金曜日、放課後の図書室で
@namejuck
第1話 出会い
「切って張ったような光景だな。」
ある金曜日、放課後の図書室。
いつもは誰一人いない空間で足を組み6人掛けのテーブルを1人で座って読書をしている女子生徒がいた。
黒いロングの髪の毛を風になびかせ、片手に本を持ち、時折ページをめくっている。
こんな光景が現実で見れるなんて。
物語の中でしか見たことがない光景にしばらく呆気にとられていた。
図書室の入り口でしばらく立ち止まっていることに気づき不審に思われる前にいつも使っているカウンター席に移動した。
鞄から世界史の教科書を出し、俺も自分の世界に入ろうと思い・・・
「来ていたのか、気づかなかった。」
一瞬誰に言ったのか分からなかった。だが、教科書から視線を外し声の方向を向いた瞬間理解した。
彼女の顔がこちらを向いている。
改めて顔を見る。端正な顔立ち、一回見たら忘れない、かわいいよりも美しい寄りな顔立ちだなあ、と女性経験の足りない頭で思う。頭のどこかで引っ掛かりを覚える。
だかまずは返事だ。
なんて返そうか迷っているうちに、
「君を待っていたんだ。」
その言葉に疑問を抱きつつも、
「何かのご用事ですか。」
彼女が誰かわからない今、敬語を使っておくべきと判断した。
「まあ、そう焦るな、隣の席に座らせてもらうよ。」
彼女はそう言っておいて一つ開けた席に座る。
分からない、距離感がわからない、物理的な距離はとるが、心理的にはズカズカはいってくる。
初対面とはこんなにも疲れるものだっただろうか。
「まずは確認なんだけど、九十九(つくも)であってる?」
名前といい、待っているといい、だんだん怖くなってきた。
「はい、九十九 陽(はる)です。そちらの名前をお聞きしても?」
「私は■■■■。君を探していたんだよ。」
不思議な感覚だ。今確かに名前を聞いたはずなのに脳が理解できていない。理解できていないがそれほど気にすることではないと脳が無理やり帰着させようとする。すこし抵抗しようとするが、
瞬きを1回
思考がクリアになる。
「それで俺をさがしているとは?」
「単刀直入に聞くけど昨日の夜何をしていた?」
そんな意味の分からない質問を単刀直入に聞いてくるのなら最初からそうしてもいいように思えるが・・・、じらす必要あったのか?
疑問は絶えないがまず聞かれた質問をかみ砕く。
昨日の夜なにをしていたかだったか、別に俺自身は何もしていない、何もしていないが何か普通でないことがあったのは事実だ。
場面は昨夜に巻き戻る。
昨日の夜にふとコンビニ行こうと思い9時くらいに家を出た。
多少距離はあるが別に夜にコンビニなんて特別なことではないから、特に特別なことは何もしていないと言える。
おかしかったのは帰りの話。コンビニからの帰りに俺の通う高校の横を通る道を選んだ。
そこでこの世非ざるものをみた、いや、実在はするのかもしれないが、まず普通に生きていれば見ることはないと思う。
眼前に広がる暗闇に、人影。だんだんと明らかになる相貌は、肉がはがれ、全身を脱力して少し前傾姿勢の歩き方、しまいには赤いシミ。
いわゆる、ゾンビというやつを見た。
俺はひどく腰を抜かしそうになりながら全力で走って逃げた。
そして今だ。
ただ改めて考えて、あれは誰かの仮装だったのだろう。
まあ、別にハロウィンとかではなかったのだが。
急にこんなことを聞いてくるのだ。何らかの関係はあるんだろうと推測し、彼女をプロファイリングしていく。
ここは素直に答えることにした。
「別に俺が特別に何かしたわけじゃないが、ゾンビを見た。」
彼女の口元がゆがみ、声を出して笑う。
読みが外れたか?と思い、そしてファンタジーめいた事を言ったことが途端に恥ずかしくなってきた。
彼女の笑い声がようやく止む、
「正直者過ぎるだろう、君。」
「え?」
じゃあなんだ、本当にあんな意味の分からないことに関わっているというのか一般の高校生が?夜の出入り禁止の学校で?
