第13話

 泊まる。


 そんな、この前知り合った男の子を家に泊めるの?

 この前酔い潰れて勇凛くんの家に泊まったけど。

 シラフでなんか狭い部屋の中はキツイ!!

 いやでも勇凛くんとは夫婦であって、なんの問題もないし、むしろ断るのに違和感もあるし!


 私は深く悩んでいた。


「嫌ならいいですよ。退院したばかりだから、何か手伝えればと思って……」


 捨てられた子犬みたいな顔をしている勇凛くん。


「……いいよ。部屋片付けてくるから、どこかで待っててくれる?」


 勇凛くんの顔が明るくなった。


「はい、待ってます」


 私は複雑な気持ちを抱えたまま、家に戻って部屋を掃除していた。

 どこに勇凛くんを寝かせるか。

 床は申し訳ないし、ベッド譲ると床で寝るだろうし。

 考えても答えが出ない。


 勇凛くんにメッセージを送った。


『待たせてごめんね。準備できたよ』


 するとすぐに返信がきた。


『俺も買い出し終わりました』

「買い出し?」


 なんのことだろうか。

 勇凛くんに電話しようとしたら、インターホンが鳴った。

 ドアを開けると、スーパーの袋を持った勇凛くんが立っていた。


「夕飯を作ろうと思って買ってきたんですけど、いいですか?」

「わざわざありがとう……。勇凛くん料理できるんだね」

「そんなに得意という訳ではないですけど、七海さんの健康のためなら頑張ります」


 健気だ……。

 私もこういう人間だったら今頃おひとり様じゃなかったはず。

 勇凛くんを自宅に上げた。


「七海さんの部屋……七海さんの匂いがします」


 顔が熱くなった。


「七海さんはゆっくりしててください」


 私は促されるまま座った。


「あ、そうだ、これ買ってきたんです」


 勇凛くんはリュックから雑誌を取り出した。


「てんつなぎ??」

「はい。番号順に点をつなぐと、絵とか文字がでてくるんですよ。これも景品があるんです」


 また可愛いイラストの表紙。


「勇凛くんってこういうのが趣味なの?」

「いえ、病院のコンビニにそういう雑誌がたくさんあって。やってみたら面白かったので」


 私のために買ってきてくれたのか。

 優しさが身に染みる。


「ありがとう。勇凛くんはいい子だね」

「……年下扱いしないでください」


 少し不機嫌な顔に。


「ごめんね、これから気をつける」

「いえ、俺はまだ学生で、七海さんを養える金もないんで」

「ううん、学生とか関係ないよ。勇凛くんはそのままで十分だよ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 少し機嫌が治った。

 野菜を切ったり、味噌汁を作ったりしている勇凛くんを横目に、私はてんつなぎをしていた。


「七海さん、できました」


 テーブルに置かれた勇凛くんの料理。

 二人で席につく。


「いただきます」


 手を合わせた。

 味噌汁を飲んでみた。


「美味しい!」

「よかったです」


 勇凛くんみたいな、穏やかで優しい味だった。


「勇凛くんは自炊するの?」

「そうですね。簡単なものですが作ってます」

「勇凛くんはすごいな。私なんてスーパーで買ってきたものばかりだよ」

「じゃあこれからは俺が作らないといけませんね」

「いや、私も作るから」

「七海さんは仕事だけでも大変だからいいんです」

「うん……ありがとう」


 勇凛くんと一緒に暮らすことを真剣に考えた。

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