第9章: 愛の証【中編】
悠斗と阿部の関係は、少しずつ確かなものになりつつあった。二人はお互いに素直に向き合い、過去の不安や恐れを共有しながらも、どんどん絆を深めていっていた。あの日、阿部が告白してくれた言葉が、悠斗の心に強く響いていた。
「これからはお互いにもっと素直に向き合っていこう。」
その言葉を胸に、悠斗は次第に自分の心が開かれていくのを感じていた。そして、阿部に対して「好き」という気持ちがますます強くなっていった。
一方で、悠斗にはまだ一つ気がかりなことがあった。それは、二人の関係が恋愛に進展したことに対しての周囲の反応だ。特に藤田が、二人の関係にどう関わってくるのかが気がかりだった。悠斗は何度もそのことを考え、阿部に伝えようかどうか迷っていた。
ある日、放課後。悠斗は阿部と一緒に帰ろうとしていた。歩きながら、どうしてもその話を切り出さなければならない気がした。
「阿部、ちょっとだけ話があるんだ。」悠斗は急に立ち止まり、少し真剣な顔をした。
阿部はすぐに歩みを止め、悠斗を見つめた。「どうした?」
悠斗は少し息をついてから、ゆっくりと話し始めた。「僕、藤田がどうしても気になるんだ。彼が、僕の過去を知っているから、また何かしてくるんじゃないかと思って…。」
阿部はしばらく黙っていたが、悠斗の顔を見て、優しく答えた。「藤田がどうしてくるか分からないけど、君が何を恐れているのか、僕はちゃんと理解しているよ。でも、僕たちがどう進むかが一番大事だから。」
悠斗はその言葉に安心し、少し肩の力が抜けた。「そうだね。でも、やっぱり怖いんだ。もし何かあったときに、君が僕をどう思うかが心配で…。」
阿部は少し歩きながら、静かに答えた。「悠斗、僕が君をどう思うかなんて、そんなに簡単に変わるわけじゃないよ。君がどんな過去を持っていようと、今の君が僕にとって一番大事なんだから。」
その言葉に、悠斗は胸が締め付けられるような思いを感じた。阿部の気持ちは本当に揺るがない。悠斗はその思いを信じたかったが、それでも過去の自分が邪魔をする。自分の過去を受け入れてくれる阿部に対して、申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。
「でも、僕が本当に君にふさわしいのか、まだ分からないんだ。」悠斗は小さく呟いた。「君がこんなに素敵なのに、僕は…過去に縛られている自分がいる。」
阿部はゆっくりと歩み寄り、悠斗の肩に手を置いた。「悠斗、君がどう思っているのかは分かるけど、僕は君が思っているほど完璧じゃない。僕だって、君に支えてもらっているし、君と一緒にいることで、僕はどんどん成長しているんだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、悠斗は少しだけ心が軽くなった。阿部は自分にとって、何もかも完璧ではない人間だと感じてくれる。それが、悠斗にとってとても大きな支えになった。
「ありがとう、阿部。」悠斗は小さく微笑んだ。「君の言葉で、少し楽になったよ。」
その後、二人は静かな道を歩きながら、しばらく無言で並んで歩いた。悠斗は少しずつ自分の心が整理されていくのを感じ、未来に対する不安も薄れていった。阿部が言ってくれるように、過去に縛られず、今を生きることが大事だと。
その日の夜、悠斗は自分の部屋で少しだけ考えた。過去を恐れず、前に進んでいく覚悟が決まったことを、改めて実感した。しかし、次に問題となるのは、二人の関係を周囲にどう伝えていくかだった。学校でも、二人の関係が知られることになるのは時間の問題だろう。その時、阿部との関係をどんな形で進めていくのか、少しずつ考える必要があると思った。
翌日、学校でのこと。悠斗と阿部がいつも通り一緒にいると、クラスメートたちの視線を感じることが増えていた。何気ない瞬間に、彼らが視線を送ってくるのが分かる。しかし、悠斗はそれに動じることはなかった。阿部と一緒にいることが、今の自分にとって何よりも大事だということを実感していたからだ。
そして、ついにその時が訪れた。
昼休み。クラスの中で、藤田が悠斗に近づいてきた。悠斗はその瞬間、体が固まるのを感じた。藤田がどんな顔をしているのか、目を合わせるのが怖かった。
「お前、どうしたんだ?阿部と一緒にいることが増えてるけど。」藤田が冷ややかな声で言った。
悠斗は少しだけ顔をあげ、冷静に答えた。「何も、変わったことはないよ。」
藤田は悠斗をじっと見つめ、少しだけ笑った。「お前が何をしていようと、俺には関係ないけど、阿部には気をつけた方がいい。お前の過去、知ってるからな。」
その言葉を聞いた瞬間、悠斗の胸は一瞬で冷たくなった。しかし、すぐに阿部の顔が浮かび、悠斗は心の中で決意を固めた。
「僕は、もう過去に縛られない。」悠斗は静かに言った。「阿部には何も隠さないし、君に言われたことも、もう気にしない。」
その言葉に藤田は少しだけ顔をゆがめたが、それ以上は何も言わなかった。悠斗はそのまま、阿部のところへ歩き出した。
阿部が遠くからその様子を見ていた。悠斗が藤田に何か言われていたのを見たが、悠斗が振り返り、無言で歩き出す姿を見て、阿部は軽く微笑んだ。
二人は言葉を交わさなくても、お互いの気持ちを理解していた。そして、これからは過去のことに縛られることなく、二人の新しい未来を一歩一歩進んでいく覚悟を固めた。
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