転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?

奈香乃屋載叶

第1話 記憶を取り戻したのは、婚約破棄前日

「メリッサ・ビュージンゲン。そなたとの婚約を破棄する!」


「そう……ですか」


 私は王宮にある謁見の間、人々が見ている中でライオネル殿下との婚約を破棄された。

 殿下の隣にはカメリア・テンブロンが立っている。

 人々が憐れみ、嘲笑の目を向けていて現実だというのを実感する。

 ああ、悪役令嬢が断罪される場面。

 ヒロインが可哀想にって思っているのか分からない目で私を見ている。

 ーーそうだ、これ、知ってる。

 別の世界で、画面越しに見ていた。

 大学に入って少ししてから死んで、この世界の悪役令嬢に生まれ変わった。

 ……ってことを、思い出したのは昨夜なんだけど。

 ふとした瞬間にふっと。

 でももうこの時点で、破滅確定だったから。

 フラグだって立っていて、折りようが無かったし。

 っていうか、次の日にこの場面って覆しようがないじゃん。


「君は冷たい。私の婚約者としてはもう相応しくない」


 当たり前かもしれない。

 悪役令嬢なんだから。

 婚約破棄されるのだって、お決まりの展開だから。

 王子と結ばれるのって、家柄も重要だけど人気があるかどうかも左右されるから。


「そして、カメリア・テンブロン嬢と婚約をする!」


 殿下がそう言った瞬間、人々の歓声が沸き起こる。

 祝福していて、誰からも人気者だって分かる。

 本当、凄いね。

 回避出来なかった私に代わって、彼女が婚約者として相応しいかもしれないけれど。

 私も拍手しちゃった。


「さてメリッサ嬢、そなたの処遇だが」


 歓声や拍手が終わると、殿下や人々は私を睨み付けている。

 除け者って訳ね。


「婚約破棄だけじゃ、終わらないのね」


 ゲームだって、婚約破棄で後は何も無いって事は無かったから。

 おまけに追放とか処刑とかがあるよね。


「ああ、そうだ。カメリア嬢が辛い目に遭っている事実がある」


 やっぱりね。


「否定できないわ」


 でも、そこまでだったかな。

 注意しただけなのに、カメリアって泣き出していたから。

 思い出してみた。


『その言い方は誤解を招きますわ』


『……ごめんなさい、ぐすっ』


 こんな感じだけでも泣き出していたし、しかも殿下や他の子息に庇われていたっけ。

 他でも泣き虫なカメリアって、泣く度に庇われて……


『君は少し厳しすぎる』


『……そうでしょうか』


 当然のように私は責められるから。だからどんどん立場が悪くなっていく。

 私も私で、深刻に受け取らないで流していたっけ。

 それまでは、ただの悪役令嬢として生きてきた。

 知識もフラグも、全部後出し。


『誤解がありますの』


『……今は感情的だ』


 最後には弁明の機会すら消えていって……

 結局、私は断罪されたって訳。

 何とか回避したかったんだけどな。無理だったか。

 最初から思い出していれば、何とかなったんだけどな。


「それに君は場を乱し、多くの者を傷つけた」


 なんて曖昧な罪状。

 確かにこれでは仕方ないかもね。


「ただ、カメリア嬢からも処刑や国外追放は許して欲しいと言われている」


 おっあの子、私を庇ってくれたんだ。

 純粋だからそう言った残酷なものは、イヤだったんだね。


「ご配慮に感謝いたします」


 メリッサってストーリーの分岐で破滅って変わるけれど、何とか最悪の方向は回避出来そう。

 と思っていたんだけれども……


「だから、マドレーヌ辺境領への追放を命じる」


 美味しそうな名前の場所。

 でもそんな良い場所じゃないんだよね。

 マリーデグリー王国の飛び地って、聞いたことがあるくらい。

 破滅の分岐であったっけかな。マドレーヌ辺境領への追放って。

 その後、ナレ死みたくなっているけれど。

 どれだけ不毛の地なのよ。


「ご命令とあらば仕方ありませんわ」


 とはいえ、私は受け入れることにした。

 ここで拒否しても、それ以上の罰が与えられるだけ。

 それなら、受け入れればいい。

 こうして私はほぼいきなり、飛び地に追放されることになったのだった。


「……で、荷物はどれくらい持っていけるの?」


 多少でもあった方が、飛び地での生活が楽になる。

 高価な物は売りようがないけれど。

 でも私がそう言った瞬間に、周囲が戸惑っていた。

 どうして?

 ーー追放される令嬢が、生活の話をするなんて、想定されていなかったからだ。

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2025年12月30日 20:00
2025年12月31日 20:00
2026年1月1日 20:00

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