壊れた鏡の埋葬


「……システム、同調……っ、拒絶……!?」


アインは目を見開いた。

暴走するゼロを救うため、自らのナノマシンを流し込もうとしたアインの指先を、冷酷な警告音が弾き飛ばす。


組織のボスである博士は、最初から「救済」など想定していなかった。ゼロの体内には、アインの干渉を検知した瞬間に発動する「論理爆弾(ロジックボム)」が仕込まれていたのだ。


崩壊する「写し身」


「ああ……あああああッ!」

ゼロの絶叫が夜の街に響き渡る。

アインと同等の出力を維持し続けたゼロの肉体は、内部から限界を迎えていた。血管が浮き上がり、網膜は過負荷で白濁していく。


鏡合わせの存在だったはずのゼロの体が、ドロドロとしたナノマシンの泥へと崩れ始めていた。


「やめろ……もういい! ゼロ、思考を止めろ! 演算を放棄しろ!」


アインは必死にゼロの肩を掴んだ。だが、プログラムに支配されたゼロの腕は、なおもアインの首を絞めようと、力なく空を彷徨う。

 

「……あ……い……ん……」


ふと、ゼロの瞳に人間らしい光が宿った。それはプログラムの隙間から漏れ出した、彼自身の最初で最後の言葉だった。


「……僕を……消して……。君に……なって、みたかっ……た……」


直後、ゼロの瞳から光が失われた。

過負荷(オーバーフロー)によって脳が完全に焼失し、未完成の天才は、一度も自分の意志で歩むことなく、アインの腕の中で冷たい肉の塊へと変わった。


静寂と怒り


雨音だけが周囲を支配する。

アインの手の中で、かつての自分と同じ顔をした少年が、ただの「機能停止した個体」として転がっている。


その時、アインの視界の端に、通信を強制確立するウィンドウが開いた。


映し出されたのは、ラボから冷笑を浮かべてこちらを見る博士の顔だった。


「見事なデータだったよ、アイン。未完成体でも、お前と並べば一瞬だけ『完成』に近づける。ゼロの死はそのための尊い犠牲だ。さあ、帰ってこい。次の個体が待っている」


「犠牲」という言葉。その響きが、アインの中で鳴り響いていた「Now or Never」のリズムを、真っ黒な殺意へと変質させた。


復讐への誓い


「……博士。聞こえるか」


アインの声から、すべての感情が消えた。それは冷徹な計算機としての声ではなく、地獄の底から響くような死神の声だった。


「お前は、僕たちに知能を与えすぎた。……お前を殺すために必要な手順、その数、31,422手。今、すべてを演算し終えた」


アインはゼロの亡骸から、彼を苦しめ続けた制御チップを無造作に引き抜いた。それを強く握りしめると、粉々に砕け散る。


「僕はもう、エデンの『最高傑作』じゃない。お前の作り上げた文明を、お前の喉元を食いちぎるために研ぎ澄まされた『凶器』だ」


モニター越しに、博士の表情が初めて凍りつく。

アインはゼロの瞳をそっと閉じると、追っ手の群れを見据えた。


「It's Now or Never……。今から、僕の全存在をかけて、お前たちを絶滅させる」


アインの背中から、ナノマシンが黒い翼のように展開される。


それは、失われた「自分自身」へのレクイエムであり、組織の崩壊を告げるカウントダウンの始まりだった。

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真実のホムンクルス 南賀 赤井 @black0655

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