第45話
二人で月が照らす夜道を歩く。
会話はなかった。
でも手はしっかり握っていた。
あっという間に自宅に着いてしまう。
もっと一緒にいたい。
「勇凛くん、やっぱり一緒に住もうよ。ここで」
そう言うと、勇凛くんは俯いた。
「実は……俺の新しく住むところはもう用意されてるみたいです」
「え……?」
じゃあ一緒に住めないの……?
やっと夫婦として前に進めると思ったのに。
「そうなんだ……」
そうやって私たちを物理的に離そうとしてくるんだ。
本当に腹が立つ。
「でも、用意されただけです。俺がどこにいるかは俺の自由です」
「うん」
その言葉に安心した。
「でも、今の状況で二人で暮らすのが少し不安になってます」
「……どうして?」
「自分もそうですけど、七海さんにも被害があるので、精神的に全く余裕がないです」
私はそれでも大丈夫だけど……。
勇凛くんはまだ学生。
会社で仕事をすることに慣れるまでは大変だと思う。
私を思いやる余裕なんてきっとない。
ここは自分の気持ちを抑えた方がいい。
「わかった!じゃあ、勇凛くんの心の準備ができるまで待つ!」
勇凛くんの表情が柔らかくなった。
「ありがとうございます」
勇凛くんが私を抱きしめてくれた。
「……七海さん」
「うん」
「いいですか?今日……」
それが何を意味しているかわかった。
「いいよ」
私もそうしたかった。
***
家に入って私たちはすぐにお風呂に入った。
二人で……。
この前はすごく動揺していたのに、勇凛くんから一緒に入ると言いだした。
狭い湯船に二人で浸かる。
勇凛くんの肌が心地よかった。
お風呂の中の勇凛くんは色っぽい。
張り付いた髪。
滴る水滴。
まるで頑張ってきたご褒美のようだ。
でも勇凛くんの表情は曇っている。
「勇凛くん、どうしたの……?」
「……あの人、七海さんのこと好きですよね」
──あの人……?
森川さん!?
いや、そうなんだけど。
「違うよ。私が世話が焼けるから色々してくれるだけだよ」
「好きでもない相手になら、そこまでしないですよ」
なんて言えばいいのか。
「勇凛くん。例えそうだとしても、私はあの人のことを恋愛対象としては見てない」
「……そうだとしても、悔しいんです」
勇凛くんの綺麗な顔が歪む。
「あの人にも、兄さんたちにも俺は敵わない」
勇凛くんのこんな姿、見たくなかった。
こんな思いをさせたくなかった。
どうすればいいんだろう。
私は勇凛くんにキスをした。
「勇凛くん!あの人たちがどうであれ、私にとって一番の男は勇凛くんだよ!」
私の気迫に勇凛くんがやや驚いている。
「年齢も肩書きも関係ない!私が欲しいのはあなたなの!」
風呂の中に大きく響く私の声。
しばらくすると勇凛くんの腕の中に包まれた。
「ありがとうございます」
勇凛くんの表情が優しくなって、嬉しかった。
流石にのぼせそうだ。
「もうそろそろ出ようか」
私が立ちあがろうとすると、腕を掴まれてキスをされた。
深く絡み合う。
私は混乱していた。
勇凛くんがこんなことをしたことに。
心臓がおかしくなりそうだった。
離れたあとに、私は硬直していた。
「すみません……ちょっと今日は余裕がないです」
そう言う勇凛くんの表情は、どこか
お風呂から上がって速攻で布団の上に寝転んだ私たちは、二人の温度だけで溶け合っていた。
この前は受け身だった勇凛くんが別人のように求めてくる。
本当にあれが初めてだったの……?
「七海さん……最低なこと言ってもいいですか?」
「え……?」
「本音を言わせてください」
「うん」
何……?
勇凛くんは深呼吸したあと、呟いた。
「七海に触れていいのは俺だけ。七海に近づく男は許さない。七海は俺だけのもの。」
その瞳が真剣すぎて、息を呑んだ。
「……引きましたか?」
「ううん。嬉しい」
驚いだけど、独占欲剥き出しの勇凛くんも好きだ。
──そのあと
何かが溢れたように、勇凛くんは何度も何度も求めてきては同じ言葉を囁き、私はそのたびにその喜びに浸っていた。
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