秘密の姿、君の前で。
藍川陽翔
第1章: 美少女の正体【前編】
悠斗は、毎日がまるで夢の中にいるようだと思う。普通の高校生として生活しているはずなのに、その裏では誰も知らない美少女モデルとしての顔がある。外見は地味で目立たない男子高校生だが、彼のSNSにはフォロワーが何万もいる。彼がモデル業をしていることを知っているのは、親友の真田だけで、それがどれだけ大きな秘密であるかは、悠斗自身が一番理解している。
「今日もまた、学校でバレないように過ごさなきゃ……」
悠斗は朝、鏡を前にため息をついた。髪は少し寝ぐせがついていて、服装もシンプルなものばかり。彼はモデルとしての仕事がある日もあれば、ない日もある。だが、どんな日でも学校での自分の姿は、あくまでも普通の男子高校生だ。モデルの自分とは完全に別の存在。
「また、嫌な予感がするな……」
悠斗は自分を励ますように呟くと、鏡の前で少しだけ姿勢を正し、学校へと向かった。
学校に着くと、すぐに顔見知りのクラスメートたちが悠斗に声をかけてくる。
「おはよう、悠斗!」
「おはよう、今日も元気そうだね。」
その言葉に、悠斗は軽く笑顔を浮かべながら答える。「おはよう、元気だよ。」
だが、心の中はどこか落ち着かない。特に最近、クラスメートの中でも目を引く存在となってきた阿部が、何かと悠斗に接近してくることが多い。阿部はイケメンで、少し冷たい雰囲気を持つが、どこか不思議な魅力を持った男子だ。
悠斗は、自分がモデルであることを知られていないはずだが、阿部の視線がどこか鋭く、悠斗が気になる存在だということを感じさせる。
「悠斗、今日の放課後、ちょっと話したいことがあるんだけど。」
阿部が突然、悠斗に声をかけてきた。悠斗は一瞬驚いたが、何とか冷静を保とうとした。
「え? 何かあったの?」
「ちょっと気になることがあってね。」阿部はそう言って、意味深に微笑んだ。
悠斗はその言葉にドキリとする。阿部が自分に対してどんな意図を持っているのか、まったく分からない。だが、確かなことが一つだけあった。それは、阿部が自分の秘密を知っているかもしれない、という不安だ。
放課後、阿部と2人きりで廊下に立つ悠斗。周囲に誰もいないことを確認すると、阿部はゆっくりと口を開いた。
「君、何か隠してるだろ?」
その一言に、悠斗の心臓が止まりそうになった。息が詰まり、目の前がぼやける。どうして、阿部はそんなことを言ったのだろうか? 思わず視線をそらしながら、悠斗は言葉を選ぶ。
「隠してるって、何を?」
阿部は悠斗をじっと見つめる。冷静で、そしてどこか真剣な眼差しだ。悠斗はその視線を避けることができなかった。
「モデルの仕事、やってるんだろ? 美少女モデルの陽向(ひなた)として。」
その一言で、悠斗の全身が凍りついた。心臓の音が耳鳴りのように響く。どうして、どうして阿部がそれを知っているのか。
「そ、そんなこと……」
「君がどれだけ隠しても、分かるよ。なんとなく、気づいたんだ。」阿部は軽く肩をすくめた。
悠斗はその場で何も言えなかった。言い訳も、否定する言葉も出てこない。心の中では、秘密がバレてしまった恐怖と不安がぐるぐると渦巻いていた。
「君、すごく上手に隠してるけど、完璧に隠せるわけじゃないよね。」
阿部は悠斗に近づき、低い声で続けた。
「でも、安心して。君の秘密を他の人には絶対に言わない。ただ……」阿部は少しだけ間を空けてから言った。「君のこと、もっと知りたい。」
その言葉に、悠斗は息を呑んだ。阿部の目は、ただの好奇心ではないような、どこか深いものを感じさせる。
「知りたい……?」
「うん、君のことを。」阿部は軽く笑いながら答えたが、その笑顔がどこか不安を煽る。
悠斗はその場で立ち尽くし、どう答えるべきか分からなかった。これからどうなるのか、彼には全く見当がつかない。自分の秘密が、阿部にどんな影響を与えるのか、それすらも分からないのだ。
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