第10章: 新しい日常【中編】
悠斗は、阿部との日常が少しずつ落ち着き、心の中でも自分と向き合う時間が増えていった。阿部がくれた言葉は、悠斗の心に深く響いていた。過去の自分を否定することなく、今の自分を受け入れることが、これからの彼にとって重要だということを、日々実感している。しかし、心の中にはまだ答えが出ていない部分もあり、悠斗は時折そのことに悩むこともあった。
一方、阿部はその変化を温かく見守っていた。悠斗が少しずつ自分の過去を受け入れ、新しい一歩を踏み出していく姿を、阿部は支え続けるつもりだった。しかし、二人の関係には、まだクリアすべき課題が残っていた。それは、悠斗が「モデルとしての自分」をどう向き合わせるかという問題だ。
ある日の放課後、悠斗と阿部は一緒に歩いて帰る途中、ふと立ち止まった。目の前にあるカフェの前に、悠斗の昔のファンのグッズが飾られているのが見えた。そこには、悠斗がかつてモデルとして活動していたときの写真やサイン入りのポスターが並べられていた。悠斗はその場に立ち尽くし、しばらく何も言わなかった。
「悠斗?」阿部が少し心配そうに声をかけた。
悠斗は少し驚いたように顔を上げ、そして静かに答えた。「あれ、僕だよ。昔、よくこうやって撮られてたんだ。」
阿部はその言葉に驚いた様子を見せたが、すぐに優しく微笑んだ。「そうか。でも、今の君の方がもっと素敵だと思うよ。」
その言葉を聞いた悠斗は、胸が温かくなるのを感じた。それでも、過去の自分に対する気持ちは簡単に変わるものではない。悠斗は少しだけ顔をそむけ、そっと歩き出した。
「僕、あの頃の自分がどうしても嫌で…。」悠斗はぽつりと呟いた。
阿部は歩きながらその背中に寄り添い、柔らかく言った。「でも、あの頃の自分があったから、今の悠斗がいるんだよね。モデルとしての君も、今の君も、どちらも大事な一部だと思うよ。」
悠斗はその言葉に、少しだけ自分の中で何かが解けるような感覚を覚えた。阿部が言ってくれる通り、過去を否定することなく、今の自分を大事にすることが大切なんだ。そう思いながらも、悠斗の中ではまだその思いが完全に整理できていないことを感じていた。
その後、二人はさらに歩を進め、いつもの公園に到着した。夕暮れ時、静かな風が吹き抜ける中、悠斗はベンチに腰を下ろし、阿部も隣に座った。
「阿部、僕はやっぱり自分がモデルだったってことを、どうしても受け入れきれない。」悠斗は再び言葉を口にした。「でも、それを受け入れなきゃ、今の自分も本当の意味で向き合えない気がして…。」
阿部は悠斗をじっと見つめ、そして静かに答えた。「悠斗、君がモデルだったこと、そして今もその一部を持っていること、それは君がどうしても隠しきれない部分じゃない。それに、僕は悠斗がどんな姿でも好きだよ。君が素直に向き合えること、それが大事だと思う。」
悠斗はその言葉に、胸がいっぱいになった。阿部の言葉はいつも真摯で、悠斗をしっかりと支えてくれている。だけど、彼が言ってくれることに対して、自分の心の中でどうしても完璧に受け入れきれない部分があった。
「でも、周りの目が気になるんだ。」悠斗は少し顔を伏せながら、言った。「僕が過去のモデルとしての自分を受け入れたとしても、また周りがそのことをどう思うかが怖くて。」
阿部はその言葉を聞いて、少し黙った後にゆっくりと話し始めた。「周りの目を気にする気持ちも分かる。でも、君がどう思っているかが一番大事だと思うよ。周りの目に左右されるのではなく、自分がどう生きていきたいのか、それを大切にしてほしい。」
悠斗はその言葉を深く胸に刻み、少しの間黙っていた。阿部の言う通りだった。どれだけ周囲の目を気にしても、自分が本当にどうしたいのかを大事にしなければ、結局は自分を偽ることになる。それだけは避けたかった。
その日の夜、家に帰った悠斗は、再び昔の写真やSNSのアカウントを開いてみた。昔の自分がモデルとして活動していた頃の写真が並ぶ画面を見つめながら、悠斗はゆっくりとその時期の自分に向き合っていた。
「僕は、あの頃どうしても自分に嘘をついていた。」悠斗はぼんやりと考えた。「でも、あれがあったからこそ、今の僕があるんだよな。」
悠斗はしばらく静かに思い出にふけった後、深く息を吐き、再び自分に言い聞かせるように言った。「今度は、過去を背負ってでも、自分を大切にしていくんだ。」
その時、悠斗は少しだけ心が軽くなった気がした。過去の自分を完全に否定するのではなく、それを受け入れ、今の自分としっかり向き合っていこう。その覚悟がようやく決まったのだ。
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