火の強者たる俺が、仕方なくデスゲームに参加させられるなんて!

神炎悠真

第1話 半神、食事中に拉致らる

ローズワット大陸・セシリア帝国


帝国暦1762年、9月1日、晴れ。


帝都の中央広場は水も漏らさぬほどの人出で埋め尽くされていた。

今日は魔王討伐の十周年記念日で、王室が無料で大量の食料を配る日だった。


兜帽を深くかぶり、人混みの片隅に佇む男がいた。

レオ・フェニックス——セシリア帝国が帝国暦1700年以降、初めて誕生させた半神級の火の強者。その実力は、この星が許す上限にまで達していた。


「二百三十年か……やっとここまで来たか」


低くつぶやく声は、喧騒に紛れて誰にも聞こえなかった。

レオ・フェニックスは異世界での名前に過ぎない。

この男の本当の名前は、神炎悠真——かつて練馬区に住む、ただの高校生だった。何らかの因縁で、この世界に転生したのだ。


「魔王も討伐し終え、残りの寿命もあと六十余年。このまま穏やかに余生を過ごそうか」


半神の寿命は三百年。悠真にはまだ十分な時間が残されていた。


街中にあふれる人々の穏やかな笑い声を眺め、悠真の心はこの平和に満たされていた。

露天の店に腰掛け、りんごパイとジュースを注文した。


パイの酥いた生地を噛み締めると、懐かしい味覚が口の中に広がる。


「二百年経っても、この味は変わらないな……」


火の魔法使いとして旅を始めた頃の日々が蘇る。

あの頃の仲間たちは、精霊以外は皆、もうこの世にいないのだが。


「神炎悠真よ、俺のゲームに参加せよ」


機械的な声が、頭の中に突如響き渡った。


「ゲーム? お前は……どうして俺の本名を知っている?」


半神級の強者である自分の精神世界に、誰も干渉できはしないはずだ。

悠真は一瞬で警戒態勢に入った。


「さあ、参加するがいい。お前に拒否する資格はない」


……は?


黒き門が、悠真の足元に突然開かれた。

彼は即座に火の法則の力を纏わせ、その力を打ち消そうと試みた——が、一切の効果を示さなかった。


「この力……神の領域か?」


そう思う瞬間、悠真の体は強い光芒に包まれ、広場の一角から跡形もなく消え去った。


——五分後——


「まったく、客が食べかけでどこへ行っちゃったんだ。会計も済ませずにな」


露天店のピーター店主は、うろたえながら空いた席を眺めていた。

禿げた頭頂に差し込む陽光は、彼の頭を照らしても、心の疑問を晴らしてくれはしなかった。


どうして、食べかけのりんごパイを残して、人が突然消えるんだ?


その頃、光芒の彼方で——


「くそっ……俺のりんごパイ、食べ終わってないぞおお!」


ただ一人の悲鳴が、虚空に響き渡る。


やがて、悠真の意識は遠のいていった。

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