頭のどっかで引っかかっていた疑問が再浮上してきた。
高校生?どこのだ。少なくとも俺は高校生活でこんな端正な顔立ちで、いまいちとらえにくい女性を見たことはない。
こんなに万人受けしそうな顔と性格、話題にならないわけがないので、聞いたことがないのもおかしい。
警戒レベルを上げる。
「じゃああれはお前の仕業ってことでいいのか?」
「私の仕業ってことではないが、関係があることは認めよう。」
急激に不安要素が浮上してきて焦りを覚える。窓の外を確認する。すっかりと日が落ちて暗闇に満たされている。
「ものすごくあほなことを聞くが、本物ではないよな?」
彼女は薄暗い笑みを浮かべながら自分を見つめている。
やっと口を開いたかと思うと
「これをもし他人に言われるとこちら側はものすごく困るんだよ。」
いきなり図書室の電気がすべて消えた。条件反射だった。荷物も持たずに図書室から全力で脱出する。
昨日も今日も命の危機を肌で感じながらの全力ダッシュに不満の一つくらい漏らしたいが今はそれどころじゃない。
廊下に出て気づく。電気が消えたのは図書室のみでなく学校全体だ。暗い廊下は恐怖心を増大させる。
人の気配がない。というか、人の存在が消えている。壁にかかってる時計は9時を指す。
時間の経ち方がおかしい。
やはり疑問しか浮かばないが改めて今はそれどころではない。
「クソっ、ホラー映画で一番嫌いなシーンだ。」
彼女が近づいてくる音は聞こえるのに、後ろを振り返っても姿が見えない。
どこから来るかわからない恐怖。精神がすり減っへてく。だが、頭はまわる。生存本能はこういう感じなのかと実感する。
「こういうときは・・・」
ある目的地に向かう。だがまずは武器が欲しい。
適当な教室に入り、だいだい教台に常備されているカッターを調達する。
足を止めると恐怖が近づいてくる。
また走り始めようとして・・・。
放り込まれたように昨夜見た死に体が教室に入ってくる。恐怖と驚愕で精神状態が限界をこえる。
瞬きを1回
スイッチが切り替わる
こちらを見つけて無我夢中に襲ってくる。しかし、力無く、単調な動きを観察。カッターの刃をむき出しに。
死に体が手を伸ばすタイミングに合わせ右に跳ぶ、続けて左手で持ったカッターっでこめかみを一刺し。
引っかかることもなく、サクッと入り、スッと抜ける、死に体だったものが死体にかわる。
すぐに走り始める。
目的地は広い空間、見渡せるのは奇襲を防ぐにはうってつけだ。
体育館に到着する。電気がつくか確認するが意味のないことだった。
真ん中まで歩き一息つく、図書室からの(厳密にいえば昨夜からだが)怒涛の流れを思い返し・・・。
改めて意味が分からない。そういえばここに来る途中誰か刺殺した気がする。あまり記憶がはっきりしていない。
ゆっくりと彼女が体育館に入ってくる。気が引き締まる。
彼女は宣言する、
「流石にここまで来たら殺すしか他なくなった。」
「・・・・」
彼女が顔を傾げる。
「人が変わったのか?それとも精神が逝ったか?」
彼女は微笑む。
「どちらにしろ人間は弱いな。」
発言からすると人間じゃないのか?人間の姿をした非人間なんて、なんて優しいのだろう。
意味不明でなければ意味がないというのに。その点で言ったらまだゾンビの方が精神を削り取られる。
体育館の入り口から3体の死に体が入ってくる。
彼女はそれを一瞥して、
「そういえば、君この場所にくるまでにあいつらに合わなかったの?」
俺は血の付いたカッターを前に出して、攻撃の意を示す。
「ああ、なるほどね。」
彼女は目線をこちらに向けた状態で後ろ3体の死に体の首を吹っ飛ばした。
そして彼女はこちらに向けて「何か」をした。おそらくゾンビにしたのと同じことだ。
瞬間からだが何かに縛られたような感覚に陥り、身動き一つとれなくなった。
彼女の異質性はこれまでの常識を軽々と塗り替える。自分じゃ手に負えないと感じ、生への執着が薄れていく。
だが、
「気が変わった。」
彼女は何もなかったかのように飄々と言った。
どこからどこに気が変わったのか気になったが、
拘束が緩まる、同時に自分を引き締めなおす。
彼女との距離はおよそ1m。
爆発的な跳躍。
研ぎ澄まされた感覚。
彼女は驚いて一瞬反応が遅れる。
次の瞬間には彼女の腕をぶった切っていた。
そして俺はストレスがかなり溜まっていたらしい、昨夜からの不満をここで全部ぶつけるように
「ざまあみろ」
その後の記憶はない。気が付いたら家のベットで寝ていた。知っている天井だった。
普段どうりに学校に行き、授業を受け、掃除をして、月曜日の放課後に図書室に行くと、
「前にも見た光景だな。」
いつもは誰一人いない空間で足を組み6人掛けのテーブルを1人で座って読書をしている非人間がいた。
「君を待っていたんだ。」
これもまた聞いたことのある言葉。
ずっと気になっていたことを質問する。
「お前名前は?」
「アルブレヒト。アルブレヒト・アーディー。これからよろしく九十九。」
ピッタリな名前だと思った。
金曜日、放課後の図書室で @namejuck
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