終え、私は買い出しに出かけた。


───今日は、何を買おうかしら。


「きーめたっ!」


楽しそうな女の声が、耳元で囁いた。

次の瞬間、視界が暗転する。


目を覚ましたとき、私はコンクリート貼りの部屋にいた。

中央に置かれた檻の中。


───ここは、どこ。


顔を上げると、少し離れた場所に女が椅子に腰掛けていた。

こちらを、じっと見ている。


誰なの。

知らない女。


「あの……ここは?」

「あなたは、誰?」


女は答えなかった。

代わりに、微笑みだけを私に向ける。


理解が、追いつかない。

ただ、怖かった。


「あの……なんで、私はここに?」


恐る恐る問いかける。

答えてくれるだろうか。


「なーんでだと思う?」


首を傾げ、子供のような声で女は言った。


私は、何かしたのだろうか。

なぜ、この女に捕まったのか。


───帰りたい。


可愛い家族の元へ。


それだけが、今の私の希望だった。

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