第14話

 お風呂を沸かした。


「勇凛くん、お先にどうぞ」

「いや、俺はあとでいいです」

「勇凛くんはお客さんだからいいの!」

「……お客じゃないです」


 気まずい沈黙が流れる。


「勇凛くんに先に入ってほしいの」

「わかりました」


 勇凛くんはどこかで買った着替えを持って脱衣所に入った。

 勇凛くんが入浴中、このあとのことを真剣に考えていた。


 直近のことを……。

 どっちで寝るか全く決められない。

 もっと考えなきゃいけないことは山のようにあるのに、目の前のことで必死だった。


 暫く待ってると、脱衣所のドアが開いた。

 髪が濡れてる勇凛くんが出てきた。

 直視できずに心臓が騒がしかった。


「七海さんありがとうございました」

「ハイ、ドウイタシマシテ」


 余計なことを考えないように私も風呂に入った。

 しかし、湯船に入った瞬間、勇凛くんも入ったと考えると情緒が滅茶苦茶になった。

 急いでシャワーを浴びて風呂から出た。

 恐る恐る脱衣所から部屋を覗くと、勇凛くんがてんつなぎをしていた。


「上がったよ」

「あ、七海さん」


 勇凛くんは私をじっと見ている。


「七海さんって普段こんな感じなんですね」


 グレーのスエットのルームウェア。

 色気のかけらもない。


「そうだよ。私仕事終わったらこんなんだよ」

「親近感があっていいです」


 その時気がついた。

 勇凛くんの服もグレーだった。


「色、お揃いだね」

「はい。二人で同じものを身につけるっていいですよね」


 勇凛くんのほのぼの笑顔に癒されているのも束の間──


「七海さんそろそろ寝ましょう」

「え、まだ10時だけど」

「七海さんは退院したばかりなんですから、まだ休まないといけないんです」


 医者からも、退院後の生活に色々注意はされていた。


「うん。わかった。じゃあ私床に布団敷くね」

「手伝います」


 ベッドの横に布団を敷く。

 やっぱり勇凛くんを床で寝かせることに抵抗感があった。


「勇凛くん、ベッドで寝て」

「何言ってるんですか!」

「だって床に寝かせるの嫌なんだよ」


 そこから押し問答が始まった。

 どちらも一歩も引かない。


「わかりました。じゃあこうしましょう。俺もベッドに寝ます」


 ──まさかの展開。いや、勇凛くんならありえた。でも気が付かなかった。


 勇凛くんと同じ布団の中に入るなんて……

 眠れる訳ない!


「勇凛くん、ごめん、それは緊張する」

「あ、すみません。そうですよね、落ち着かないですよね」


 結局、私がベッドで勇凛くんは床の布団に。


「勇凛くんごめんね」

「いえ……あの、俺やっぱり帰ります」

「え?」

「七海さんに気を使わせてしまうので」


 確かに緊張はするけど、でも……


「勇凛くん、変に気を使うのをお互いやめよう」


 もう他人じゃない。

 私達は結婚してるんだ。

 私は意を決した。


「わかりました」


 その時、勇凛くんが隣に座った。


「一緒にここで寝てください」


 一瞬悩んだけど、私は頷いた。


 ***


 暗闇の中、勇凛くんと同じベッドの中にいる。

 お互い逆方向を向いている。

 なんでこんなに無理をしているだろうか。

 たぶん、一緒にいたいからなのかもしれない。


 勇凛くんは寝ているのだろうか……。

 とても静かだ。

 だんだんと眠気が襲ってきた。

 これなら大丈夫かも……。


「七海さん」

「え?」


 勇凛くん起きてたの?

 その時、後ろから腕が回ってきた。


「好きです」


 驚いて身動きがとれなくなってしまった。

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